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6.神様と王様




地球上の多くを占める海。

その奥深く裏側に、吸血鬼の世界が存在する。


人間と吸血鬼は同じ世界に存在していること、それを知る人間はごく一部だった。



吸血鬼。

血を吸うことで生命力と超力を得る生物。

実は、その大半が人間の血ではなく馬やシカなどの血を吸うということはもちろん知らないだろう。


他の血肉を吸った動物の血は強力過ぎて毒でもあるらしい。

飲めばその血の強さに負けて、死んでしまうこともざらだとか。

だから草食の生物の血を吸う吸血鬼が大半だ。



そんな中で、唯一最も力も毒も強い血の力を持つのは人間で。

しかし、その血を吸うことのできる存在が一世代で一人だけいる。

それが鬼王様で、吸血鬼を統べる唯一絶対の条件を持った存在。



人間と歴代の鬼王様は、お互いの利害を一致させるために契約を結んだ。


個々では無力な人間達を他世界や異能力から守るという約束。

臆病な人間を恐怖心から守るために、吸血鬼の存在を秘するという約束。

そして、守ってもらう代わりに鬼王様に生け贄を1人捧げるという約束。



そうしてこの世界は回ってきた。

もう数千年も前からの話だ。




「ん…、んっ」



そんなこの世界の常識をひたすらに流し込まれ続ける私。

首から血を吸われた後は、肩から吸われ、お腹からも吸われて、現在太ももから吸われている。


全身歯形だらけで、色んな場所から血を吸われる度に多くの情報を流し込まれる。

どうやらそうやって全身に意識を流し込んで分からせるというのが吸血鬼のやり方らしい。


海の底のさらに底とは分からないほど明るい空間で、私はひたすら血を吸われ続ける。

いい加減干からびるのではないかと思うのだけれど、不思議なことにそうはならない。




「もうお前は俺に従属してる身だからな。俺に都合の良い体に変わってきてるんだよ」



私の心を読んだかのように鬼王様がそう仰った。

いや、実際鬼王様と意識を共有している私の心なんてとっくに晒されている。今さらの話だ。



「良いからお前は集中しろ。お前の主は誰だ」



咎めるように鬼王様は仰る。

「ん」と、勝手に漏れてしまう声を何とか抑えて私は口を開く。



「鬼王様、です」


「名前で呼べ」


「ん、楓、さま」



そうして日々、私は楓様と過ごしていた。

まさかこんなことになるとは、人生分からない。


人間として死に、楓様の糧として生きる私の日常は血を与え続け、ドロドロ甘やかされるばかりで。




「好き、です。楓様」


「ああ、俺も愛してる」


「えへへ」



人間として生きてきた私にとって、この光景が常軌を逸してるのは分かってる。


けれど、あの“先生”にいつだって気持ちを伝えられる。

伝えた気持ちを受け取ってくれるばかりか返してくれる。

その事実がたまらなく嬉しくて、他などどうでもよかった。




「全く。お前をこんな目に合わせる気はなかったんだがな。吸血衝動抑えてる時に飛び込んで来やがって」


「う、ん?」


「…好きだ。ずっと好きだった。お前だけが俺をこんなに好きと言ってくれた……もう、一生閉じ込めるからな」


「はい…お好きに、どうぞ」



楓様には楓様なりの事情があるらしい。

吸血鬼の世界に来てから真っ白なこの部屋に閉じ込められ楓様以外に一切会わないから、詳しくは分からない。


けれど、楓様もどうやらあまり愛には恵まれなかったのだろうと、それくらいは推察できた。



ならば、私が愛を伝え続けようと思う。

どんなことがあっても、傍で楓様だけを見ていようと思う。




「じゃあ行ってくるから大人しくしてろ」


「はい。行ってらっしゃい」




今日も公務に出かけるという楓様をベッドの中から送り出す。


鬼王様で、絶大な力を持っていて、皆を統べる楓様。



そんな彼に絶大な力を与える私が、吸血鬼の世界で神として崇められているなど知るよしもなく。


王様と神様の恋物語として語られていることなど知るはずもなく。




今日も私は幸せな気分のまま、眠りについた。







読んでいただきありがとうございました。

このあと楓視点前後編の番外を載せる予定です。

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