続 ワイバーン討伐
「敵を貫け!ストーンランス!!」
サミュエルが呪文を唱えると、空中に岩の槍が四十本出現した。それも只の岩の槍ではなく、ミノタウロスとの戦いで使用したのと同じ特殊な物だ。何が特殊か説明すると、槍の穂先がネジのようになっており、銃から撃ち出された弾丸と同じように、空中で高速回転しているのだ。
そして、その特殊なストーンランス……サミュエル流のストーンランス全てをワイバーンの右の翼に向け放つ。
そのストーンランスは勢いよくワイバーンの右翼に向け高速回転しながら飛んで行き、槍の穂先が右翼に触れた瞬間あっという間に貫いていく。
何本も、何本もワイバーンの右翼を貫いていく槍の群れ。その槍の群れがワイバーンの右翼を貫いた後は、ズタズタになりもう二度と空を飛ぶ事は出来ないと思われるような有り様のワイバーンが痛みに唸り木々を尾で薙ぎ払っている姿があった。
そんな痛みにのたうち回るワイバーンに、カトナーが殺気を放ちながら叫ぶ。
「喰らえぇい!!壱閃!!」
カトナーが叫び剣を振ると、白い一陣の光の線がワイバーンに向け放たれた。その光の線は、痛みにもがき苦しむワイバーンの喉に触れると、硬い鱗を難なく切り裂いた。首の半分を切り裂いているようだ。
だがしかし、喉を切り裂きはしたがワイバーンはまだ血を辺り一面に撒き散らしながらも生きている。
そんなワイバーンを見て、サミュエルは油断する事もなく、また体に魔力を満たすと呪文を唱える。
「これで終わりだ……ストーンランス!!」
サミュエルの目前に十本の岩の槍が現れる。そしてサミュエルが右手の指先を、カトナーの壱閃で切り裂いたワイバーンの喉に向けると槍の群れに指示を出す。
「行けぇぇえ!!」
サミュエルの一言で、槍の群れが一斉にワイバーンの喉に向かって飛んで行く。そして、まるで吸い込まれるようにワイバーンの喉の傷を目掛け飛んで行く槍がワイバーンの喉を貫き傷を広げる。
そして、ワイバーンは何とか皮一枚で繋がっている首から血を更に吹き出しながら、ピクリとも動かなくなった。
そんなワイバーンを見てカトナーとミレーユがサミュエルに話し掛ける。カトナーは少し不満げに、ミレーユは安堵した様子で。
「サミュエルさん………お疲れ様でした」
「あぁ、お疲れ様。かなり体力と精神力を使ったよ」
「しかし……ワイバーンか……ミノタウロスよりも弱かったと思うが。…………サミュエル、どう思う?」
物足りない、といった様子でサミュエルに尋ねるカトナー。
そんなカトナーに口元に笑みを浮かべたサミュエルが答える。
「恐らく、ミノタウロスを倒した事でそれなりにレベルが上がったからじゃないか?だから物足りないと感じるんだろう」
「確かに………一理あるな」
サミュエルの言葉を聞き、大きく頷きながら、一理ある、と答え納得した様子のカトナー。そんなカトナーを見て、サミュエルは内心で呟く。
(予想以上に体力、精神力が上がっているな………その二つ以外にも、身体能力が飛躍的に上昇してる。これなら青銅製以外のゴーレムを……………出来る筈だ!)
サミュエルは自分の残りの体力、精神力を感じながら以前より遥かに多くなっている事に気付き嬉しそうに頷きながら確信した。これなら更なる、優れたゴーレムを創造出来ると。
そんなサミュエルを見て、ミレーユが体力、精神力を回復させるポーションを手渡しながら、何故嬉しそうなのか尋ねる。因みに、ポーションには種類があり、体力のみ回復させる赤いポーション、精神力のみ回復させる青いポーション、そして怪我を治す緑のポーション、と色々あるが、名前は全てポーションである。勿論、それでは区別しにくいため、ポーションの前に、赤、青、緑、と色を呼ぶ事で区別している。
「どうぞ、飲んで下さい。………喜んでいるようですけど、どうしたんです?」
サミュエルはミレーユからポーションを受け取ると、それを飲み干し答える。余程不味かったのか、渋い表情で。
「ありがとう。………………苦いねこれ。まぁ、何て言うか……簡単に言うと今まで以上に、強い魔法が使えるようになったかも……って事かな」
「ほう、先程使っていたストーンランスよりもか?」
今まで以上に強力な魔法、という言葉を聞き獰猛な笑みを作り尋ねるカトナー。
「あぁ、そう言う事だな。今までは使え無かった訳じゃないんだけど……使ったら確実に気絶してたから戦闘中は使え無かったんだ。だけどレベルが上がった今なら………」
「気絶する事無く、使用出来るということか………クククッ、それは楽しみだ」
また更に強力な魔法を使えるようになったと答えるサミュエルを見て、笑うカトナーとは違い、驚いた様子でサミュエルを見つめるミレーユ。
そんなミレーユに気付きサミュエルがどうかしたのか、と尋ねようとした時、唸り声が辺りに響き渡った。
『グゥルルルル!!グァアア!!』
サミュエル、ミレーユ、カトナー、三人が声のする方向へと視線を向ける。
三人が視線を向けた先には、空を飛ぶ二体の飛竜がいた。その飛竜とは、勿論ワイバーンだ。サミュエルの予想通り、一体ではなく複数いたのだ。
その二体のワイバーンがサミュエル達の方へと視線を向けると、息を吸い込んだと思った次の瞬間、直径1m程の火球をそれぞれ一つずつ放ってきた。
サミュエルはその火球を見て咄嗟に呪文を唱える。
(ヤバい!!間に合え!!)
「俺達を護れ!ストーンウォール!!」
サミュエル達、三人がいる場所を囲むように岩で出来た高さ3m程の壁が出現した。
その岩の壁に火球が着弾すると、少しだけ罅が入っただけで火球は消え去った。そして役目は終わったとばかりに岩の壁も同じように消え去る。
そんな風に火球が簡単に防がれたのが悔しいのかワイバーンが更に唸り声を上げながらサミュエル達を睨み付ける。
「グルルルル!!」
「グァアア!!グルルルルァアア!!」
「サミュエルさん!どうしますか!?」
「大丈夫だ!!ミレーユは俺とカトナーの援護を頼む!!カトナーは右の方のワイバーンを頼む!!俺は左のワイバーンを殺る!!」
「はい!分かりました!」
「クククッ、楽しくなってきた!!サミュエル、右の奴は任せとけ!!」
サミュエルは二人に指示を出すと左のワイバーンに、何時でもストーンランスを放てるよう集中しながら隙を探す。
だが、ワイバーンも馬鹿ではない。なかなか近づかず空を旋回しながらサミュエルを見ている。
そんなワイバーンを見て、サミュエルは内心で呟く。
(糞っ!!……………頭がいいな。なかなか近づいて来ない。…………だがいずれ焦れてくる筈だ!そこをストーンランスで地上に叩き落としてやる!!そして強力なゴーレム魔法を味あわせてやる!!)




