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ワイバーン討伐

 現在サミュエル達三人は、ワイバーンの出没すると言われる場所を目指し森の中に来ている。


「何と言うか………木がでかいな。樹齢千年は超えるんじゃないか?」


 サミュエルは木の巨大さに驚きながら、目の前の巨木を眺めている。

 そんなサミュエルを見て、ミレーユは嬉しそうにこの森の説明をする。恐らくミレーユはサミュエルの役に立てる事が嬉しいのだろう。


「この森に……この深淵の森に千年を越える、あるいは樹齢数百年を越える木は存在しませんよ」

「マジで?こんなにでかいのに?」

「はい。……この森がある大地には、沢山の栄養があると言われています。ですので、この深淵の森にある木々は十数年でこれ程の巨木に成長するそうです。勿論、木々だけでなく全ての植物が成長します」

「たった十数年で。……凄いな!それなら見た事もないような、巨大なカボチャとかスイカとかありそうだな!」

「ふふふ、勿論ありますよ。私達が泊まった村ではこの森で採れる果物などは特産品ですから」


 ミレーユの説明通り、昨晩サミュエル達が泊まった村ではこの深淵の森で採れる果物などは特産品として扱われている。

 しかし、深淵の森の中には野性動物だけでなく魔物も存在する為、冒険者ギルドに依頼を出し、その依頼を冒険者が請け、果物などを採取するのが普通だ。因みに深淵の森とは、現在サミュエル達がいる森の事で、誰一人として森の奥深くに入った者はいない。その為、深淵の森の奥深くには樹齢千年を越える物も存在するだろうが、人が入る場所には千年以上の木々は存在していない。

 そして勿論、現在はこの深淵の森に人が入る場所、つまりは深淵の森の浅い場所にはサミュエル達以外に冒険者はいないし、人など一人もいない。ワイバーンが現れた為だ。


「じゃあ、ついでに果物も幾つか採っていこうか」

「そうですね。深淵の森で採れる果物は最も甘い、と言われています。楽しみですね」

「サミュエル、ミレーユ。………妙だと思わんか?」


 深淵の森に存在する果物の事を想像していたサミュエルとミレーユに、カトナーが眉を顰め、周囲を見渡しながら声を掛ける。


「どうしたんだ?」

「貴様は、この森に入ってどれだけ経つか分かるか?」

「ん?………だいたい、一刻ってとこかな」

「そう一刻も経つのに……一度も魔物に遭遇していない。妙だと思わんか?」


 そうサミュエル達は深淵の森に入って、既に一刻程の時間が経過している。だが一度も魔物に遭遇していない、それをカトナーは不自然に思いサミュエルとミレーユに尋ねたのだ。

 本来であれば、深淵の森の浅い場所でもそれなりに魔物が存在する為、一刻程も森に入っていれば二、三度程は魔物と戦闘していても不思議ではないのだ。

 そんなカトナーの疑問にサミュエルが答える。ただ答えるのではなく内心で、これで抜けているなんて言わせない、と思いながら。

 まだ昨夜の事を引きずっているサミュエル。


「それなら予想はつくぞ。………恐らくランクBの魔物、ワイバーンがこの深淵の森の浅い場所に現れた為に逃げ出したんだろう。以前に魔物図鑑で見た情報だけど……確か、ワイバーンはかなりの悪食らしいぞ。……それでワイバーンを恐れたんじゃないか?」

「………成る程な。確かにそれなら納得できるな」


 カトナーはサミュエルの説明を受け、大きく頷く。

 そんなカトナーの様子を見て内心でガッツポーズをとるサミュエル。しかし、周囲を見渡しながら何か違和感を感じたようで顎に手を当て眉の間に深い皺を作りながら考え込む。


(待てよ。…………自分で言っときながら、あれだけど。………………幾ら深淵の森の浅い場所とは言え、これだけ広いのに魔物が全然いないのは奇怪しいな。……………………………………………………………………う~ん…………………………………………………………………………………………っ!?もしかして!)


