初めてのお使い
「良し、そこまで!今日の早朝訓練は此にて終了だ」
「了解!」
転生して初めての剣術を終えた翌日の今日は、ジャックから弓術を習っていた。
「剣と違って弓はそこそこってところだな」
「もしかして弓の才能ないのかな?」
弓術に対して、余り手応えを感じることが出来なかったサミュエルは少し不安そうにジャックに訪ねる。
「いや、そんな事はなかったぞ。初めてにしては及第点って感じだな」
「良かったぁ。なかなか的に当たらなかったから弓の才能が無いのかと思った」
実際20mほど離れた場所から約五十本放ったのだが直径50㎝の的に命中したのは僅か五本だった。しかも的の端に辛うじて当たったといった具合の為自分には弓の才能が無いのではと不安に思っていたのだ。
そんなサミュエルの言葉を聞き、笑いながらジャックは言う。
「はははっ!大丈夫、そんなに悪くはなかったぞ。最初から的の中央にバンバン命中させるやつなんていないさ」
「う~ん、でもせめてもうちょっとは当てられると思ってたんだけど」
「なぁに、此れから少しずつ命中率も上がってくるさ。大事なのは訓練を継続する事だ。それじゃあ俺はギルドに行って何か良い依頼がないか見てくる………っと、そう言えばヴェロニカがサミーに頼みたい事があるって行ってたぞ」
「頼みたい事?」
ヴェロニカから自分に頼みたい事とは何だろうとジャックに聞くが、俺も知らないからヴェロニカのとこに行って聞いてこいとサミュエルに言う。
「うん分かった。それじゃ行ってらっしゃい!」
「おう!行ってくる」
サミュエルに送りだされ笑顔でギルドに出発したジャック。
そしてサミュエルは母親のヴェロニカがいるリビングへ庭から家の中に入っていく。
「お母さん訓練、只今終了しましたぁ」
「あら、サミーちゃん。訓練お疲れ様。」
自衛隊員のような口調でヴェロニカに報告する。
そしてヴェロニカは他人から見たら妖艶なといった表現が相応しい笑みでサミュエルを労う。
尤もサミュエルからしたらもう七年も一緒にいるため今日もご機嫌だなぁとしか思わないが。
「頼みたい事って何?」
これまでヴェロニカが自分に何かしてくれと頼んできたことが殆んど無い為、疑問に思いながら聞いてみるサミュエル。
「この家を出て左に真っ直ぐ行ったところにある道具屋さんに怪我を治す効果のあるポーションがあるから、それを買ってきて欲しいの」
「お母さん怪我したの!?」
治癒効果のあるポーションを買って来て欲しいと言う言葉に怪我をしたのかと、大丈夫なのかと目を見開き訪ねる。
「ジャックが使ったからストックが無いのよ」
「そういう事か、了解しました!」
ヴェロニカの言葉を聞き落ち着いたようで、今日は弓の練習をしたために<狙撃という意味で>自衛隊員のノリに戻った口調で返すサミュエル。
そしてヴェロニカは銀貨三枚を手渡し、ポーションを三つ買って来てねと声をかけサミュエルを送り出す。
そしてそういえば転生して一度も自分の家の敷地内から出てないなと考えながら出発した。
(結構人が多いな…………ここってどれくらいの大きさの街なんだろう。そういえば以前お母さんがこの街の住民は人口一万人ぐらいが住む中規模の町だって言ってたっけ)
グレートアース<偉大なる大地>と呼ばれるこの世界の中でも中規模の大きくもなく小さくもなくといった街で、名をブリッツという。
(っていうか言語の習得や魔法の訓練に集中し過ぎてこの世界のこと、グレートアースの世情の事とかスコーンと頭から抜けてたな。このままじゃ駄目だな、ちゃんと勉強しないと)
街並みを眺め、今までの事を反省しながら道具屋へと歩を進める。
すると目の前に人だかりが出来ている事に気付いた。
