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木俣マキ シリーズ

女流探偵、フィアンセを探す?

作者: TAMAKI

 ここは木俣探偵事務所。

 助手のおにぎりこと田部くんは、先程よりずっとパソコンと向き合っている。

 そして一方の探偵と言えば――


「あ、メールで依頼が!」

 思わず声をあげた彼氏、すぐに振り返り


「木俣さん、依頼がきましたよ!」


 だが相手ときたら、ソファーの上で


「グォ~ヒュ~、グォ~……」


 この始末。


「もう、うら若きレディが、飲んじゃ寝、飲んじゃ寝って」

 そしてすぐに近寄って、その耳元で


「依頼がきましたよ!」


「うーん。頼むからさあ、もう一寸だけ……」

と、まあごねるマキさんだったが、いきなり飛び起き


「い、い、依頼だって?」


「ええ、メールで」


「おお、依頼てか! いつ以来だ!」


「もはや完全に口癖化してますよね」


「いいじゃん、口癖でも寝癖でも手癖でも。それよか、どんな依頼か見てみようぜ!」




「じゃあ、早速読んでくれ」


 これにメールを開いたおにぎりくん


「じゃあ、いきますよ……山家由衣という、○×市で事務をしている24才の女子です」


「そこは女でいいだろ? ホント今の若い子って、言葉知らないよなあ」


 これに助手、目をぱちくりと


「き、木俣さん。24っていえばタメですよ!」


「おろ? その通りだわさ。ま、いいから先を」


「あ、はい。えっと……ある日、突然姿を消したフィアンセを、どうか探して欲しいのです」


「ふーん。フィアンセかあ」


 そう言いながら木俣さん、首辺りをボリボリ掻いている。


「名前は竹沢たけざわ獅琉しりゅうといい……」


「趙雲子龍みたいだな」


「生年月日は昭和60年、2月10日、水瓶座です」


「だから、その星座っちゅうくだりは要らんって」


「まあまあ」

 その都度ツッコミを入れる、そんな相手をなだめたおにぎりくん


「……会社員で、イケメンで、趣味はサーフィン、特技は開脚前転……もうツッコミはなしで。先に進めませんから」


「御意」


 素直に従う女流探偵。


「……それが昨年の秋に、私の目の前から突然消えてしまって。まるでイリュージョンを観てるかのよう……」

 ここで口をモゴモゴさせてる相手を見て、早口になってきた助手


「何か怖い事件に巻き込まれたのでは? こう考えると夜も眠れません。元気ならば、どこにいるのか、行方を探して欲しいのです。理由は、私の方で直接聞きますので……以上ですね」


 依頼メールを聞き終えた木俣さん、しきりに右手の指を畳んだり伸ばしたり、またケータイなんぞを触ったりしている。と、やがて


「その本人さんって、パソコンの前にいるかな?」


「このメールをよこして間がないのて、画面を見てると思いますよ」


「そか。じゃあ、こう返信してくれ……いくら貢いだ?」


「ちょ、直接的だなあ」


「ならば、キミ流にアレンジしていいし」


「あ、はい。えっと」

 早速、キーを叩きだしたおにぎりくん


「つかぬことをお伺いしますが、竹沢さんにお使いになられたお金の額なんぞをお聞かせていただけますか?」


「まだるっこいなあ、ったく」


 そう言いながら、ハイライトをくわえる愛煙家。だが一方は、大の嫌煙家である。


「火は点けないでくださいよ」


「おぬしは蚊か?」


「ほら、世の中もそうじゃないですか。公的な場では、ちゃんと喫煙所も定められてるし」


「ホント、過ごしにくき世の中に……」


 この時、画面に動きが見られ


「あ、きましたよ!」


「ほな、読んでみ」


「はい。えっと……あげたのは150万くらいかな」


「アッハッハ! キミってさ、余計な神経を使ったな。向こうの方がさばけてるじゃん」


「べ、別にバカ笑いしなくたって」


「でさ、次はこれを聞いてくれ」

 木俣さん、その鋭き顎に指をやり


「……彼氏の名前って本名? 改名したって話、聞いてる?」


 思わぬ内容に、今度はおにぎりくんが顎に手をやっている。が、これがなかなか収まらない。


「ギャッハッハ! 顎ないくせに、真似すんなって」




 やがて、おにぎりくんの質問への回答が届いた。


「本名だと、本人が言ってましたから。もちろん、改名なんて聞いたこともないです」


「そか。じゃあ、こう返してくれ」

 女流探偵、少々考えたあと


「そいつにあんたは騙された」


「へ?」


 この驚く助手をも気にかけず


「己の意志でトンズラした者なんて、探し当てるのは困難。だから、依頼はお断りします」


「ちょ、ちょっと! 送るのはいいですけど、断る理由くらい教えてくださいよ」


 相手の注意を引き付けたところで、澄ましてライターを鳴らす悪いやつ。


「あのさあ、まず昭和60年って1985年なんだ」


「それが?」


「でさ、獅琉って名前が珍しいなって。今ではキラキラネームなんて、どこもかしこもだけど。当時とすれば、この名前って斬新すぎね?」


「言われてみれは、確かに」


「でさ、さっきケータイで調べたら、『琉』って字が人名用漢字に採用されたのが1997年なんだ。そして『獅』にいたっては、何とこれが2004年、つまり今世紀になってからだ。片方だけでもNGなのに、両方ともとは、ね」


「ん?」

 いきなりの話に首を傾げて、逆三角形になったおにぎりくん。

 やがて


「ということは、親が付けた名前でも役所が受け付けてくれない?」


「そういうこと。ましてや彼氏、改名の一言も彼女には告げてない……すなわち、故意に真の名を隠していたと思われるね」


「なるほど。だから、さっきお断りしろって」


「そんなやつ、いつまでも追いかけるべきじゃないしね。ま、今回はいい勉強になったということで」


「わかりました。じゃあ、早速打ちますよ」


 おにぎりくんがメールを返している間、傍らの鏡を覗きこんでる木俣さん。そして恒例の


「木俣だけに、キマッタ! イェイ!」


――可哀想な鏡さん、そのヒビがさらに広がっている。




☆実は身近な人から聞いた事実に触発され、書いたものです。ちなみに、その方の親御さんが付けたかった名前は沙織。でも、この『沙』が受け付けてもらえなかったそうです。

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