ホントあれだなぁ
サミュエル達エフォールの三人はワイバーンが出没する近くの村へと出発して、道中魔物や盗賊に襲われる事もなくのんびりと移動していた。
やがて夕方になる頃、一行は村へと到着した。
「以外と早く着いたな」
「そうですか?昼頃出たので妥当な時間だと思いますよ。依頼書にも移動時間は半日と書かれていましたし」
ミレーユの言う通り、依頼書にはフォークスの街から半日と書かれていたので妥当な時間だと言える。
だが妥当な時間とは言え、確かに魔物や盗賊に襲われていた場合はもう少し時間が掛かっていただろうが。
「確かにな。……まぁ、それはいいとして……………村の中に誰も居ないな」
サミュエル達が今いるのは村の真ん中の広場だ。確かにサミュエルの言葉通り、村人が一っ子一人居ないのだ。何故なら村人はワイバーンの被害を恐れ、村から離れて行く者や家の中に入ってしまっていて誰一人として村内をうろついていない為だ。
「サミュエル……取り敢えず宿をとった後、この村の冒険者ギルドに情報を貰いに行くぞ」
「だな!そんじゃあ宿屋に行くか!」
「はい」
まずは宿屋だ、とサミュエル達は周囲を見回しながらフォークスの街とは違う、舗装されていない道を進む。
そして小さい村の為、其れ程時間も掛からず目的の宿屋を見つけると馬車を止め宿屋に入り声を掛ける。
「すいません!」
「…………はい。ご宿泊ですか?」
「はい。二つ部屋をとりたいんですが……部屋は空いてますか?」
「大丈夫ですよ。ここ七日程、お客さんもいませんしね………ははっ……はぁぁぁ」
サミュエルの質問に溜め息混じりに答える店主。かなり落ち込んだ様子だ。恐らくワイバーンの影響で村にやってくる冒険者や旅人、そして商人といった者達が来ないので宿に泊まる客がいないのだろう。
そんな現状を知ってか知らずか、サミュエルが笑いながら言う。
「はははっ。曲がる角には福来ると言いますし、笑っていれば良いことがありますよ」
「………そうだと良いんですけど。……あ、失礼しました。すぐお部屋で寛がれますか?」
「いえ、冒険者ギルドに情報を貰いに行くので……食事等は後でお願いします」
「っ!?……貴方方は冒険者なんですか?ワイバーンの討伐に来てくれたのですか!?」
余程この村はワイバーンの被害を受けたのだろう、店主は喜びと驚きに満ちた表情でサミュエルに尋ねる。
「そうですけど……どうかしましたか?」
通常なら誰でも気づくだろうが、サミュエルは以前も説明した通りアホの子だ。そのため何故店主がこれ程、驚き、そして喜んでいるのか気づいていない。勿論いつもどんな時もアホの子、という訳ではないが……今日は、というより今は頭のネジが緩んでいるのかアホの子発動中だ。
そんなアホの子発動中のサミュエルに店主が理由を説明する。
「村人が襲われ……何人も死んでるんです。それにその噂を聞いた冒険者や商人が村を訪れなくなり、客も来ず……この村の代表の村長から冒険者ギルドに依頼は出したのですが、ワイバーンを相手に出来る冒険者は中々いないので………どうか村を助けて下さい!お願いします!」
「勿論ですよ、そのために来たんですから!任せて下さい!………それで良ければワイバーンが何処で出没するか正確な場所とか教えて貰えますか?」
「ありがとうございます!ワイバーンの出没する場所は森の中に湖があるんです。そのすぐ横に薬草が自生する場所があるんですが……そこに奴が……」
「分かりました。情報も手に入れたし……それじゃあ食事をお願いします。……あ、それから表に馬車を停めているんですが…それもお願いします」
「はい!すぐにお持ちしますのでお部屋でお休み下さい!」
「はい、ミレーユ、カトナー明日の為にゆっくり休もう」
「はい!」
「あぁ、そうだな」
冒険者ギルドに情報を貰いに行く必要が無くなった為、部屋で休む事にした三人はそれぞれの部屋に向かった。因みにサミュエルとカトナーは一緒の部屋だ。武器の為の節約である。
そして三人は食事を摂った後、一つの部屋に集まり明日の為に作戦を練る。
「ワイバーンと対峙した際にはどうするか決めておこう!」
「そうですね」
「あぁ。……クククッ、だがそう色々と考える必要もあるまい」
「というと?」
カトナーが何やら笑みを浮かべ、自信ありげに言う。そんなカトナーの言葉を聞き、サミュエルは眉を寄せ首を傾げながら尋ねる。
「ワイバーンが空に逃げる前に全力で仕留めるだけだ。…………その為には、サミュエルの魔法が鍵になるだろうな」