(何だろう、見世物でもやってるのかな)
何か娯楽でもあるのかと考えながら人波を掻き分けていくサミュエル。
すると二十代ほどの一見、冒険者風といった男三人が十代後半と思われるこれまた冒険者風の男に大声で凄んでいた。
(喧嘩だろうか…………。でも三対一って………卑怯過ぎだるだろ)
大声で凄んでいる男達は全員、革鎧に大きめのアックスを装備している。そしてその三人に詰め寄られている男は同じ革鎧だが胸と腕の一部分は鉄で覆われている鎧で、普通のロングソードを装備している。
(何でこんな人の行き来の多い往来で争ってるんだ。三人で一人に凄むとか恥ずかしいとは思わないのだろうか)
そんな風に考えながら事の成り行きを見守っていると、三人の男達がまた声をあらげて十代後半の男に向け喋りだした。
「テメーが良い依頼ばかりを取るから俺達の財布が寂しくなってるんだ!さっさと金を出せ!!」
「そうだ!自分ばかり美味しい思いをするなんて他の奴等に悪いとは思わねぇのか!!」
「金を出しゃあ、許してやるって言ってんだ!さっさと出しやがれ!!」
どうやら自分等の収入が少ないのはお前のせいなのだから金を差し出せば許してやると理不尽な要求をしているようだ。
確かに一人だけ良い依頼ばかりを取るのはずるいと思うかもしれない。しかし依頼は冒険者ギルドの中に設置されてある依頼ボードと呼ばれる所に早朝に張り出される為朝早く出向き依頼を確認し報酬の高さや達成しやすい依頼を我先に、と取ることは別になんら問題のあることではないしむしろ平等なのだが。
「さっきから言ってるが…………。お前らのランクはDだろ、そして俺のランクはCだ…………。俺はランクCの依頼しか請けていない、よって俺はお前らの言う、請ける事の出来るランクDの″良い依頼″は取ってない。だからお前らに謝罪する必要も金を出す必要も無い」
冷静な口調で返す十代後半の冒険者。
冒険者の請ける事の出来る依頼は自分のランクまでなので冷静な口調で返答する冒険者の言う通りなのだ。
そして要するにこの喚き散らしている三人の冒険者が数にものをいわせて金を奪い取ろうとしているのだと理解したサミュエルは大きな声を出し笑い始めた。
「あははははははっ、ちょっと待ってそれって…ただ稼ぎのいい、しかも自分達より若い冒険者から金を脅し取ろうとしているだけじゃん……くっ……くっははははははっあっはははぁはっ」
サミュエルの笑いながらの突っ込みにこの言い争いを見守っていた一般の人達も声を出し笑い始めた。そして自分達がこの人だかりに笑い者にされる原因を作ったサミュエルに大きめのアックスを構え顔を赤くし「殺すぞ糞ガキっ」と叫ぶ三人の冒険者。
その瞬間さっきまで冷静な表情だった冒険者の男が「子供に武器を向けんじゃねぇ」と怒鳴り素早く剣を抜きサミュエルから一番遠い位置にいる冒険者に向かい走りよった。
そしてサミュエルも………………。
「出でよゴーレム!」
そう叫ぶと、十代後半の冒険者がアックスを構えた冒険者の柄を剣で下にいきよいよく叩き落とす間に青銅製の鎧を装備し、同じく青銅製のロングソードを手に持ったゴーレムを二体出現させた。
「ゴーレムよ!その情けない冒険者、二人を無力化せよ!!」
そしてアックスを構えた一人を無力化させた十代後半の冒険者が残り二人に目を向けた、その時には全長150㎝から160㎝位の青銅製のゴーレムが残りの冒険者を無力化していた。
初陣的な感じです。
戦闘シーンって文字にしようとするとこんなに難しいものなんですね…………。
まぁ自分の場合、戦闘シーンだけでなく日常生活の描写も下手くそなんですが…………………。




