宴
「ちょっと待って!…………本当に倒したの?」
「冗談でしょ?」
「…………しかも三体だなんて…………」
驚いた様子で、サミュエル達三人を見つめる女性冒険者達。ミレーユに何度説明されても、やはり簡単には信じられないのだろう。
そんな女性冒険者達を見て、サミュエルはこのままじゃ埒があかない、と考えると収納していたワイバーンの尻尾を三本取り出し見せる。
すると、それを見た女性冒険者達が、今まで以上に驚きの声を上げる。
「嘘……嘘でしょ!?」
「そんな!………………ランクBの冒険者パーティーでも複数のワイバーンを相手に戦うのは無理なのに!」
「私達でも一体が………精一杯なのよ!なのに……それなのにランクCの冒険者が………」
取り乱す女性冒険者達を見て、サミュエルは笑みを浮かべながら、優しく声を掛ける。
「運が良かったんですよ。それに三体同時に戦った訳じゃありませんしね。…………それはそうと、俺達は村に帰りますけど。……お三方はどうするんですか?」
サミュエルに話し掛けられ一瞬、ビクッと体を震わせる女性冒険者達。だが少し冷静になれたのか、一人の女性がサミュエルの質問に答える。
「え、ええ。私達も村に戻るわ」
「それじゃあ、村まで一緒に帰りましょう」
「さっさと行くぞ、サミュエル。俺は酒が飲みたいんだ」
「はははっ。分かってるよ、俺も飲みたいんだし。ちゃっちゃと戻ろう!」
サミュエルの発した言葉に、ミレーユとカトナーが頷くと、エフォールの三人は村へと進み出す。
そしてその後ろに続いて村へと歩を進める女性冒険者達。その女性冒険者達が村へと歩を進めながら、サミュエル達に自己紹介をする。
「えっと、まだ名前も名乗ってなかったわね。……私の名前は、デボラよ。よろしくね。因みに私達のパーティー名はベラドンナよ!結構有名なのよ私達」
「私はエイダよ」
「コリーンよ。よろしく」
ベラドンナというパーティーは実際に、この国ではそこそこ有名だ。三人とも優れた容姿を持ち、姉御肌の三人は良い意味で目立っている。しかも、パーティーリーダーであるデボラは、ランクBと高いランクの冒険者で、 彼女を慕う女性冒険者は大勢いたりする。
そんなベラドンナの三人にサミュエルが、相手が名乗るのなら自分も名乗らなければならない、と考え自己紹介をする。そしてそんなサミュエルに習ってミレーユとカトナーも名乗る。
「俺はサミュエルといいます。ニックネームで呼ぶならサムと呼んで下さい。因みに俺達のパーティー名はエフォールです。よろしく」
「私の名前はミレーユと申します。よろしくお願いします」
「……………カトナーだ」
一人、余りにも簡潔な自己紹介だったが………。
そんな風に自己紹介をお互いに済ませながら歩いていると、サミュエル達一行はいつの間にか村の正門にたどり着いていた。
そしてサミュエル達、エフォールの三人はそのまま宿屋の一階にある食堂兼酒場に直行しようとする。しかしそれをベラドンナの三人が止める。
「ちょ、ちょっと!」
「報告しないでいいの!?」
「そうよ!あなた達は報酬貰ったりしなきゃいけないでしょ!」
ベラドンナの三人が言う事ももっともであるが、サミュエルは特に報酬に拘りは無いため笑いながら答える。
「う~ん。別にここの冒険者ギルドで絶対に報告しないといけない訳じゃないですし。それに報酬に関してそんなに拘りは無いんです。………今は仲間と酒を飲むことが大事かなぁ、なんて」
「ふふふ、そうですね。サミュエルさんもカトナーさんも、お二人とも強力な者と戦えれば、後はどうでもいいって感じですもんね」
サミュエルの言葉を聞き、ミレーユは笑いながらそう言うが。その言葉に反論するカトナー。
「嫌、違うな。………強力な奴と戦った後は酒を飲む!それが大切な事だ」
そんなエフォールの三人の言葉を聞き、呆れた様子で眺めるベラドンナの二人。
だがコリーンは違うようで、しきりに頷いている。そしてコリーンがエフォールの三人に声を掛ける。
「それじゃ、飲みましょう!この村では、深淵の森で採れる甘い果実から造るお酒があって、それが最高に美味しいのよ!天にも昇る気持ちになれるわよ!」
コリーンに促され、それは楽しみだ、と言いながら食堂兼酒場に入って行くエフォールの三人とベラドンナの一人。そんな四人を呆れた表情で見ながらデボラとエイダの二人も続いて中に入る。
すると店主がサミュエル達を見て、驚いた様子でサミュエル達が座った席に駆けてくる。
「………どうでしたか!?ワイバーンは!?倒せたのでしょうか!?」
動揺し、声を荒げ、サミュエル達に尋ねる店主。それも仕方ないだろう。何せ村人が何人もワイバーンに喰われ、しかもワイバーンのせいで村に人が一人も来なくなり生活がままならなくなっているのだから。
そんな店主に、サミュエルが笑みを浮かべ答える。
「勿論、倒して来ましたよ!合計で三体のワイバーンをバッチリと!」
「さ、三体もいたんですか!?ですがその三体を倒したんですよね!?……………うっ……うっ………有り難う御座います。本当に………」
「礼には及びません。それが俺達の仕事ですから」
もうワイバーンはいない、という言葉を噛み締めながら嬉し泣きする店主。そんな店主に優しく、礼には及ばない、と答えるサミュエル。
そんな二人のやりとりを見ていたベラドンナの三人が店主に元気よく注文する。
「じゃんじゃん料理をもって来てちょうだい!」
「勿論、この村自慢のお酒もね!」
「果物もお願いね!」
「はい!沢山食べて、飲んで!楽しんで下さい!!」
店主はエフォールとベラドンナの六人に、そう言うと調理場の方へ行く。そして店主の奥さんだろうか、女性にお酒を出すように指示を出すと料理を作り始めた。
暫くするとサミュエル達がいる所まで良い匂いが漂ってくる。そんな匂いを嗅ぎお腹をならしながら待つサミュエル達に、お酒とつまみを持ってきた女性がテーブルに並べていく。
そしてサミュエル達はつまみを一口食べ、乾杯すると一気に飲む。
「おお!これは旨い、俺は結構好きな味だな!」
「クククッ、確かに旨いな。こんな種類の酒は初めてだが、不思議と違和感が無く飲める」
「美味しいですね」
エフォールの三人は、皆初めて飲む種類のお酒に驚き、感激した様子で会話する。
するとそこに料理が運ばれてきて、すぐにサミュエルはジューシーな肉を取り口に運ぶ。そしてその料理の旨さに驚く。食材が旨いのではなく、料理が旨いのだ。これも深淵の森で採れる果実を使っているのか良い風味があり調理のおかげで食材の旨味を 何倍にも引き出している。
「旨い!いやぁ、今日はなかなか良い一日だったな!」
「ええ、そうですね。貴重な体験も出来ましたし」
「あぁ、そうだな。………深淵の森の奥深くにも行って見たいが…まぁ、それはダンジョンを粗方攻略してからだな」
エフォール三人とベラドンナの三人は料理とお酒を心行くまで楽しむと、宿屋の部屋に行き今日の疲れを癒すのだった。因みにミレーユが酔っぱらってサミュエルのベッドで二人一緒に夜を過ごした。