 先程までは会話しながらでも歩を進めていたサミュエルが、立ち止まり険しい表情で考え込んでいるため、ミレーユは不思議に思い首を傾げながらサミュエルに尋ねる。


「サミュエルさん、どうかしたんですか?」

「………いや…………何と言うか…………もしかしたら厄介な事になるかもしれない」

「厄介な事?………………サミュエル、何かに気づいたのか?」


 厄介な事、というサミュエルの言葉を聞き、カトナーは先を促すように尋ねる。


「あぁ、もしかしたらっていう可能性の話だが。……………この深淵の森に現れたワイバーンは一体だけじゃないかもしれない」

「何!?」

「何故サミュエルさんはそう思うんですか?」

「…………この深淵の森の浅い場所……浅い場所とは言え、かなりの広さがある。にも拘わらず、魔物が一体もいないのは……幾らワイバーンが悪食で、なんでもかんでも食べるとは言え一体だけが暴れているのに対して、これだけ広大な森の魔物が全部逃げ出すのは奇怪しい。そう考えると……」

「複数のワイバーンがいる可能性が高い。………ということか。……確かになサミュエルの説明を聞く限り、頷ける内容だ」


 サミュエルの説明を聞き、カトナーはその可能性が高い、と考え頷く。一方ミレーユは少し青ざめている。それもしょうがないだろう。何せランクBの魔物、ワイバーンが複数いるかもしれないのだ。ミノタウロスより強い魔物が複数……誰でも恐怖するのは仕方ない事だろう。

 そんなミレーユの表情を見てサミュエルが、ミレーユを落ち着ける為に優しく声を掛ける。


「ミレーユ、大丈夫だ。まだワイバーンが出没する場所まで大分距離がある。すぐには襲われないよ」

「すみません。少し怖くなってしまって。………ですが、もう大丈夫です!」


 サミュエルの言葉を聞き、冷静になったようで力強く頷きながら答えるミレーユ。

 そんなミレーユを見て、サミュエルはこれからどうするかを話し合う為、二人に視線を向けると言葉を発する。


「どうする?俺は一旦村に帰り、冒険者ギルドに説明して俺達以外にも更に冒険者を集めるべきだと思う。……さすがに複数のワイバーンと戦うのは厳しいと思うが。………まぁ、ワイバーンが複数いるというのは、あくまで可能性にしか過ぎないけど………」

「そうだな……ミノタウロスより強い魔物を、可能性とは言え、複数いるかもしれんのに乗り込むのは得策とは言えんな」


 サミュエルは、一度村に帰ろうと提案する。そしてカトナーはそれが得策だろう、と頷き同意する。

 しかし、ミレーユは強い意思を瞳に宿し、サミュエルとカトナーに反論する。


「いえ、それは得策とは思えません。………何故なら今現在、フォークスの街ではランクB以上の冒険者が一人もいないんです。それに、恐らくフォークスの街周辺の村にもランクB以上の冒険者はいないでしょう………なので、村に帰り他の冒険者が来るのを待っても無意味だと思います。他の冒険者が来る可能性が無いのに村で待ち続けても、その間に更に沢山の被害を出すだけです」


 現在ランクB以上の冒険者がフォークスの街、並びにその周辺の村にもいない、と説明され不思議に思い首を傾げるサミュエル。

 そんなサミュエルに代わりカトナーがミレーユに尋ねる。


「何故だ?………そんなにこのバルスールの国の冒険者はレベルが低いのか?」

「いえ、そうではありません。……フォークスの街の冒険者ギルドで聞いた話ですが。………このバルスールの国で第二の都市と呼ばれているエスメラルダに存在するダンジョンの一つが、新たに攻略されたそうです。そのダンジョンの最下層にある祭壇で得られるスキルが、かなり戦闘で有効なスキルの為、高ランク冒険者が揃ってエスメラルダに向かったそうです。………どんなスキルかは分かりませんが余程のスキルなんでしょう。………フォークスの街からエスメラルダの街まで、馬車で二十日は掛かります。ですので、他の冒険者というのは期待するだけ無駄だと思います」


 バルスールの国で二番目に人口が多い都市、と言われているエスメラルダ。そのエスメラルダの街の中には三つのダンジョンが存在していて、今までは一つだけ攻略されていたが、その攻略されたダンジョンのスキルが余り有効なスキルでは無かったのでダンジョンを攻略しようとする冒険者の多くはフォークスの街に集まっていた。

 しかしミレーユが説明した通り、エスメラルダに存在するダンジョンが新たに攻略された。しかも新たに攻略されたダンジョンのスキルは戦闘で有効なスキルであった為、フォークスにいた高ランク冒険者達が挙ってエスメラルダに向かったのだ。

 そんな説明をミレーユから聞き、サミュエルは考え込む。


(確かに、それなら他の冒険者を期待するだけ無駄だろうな。……………だからと言ってワイバーン討伐の為に、更に森の奥深くに入って行けば………複数のワイバーンを相手にする可能性もある。………………だが、ここで退けば……村の人の生活がままならないばかりか、村自体にワイバーンが襲いに来る可能性もある………………糞っ!!どうすれば………俺やカトナーなら生きて逃げられる可能性もあるが………ミレーユは………)