「ん?…………う~ん……………わからん」
「はぁぁぁ…………貴様は何故気づかんのだ…」
カトナーは盛大に溜め息を吐くと呆れ顔で、何故気づかない、と言う。だが絶賛アホの子発動中のサミュエルは気づくどころかまともに思考してすらいないようだ。
そんなサミュエルにミレーユがまるで母親のように優しく説明する。
「サミュエルさん。いいですか?………サミュエルさんはミノタウロスの強靭な体さえ貫く魔法を使えます。……つまり、サミュエルさん流のストーンランスの事です。そのストーンランスをワイバーンの翼に放てば…………どうなります?」
「…………………あぁ、な~るほど!分かった。それじゃあ最初に俺が、俺流のストーンランスをワイバーンの翼に撃ち込んで巨大な穴を開けて飛ばせないようにするって事ね!」
「はい!そうです」
「貴様は………はぁ………まぁ、いい。貴様がストーンランスを放ったすぐ後に俺が壱閃を放つ。弐閃は無理だが壱閃だけならすぐに放てるからな………そしてミレーユが俺とサミュエルの援護を頼む」
「分かりました!」
「おし!それじゃあ作戦も決まった事だし、今日はもう寝よう」
「はい、それではお休みなさい」
「お休み!」
本人はアホの子発動中の為気づいていないが、サミュエルにとっては自身の株を下げるような会議であった。しかし、無事作戦も決まりミレーユは自分の部屋へと向かいサミュエルとカトナーは、それぞれのベッドに横になる。
そしてサミュエルが寝ようと目を瞑ろうとした時、カトナーがサミュエルに声を掛ける。それもただ声を掛けるのではなく、コメカミを押さえながら心底不思議そうに。
「サミュエル」
「ん?どうした?」
「貴様は何故………時々さっきのようになるんだ?」
「はぁ?何の事?」
カトナーが言っているのは勿論、アホの子発動の事だろう。カトナーが不思議に思うのも無理はないだろう。何せ戦闘中は相手の動きを即座に判断して信じられない程の感の良さで行動するのに 、何故かこの村に来てからの感の悪さのように抜けている時もあるのだ。 カトナーの反応も仕方ない。
そんなカトナーの質問にサミュエルは、やはり気づかず聞き返す。何度も言うがアホの子発動中の為気づいていないのだ。
「戦闘中は指示も的確に出すのに………何故、戦闘中以外は抜けているのだ?」
「はは……カトナー君。………君は時々、本当に失礼だな。抜けてるって………まったく。いいかね、人には………あれだ………ほら………なんて言うか………頭が働かない時があるだろ?そう、そういう時があるんだよ。だから仕方ないのだよ」
顔に苦笑いを浮かべ、変な口調で答えるサミュエル。カトナーはそんなサミュエルの表情と答えを聞き、視線を天井に向けると溜め息を吐き、目を瞑る。
「…………………はぁぁぁぁ……………」
「君は………あれだな………ホントあれだなぁ……マジであれだなぁ……」
あれって何だ、と突っ込みを入れたくなるが、それを無視して深い眠りにつくカトナー。そんなカトナーを見ながらサミュエルは、ホントあれだなぁ、と呟き、同じく深い眠りについた。
「う~ん。………大分…ぐっすり眠ったな」
太陽がまだ出ていない暗い中、サミュエルは誰より早く起きていた。恐らく昨夜カトナーに抜けていると言われた為、早く起きて用意をしてカトナーを起こし、俺って頼れる奴だぜ、と思わせる作戦だろう。
何てちっちゃい男なんだ。サミュエル、それでいいのか。お前は本当にそれでいいのか。
そう尋ねたくなるが……………。
サミュエルは剣と防具を装着し、カトナーを起こす。
「カトナー、起きろ。……そろそろ準備しろよ」
「…………あぁ、分かった」
カトナーが起き上がり、体を解すのを横目で確認すると、サミュエルは部屋を出てミレーユの部屋の扉をノックし、扉越しに声を掛ける。因みに、これで抜けているなんて言わせねぇぜ、といったニヤニヤ顔で、である。
そして三人が用意を済ませると、食事を摂り宿屋を出る。勿論、店主に激励を受けながらだ。
そんな風にして三人は村の正門までやって来ると一旦立ち止まり、サミュエルが二人に声を掛ける。
「良し!準備も万端だ!……二人とも暴れるぞ!!」
「はい!」
「クククッ、楽しみだな!」
二人は初めて戦うワイバーンがどれ程の強さかと期待して、一人は足手まといには絶対にならないと決意して、三人はワイバーン討伐の為村を出発した。




