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ミズキとリディアのお仕事


 家に戻ってくると、玄関には見知らぬ黒いクツがありました。

 多分、お姉ちゃんのお客さんだと思います。


「それじゃ、いつも通り頼んだよ」

「期限は――あ、おかえりなさいミズキ」

「た、ただいま」


 クツを脱いで家に上がると、ちょうどリビングの方から知らない男の人とお姉ちゃんが出てきた。

 男の人は黒い髪を全部うしろにしていて、左のほっぺには傷みたいのがあります。

 学校の制服みたいな黒い洋服を着ていて、腰にはカードを入れる銀色のケースがぶら下がっています。

 多分、召喚士の人だと思う。


「おや、妹さんかな。こんにちは」

「こ、こんにちは」


 メフィさんと同じような赤い目。

 でも。

 この男の人の目はメフィさんと比べて、何故かすごく怖い感じがします。


「失礼するよ」

「ええ。期限日までには仕上げておくわね」

「それじゃ。またね、小さな召喚士見習いさん」

「は、はい」


 それだけ言って、男の人は帰っていきました。


「少し怖い顔してるけど、いい人よ」

「え、うん……別に怖がってないもん」

「ふふ、緊張してただけ?」

「びっくりしただけ。いきなり出てきたから……」

「そうね。びっくりしただけよね」

「むう」


 またイジワルモードになってる。


「それより今日はどうしたのかしら、帰りが遅かったみたいだけど」

「えっと……ちょっとエリーちゃんとお話ししてて」

「ウソはダメよ?」


 うう、バレてる。


「ごめんなさい。メフィさんとお話ししてました」

「メフィと――」


 うう、怒られる。


「そう。あんまり遅くなると心配しちゃうから、今度からは一旦帰ってきてから行くのよ?」


 え?


「怒らないの?」

「どうして?」

「だってメフィさんはイカガワシイお店の人だから近付いちゃダメだって」

「ダメって言っても、ミズキは悪い子だから守らないでしょ?」

「むう……だってメフィさんはいい人だもん」

「そうね。ミズキがそう思ったなら、お姉ちゃんはもうなにも言わないわ」


 そう言って笑うと、お姉ちゃんは優しく頭を撫でてくれる。


「いいの?」

「ミズキがいい人だって言うなら、メフィはお姉ちゃんが思ってるよりもずっといい人なのよ、きっとね」

「うん!」

「ふふ、それじゃ手を洗ってきてちょうだい。ミズキに手伝って欲しいことがあるの。いいかしら?」

「うん。なんでもする!」

「ありがとう」


 もう一度お姉ちゃんに撫でてもらってから、私は洗面所へ向かった。


 お姉ちゃんのお仕事は、修復屋さんです。

 傷付いたり、破れてしまったりしたサモンカードを直すのがお仕事の内容です。


「ミズキ、この子を治癒液(ケアリー)に浸けておいてくれる?」

「はーい」


 リビングのとなりの部屋がお姉ちゃんの仕事場です。

 治癒液という、うすい緑色のキレイな液体はクスリのような臭いがして少しだけクサく、最初の頃はキライでした。

 そんな臭いでいっぱいのこの部屋も苦手でしたが、いまではすっかりと慣れてきました。


「お姉ちゃん。浸けてきたけど、あのカードも直せるの?」


 いままでもいろいろな状態のカードを見てきましたが、 真っ二つに切れてしまったカードは初めて見ました。


「そうよ。カードはあくまでも媒介の役割で――て、少しだけ難しいかな?」

「う、うん」

「そうねえ……カードは召喚するモノが出てくる扉みたいなもの、かな」

「トビラ?」

「そうよ。召喚獣たちはね、決められた扉からでないと出て来れないの」

「じゃあ、扉を直せばまた出て来れるの?」

「うん。だから破れたりしてても、それを直してあげればまた出て来れるようになるのよ」


 知らなかった。

 明日、エリーちゃんにも教えてあげよう。


「ふう――そろそろキリもいいし、夜ご飯にしましょうか」

「うんっ」

「とは言っても、これから作るんだけどね。ミズキはなにか食べたいもの、ある?」

「うーんと――」


 なんだろう?

 好きだけど、シチューは朝とお昼にも食べたしな。

 それじゃあ。


「ハンバーグ!」

「ふふ、ミズキは本当にシチューとハンバーグが好きなのね」

「うん。でもね、シチューは誰が作ってくれても大好きだけど、ハンバーグはお姉ちゃんの作ったのじゃなきゃイヤなの」

「ん、どうして?」

「お袋の味だからっ!」

「え、ミズキ、そんな言葉をどこで覚えてきたの?」

「食堂のおばちゃんが言ってたんだよ」


 食堂でハンバーグを食べたとき。

 あんまり美味しくなかったっておばちゃんに言ったら、「お袋の味には敵わなかったか」って言っていた。


「あら、おばさんはまだあそこで働いているの?」

「うん。お姉ちゃんもおばちゃんの料理、食べたことあるの?」

「ええ。養成校に通っていた時はね、毎日お世話になってたわ」

「シチューは食べたの?」

「食べたわよ。それにね、私のシチューはおじさんのレシピを参考にして作ってるのよ」

「おじさん?」

「あら、会ったことないの?」


 おばちゃんと召喚獣のメイキャッツしか見たことはないし、そんな話も聞いたことがありません。


「メイキャッツなら見たことあるよ」

「メイキャッツって、あのメイキャッツかしら?」

「うん」


 人と同じくらいの大きさで、二本の後ろ足で立つ、あのメイキャッツ。


「そうなの……」

「お姉ちゃん?」

「ううん、ごめんね。それよりも早くハンバーグ、作ろっか」

「うん!」


 一瞬だけお姉ちゃんの顔が暗くなったように見えたけど、すぐに笑顔になってくれたし、見間違いだったのかな。

 それよりも、いまはハンバーグだ。



 ◇



 洗面所の向かいにあるお風呂から出て自分の部屋に行くと、カバンの中にしまったままのカードケースを取り出した。

 お姉ちゃんが昔使っていた物をもらったんだけど、表面のヒンヤリとした銀色の金属は新品のように傷ひとつない。

 フタになってる黒い革を上に開けて、中に収まってるカードを青いじゅうたんの上に広げた。


「……四、五」


 今日だけで四枚も増えたカードたちを並べてから、ゆっくりと一枚一枚眺めてみる。

 暗い背景に浮かんでいるように描かれてる鉄剣のカード。

 葉っぱを巻き上げてる様子が描かれてる風の妖精のカード。

 小さな火の玉に黄色い目が点のように描かれてるファーボのカード。

 森の中にキラキラと輝く紫色の池のような絵が描かれてる、メフィさんからもらったアンポンタンのカード。

 そして。

 気付いたら持っていた、なにも描かれていない真っ白なカード。


「このカードはなんなんだろうな」


 お姉ちゃんは「なにかが封印されてはいる」と言ってたけど。

 姿写型、付与型、具現型の三つ全ての召喚方法を試してみたけど。

 でも。

 なにも起こらなかった。


「うーん」


 まあでも、いっか。

 そのうちに、なにかわかるよね。


「ふわあ……」


 眠くなってきたし、今日はもう寝よう。

 明日も早い――て、明日は学校お休みだけど。

 あ。

 そーいえば、明日はエリーちゃんと山の方へ行く約束してたんだ。

 それじゃ、ますます寝ないとね。


「ふわあ……おやすみぃ」

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