 サミュエルが考え込む様子を見てミレーユが更に言葉を続ける。


「私は大丈夫です!サミュエルさんとカトナーさんの足手まといには絶対になりません!!……それに絶対にワイバーンは複数いるとは限りませんし。何よりここで退けば、沢山の被害を出す事になります。……………………………行きましょう!!」


 ミレーユの口調と視線から、強い決意を感じたサミュエルは視線をカトナーに向ける。するとカトナーは顔に笑みを浮かべ頷く。

 そんな二人を見てサミュエルは目を瞑り、暫く考えると口を開く、


「………………分かった。………だが、ミレーユ…君は何があろうと、絶対に援護だけに集中してくれ。どんな事があってもだ!俺かカトナーが倒れたとしても、ミレーユ……君は援護に集中するんだ!それが約束出来るか?」

「はい!約束します!」

「クククッ……ミレーユ、良い覚悟だ。サミュエルについて行くと決めたのだ、最初から半端な覚悟では無かっただろうが。………クククッ、流石だ」


 サミュエルが今までに無い程、強い口調でミレーユに約束させる。そしてミレーユも今までに無い程、強い決意を胸に抱きそれに答える。

 そんな風にして退くか進むかを決めた後、サミュエルは二人に視線をやり、声を掛ける。


「………………行くぞ!」

「はい!」

「おう!」












 話し合いをしていた場所から出発して一時間程進んだ、サミュエル、ミレーユ、カトナーの三人の目の前に大きな湖が現れた。大きさは半径2㎞程となかなかの大きさの湖だ。

 その湖を見てサミュエルは、村の宿屋の店主に聞いた情報を思い出し、二人に話し掛ける。


「店主の話では湖から少し離れた場所に薬草が自生してるって言ってたな」

「あぁ、そしてその薬草が自生している場所に……ワイバーンが現れる、ということだったが。………………周囲にはワイバーンの姿も薬草も見えんな」


 サミュエルとカトナーの二人が周囲を見渡しながら会話をして、薬草やワイバーンを探すが見つからない。

 そんな二人にミレーユが助言する。


「恐らく、薬草はあちらの方向にあると思います」

「何故分かる?」


 ミレーユが指差す方向には、湖に繋がる小さな小川が続いている。

 その小川を見てサミュエルは納得した様子で頷き、カトナーに説明する。


「薬草は比較的、何処にでも生えているが……綺麗な水が存在する場所ほど、多くの薬草が自生するんだ。しかも薬草としての効果が高くなる。……だから、あの小川の上流に行けば薬草が自生している場所に着く筈だ…………だろ?ミレーユ」

「はい、その通りです」

「成る程。なら小川の上流を目指して進むとするか」

「だな!」

「はい」


 ミレーユの助言に従い小さな小川を上流に向け進む。そして暫く進んで行くと離れた場所から、バキバキッ、という木の折れる音がする。

 その音を聞くと三人は足を止め、サミュエルが二人に小声で指示を出す。


「恐らくワイバーンだろう。………まずは俺がストーンランスを放つ。その後はカトナー………頼むぞ。そしてミレーユは俺とカトナーの二人の援護を頼む」

「分かりました」

「あぁ、任せておけ」

「良し、それじゃあ姿勢を低くして進むぞ」


 サミュエルの指示に従い全員が姿勢を低くして、音をたてないよう静かに移動する。

 そして木々の間を抜けて行くと30m程先に、茶色の鱗が体全体を覆っていて、爪の長さが30㎝もあり、大きな牙を見せ空に向かい、グルルルル、と唸っている全長8m程の飛竜、即ちワイバーンがいた。

 そのワイバーンを見てサミュエルは少しホッとした様子だ。何故なら視界にいるワイバーンは一体だけなのだから。

 だが一応周囲を見渡し、気配を探り他にワイバーンがいないか調べた後、二人に声を掛ける。勿論、小声でだ。


「幸いにも、一体だったな。だが油断はするなよ。…………作戦はさっきの通りだ、行くぞ」

「はい」

「あぁ」


 サミュエルは二人が頷くのを確認した後、深く深呼吸してミノタウロスを相手に戦った時以上に魔力を生み出し体に満たすと……………ワイバーンに向け駆け出した。

 そしてワイバーンに気づかれる事なく、ワイバーンとの距離を20m程まで近付くと呪文を唱える。


「敵を貫け!!ストーンランス!!」

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