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ミズキといつもの朝

「ほらミズキ、朝よ」


 体が揺れてる。

 地震かな?


「もう。遅刻してもしりませんよ?」


 違う。

 この声はリディアお姉ちゃんのだ。

 ということは、もう朝なんだ。

 起きなきゃな。


「ううん……起きてるよぉ」

「ちゃんと体ごと起きてないと、起きたとは言いません」

「むう」

「いいのかな?」


 ん?

 

「今朝はミズキの大好きなシチューよ?」

「シチュー?!」

「ふふ、おはよ」

「早くシチュー食べたい!」

「もう。その前に顔、洗ってきちゃってね。シチューは逃げないんだから」

「はーい」


 ベッドから飛び降り、部屋を出て、洗面台のある一階まで階段を駆け降りる。

 私には少しだけ高く感じられる段差の階段を下った先を左に曲がる。

 お風呂場の前にある洗面台に辿り着いた私はそのまま蛇口を捻って水を出し、手で作った受け皿に水を溜める。

 ちょっと冷たいけど、寝ボケた頭を起こすにはちょうどいいかも。


「ちゃーんと歯も磨くのよ?」

「はーい」


 バシャバシャ。

 うう、やっぱり冷たい。


 お姉ちゃんの言付け通り、歯をピカピカにしてからリビングに向かう。

 木の四角いテーブルの上には白い湯気を立てるシチュー皿がふたつ。

 パアッと明るい窓側に置かれたお皿よりも一回り大きいお皿がお姉ちゃんの分。

 私よりも体が大きいからいっぱいに食べるのはわかってるけど、やっぱりちょっとズルい、かも。


「さ、早く食べましょう」

「はーい」


 お姉ちゃんと向かい合った位置に座る。


「いただきます」

「いただきまーす」


 挨拶を忘れてて、お姉ちゃんよりも少しだけ遅れてしまった。

 お姉ちゃんがクスクスと笑う。


「忘れてたわけじゃないもん」

「ふふ。何も言ってないけど?」


 時々お姉ちゃんは、ちょっぴりイジワルになります。


「熱いと思うから、ちゃんとフーフーしてから食べるのよ?」

「もう……それくらいわかってるよ」

「そうだったわね。ミズキはもうお姉さんだもんね」

「むう」


 やっぱりお姉ちゃんはイジワルです。


 よく友達から「似てないね」と言われてしまいます。

 お姉ちゃんは金色なのに、私の髪が青いからだと思う。

 それに目の色も違います。

 私は黒で、お姉ちゃんは緑色。

 でも。

 私にとってはお姉ちゃんはお姉ちゃんで、お姉ちゃんも私のことを妹だと言ってくれる。

 だから、今ではあまり気になってはいません。


 ごちそうさまをしてから自分の部屋まで戻ってくる。

 少し前まではここからお姉ちゃんのお手伝いをしていたのだけど、いまや私も立派な召喚士見習いです。

 パジャマから制服に着替えて、学校へ行かなければなりません。

 まずは白いシャツを着て、次に黒いスカートを履く。

 水色のリボン――はお姉ちゃんに結んでもらうとして、黒い上着を着たらお着替え完了。

 最後に髪をとかして、お気に入りの白い髪留めで後ろの毛を少しだけ斜め上の場所で結わけば、準備は万端。


「よし」


 教科書の入った学校のカバンを持って部屋を出――る前に、制服のリボンも取って今度こそ、部屋を出る。

 落っこちそうになりながら階段を降りて行くと、下ではお姉ちゃんが待っててくれました。


「お姉ちゃん」

「はいはい。リボンね」


 上着を少しだけ脱いで、シャツの襟を立てる。

 はやく自分でも結べるようになろう。


「学校は楽しい?」

「うん。友達もいるし、先生――はたまに怖いけど」

「ふふ、リビトス先生のこと?」

「え、先生のこと知ってるの?」

「私もね、リビトス先生に召喚術を教えてもらったのよ」

「えー、お姉ちゃんもそうなの?」

「そうよ」


