ミズキと一枚のカード
そこは――海。
そこは――空。
そこは――世界の上。
そこは――世の中を見下ろす場所。
気付いたら。
ううん。
分かってた。
私の――水畑喜子の命が失われた次の瞬間だった。
目が覚めたら、ここにいた。
今でも生きてる感覚はある。
さっきから髪を乱暴に扱ってくる風の音も、毛先が顔に当たってる感覚もちゃんとある。
私はまだ生きてる。
けど。
水畑喜子は死んでる。
おかしな感覚だけど、私は生きてる。
「ようやくお目覚めかしら?」
声がする。
この場所みたいにキレイで、とっても不思議な声。
「まだ寝ボケてるの?」
ううん。
首を振る。
「なら、大事な質問をしてもいいかしら?」
うん。
頷く。
「あなたは誰?」
答えられない。
だって私は水畑喜子じゃないから。
なら。
私は誰?
「答えられない?」
うん。
頷く。
「そう」
怒ってる?
ううん。
少しだけ残念そうな声。
「それなら。あなたが誰なのか、私が決めてもいいかしら?」
うん。
頷く。
「本当にいいの?」
うん。
だって。
私はもう誰でもないから。
「後悔しない?」
うん。
だって。
水畑喜子はもういないから。
「わかったわ」
悲しいの?
ううん。
少しだけ嬉しそう。
「あなたは今から――ミズキよ」
ミズキ?
それが私の名前?
うん。
頷く。
「それじゃミズキ、あなたにこれを差し上げますね」
カードだ。
キラキラしてる。
キレイ。
トランプよりも少しだけ大きくて、少しだけ厚みがある。
「さあミズキ、新しい人生の始まりですよ」
体の感覚がなくなってくる。
何も見えなくなってくる。
何も――考えられなくなった。
文字数が少ないのは仕様です。
お使いのPC又はスマホやケータイは正常です。
次回からは文量を増やしていきますので、あしからず。