 知らなかった。

 なんでだろう、ちょっと嬉しい。


「はい。出来たわよ」

「お姉ちゃん、ありがとう」

「いいえ。ふふ、今日も可愛いわよ」

「えへへ……じゃ、行ってきます」

「うん。気を付けていってらっしゃい」

「はーい」


 私もいつか「カワイイ」じゃなくて、お姉ちゃんみたいに「キレイ」って言われたいな。




 ◇




 学校までは歩いて十五分くらいだと、お姉ちゃんは言ってました。

 家を出て最初に見えてくるのは噴水のある大きな広場。

 みんなは「噴水広場」と言ってます。

 そのままです。

 噴水広場を抜けると、次はお店屋さん通りに差し掛かります。

 お馬さんがよく引いている荷馬車のような見た目のお店が、たくさん赤い石の道に沿って並んでいて、いつも多勢の人で賑わっています。


「おやミズキちゃん、今から学校かい?」

「あ、イカガワシイお店屋さん」

「あのね、変な言い掛かりをつけるのはやめて。営業妨害だから」


 この難しい言葉を使って喋ってきている人は、お姉ちゃんが「イカガワシイお店だから近づいちゃダメ」と言っていたお店屋さんをしている女の人。

 確か名前は――そう、メフィさん。

 いつも紫色の布を頭から被ってる怪しい人です。


「エイギョウボウガイって、なんですか?」

「簡単に言えばね、お店の邪魔をするってことなの。ね、イケナイことでしょ?」

「うん」

「全く、あんたのお姉さんには困ったものよね」

「なんでお姉ちゃんなの?」

「うーん……て、ほら学校、遅刻するわよ?」

「あっ――それじゃあね、イカガワシイお店屋さん」

「イカガワシくないってのー!」


 やっぱり変な人です。


 少しだけ坂になっているお店屋さん通りを抜ければ、学校が見えてきます。

 私のお家よりも、ここまで来る時に見たどのお家よりも大きな建物です。

 学校をぐるっと回っている鉄の柵はキレイな銀色で、学校に入るための門も同じように銀色に輝いています。

 門をくぐってからも、学校の中に入るまでは少しだけ芝生が囲んでいる道を歩かなくてはいけません。


「ミズキちゃん、おはよう」

「あ、エリーちゃん」


 いま声を掛けてくれたのはエリーちゃん。

 私の友達で、同じクラスの女の子です。

 赤いクルクルの髪の毛がフンワリとしていて、エリーちゃんのおっとりとした感じにピッタリの、すごくカワイイ子です。


「えへへ、見て見てー」

「うわあ、すごいね。これ、サモンカードでしょう?」

「お父さんに貰ったんだ」


 エリーちゃんが見せてきたカードには、白くて小さいモコモコの丸が幾つも描かれています。

 絵の下には、大昔の人たちが使っていたらしいカクカクとした文字が書かれているけど、私にはまだ読めません。


「なんて名前のカードなの?」

「えーっとぉ確か、お父さんはスノーなんとかって、言っていた気がする」

「へえ……でもすごいよっ、自分のサモンカード持ってるのって多分、エリーちゃんしかいないんじゃないの?」

「えへへ、そうかな?」

「いいなあ」

「あ、でもミズキちゃんも持ってるよね?」

「え、あ、うん……」


 カバンの中にしまってあるカードを思い浮かべてみるけど、そのカードは真っ白。

 文字も絵も、なにもない真っ白なカード。

 誰からもらったかも分からない、気付いたら持っていた私のカード。


「でもあれ、何の絵も描かれてないんだよ?」

「うーん。それってアンサモンカードっていう物じゃないのかな?」

「ううん。お姉ちゃんは違うって」

「そっかー。なんか不思議だね」

「うん……それより、遅刻しちゃうよっ」

「あ、急ごうミズキちゃんっ」


 黒い屋根の上に見えていた鐘の音が聞こえるなか、私たちは走り出した。

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