表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

目立ちすぎのエフォールの三人

ブックマーク登録や評価、ありがとうございます。


楽しんでもらえたら幸いです。



ダンジョンから帰還した後、ミレーユは自宅に帰り、サミュエルとカトナーは少し値段の高い宿でダンジョンの疲れを癒した。因みに、このフォークスの街に到着して初日に泊まった宿である。酒と料理が旨いという理由で初日と同じ宿にしたのだ。


「う~ん……朝か。おい、カトナー朝だぞ」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………あぁ」


前日、宿の一階に併設されてある食堂兼酒場で、酒を浴びるほど飲んだ為に、まだ酔いが残っているのか頭に手を当てながら返事を返すカトナー。

そんなカトナーの様子を見てサミュエルが口元に笑みを浮かべ話し掛ける。


「さっさと食堂で飯を食おうぜ。……で、その後はギルドに行くぞ」

「……………あぁ、そうだったな。……分かった」


サミュエルに促され、ベッドから起き上がると体を解すカトナー。

そして二人は防具と剣を装備して、部屋を出ると一階の食堂へ行き食事を摂りながら、どんな剣にするかを話し合う。


「サミュエル……剣は決めてあるのか?」

「まだ決めてないよ」

「サミュエルの剣技では叩き切るというよりも、純粋に斬る事に特化した剣の方がいいんじゃないか?」

「…………というと?」

「つまりだ、サミュエルが今使っている剣……そのロングソードは叩き切るという剣だ。だが以前に貴様と戦った時に感じた剣技は明らかに斬る事に重きを置いた剣技だった。……だったら剣も、貴様の剣技に合わせた物にするべきだ」


カトナーの言う通り、サミュエルの剣技は斬る事に特化した剣術なのだ。それもそうだろう、サミュエルは前世で学んだ剣道、そして剣術を今現在も変える事なく磨き続けているのだから。

勿論、サミュエルは日本で学んだ剣術以外にも、この世界での父親のジャックに、盾を併用した剣術や叩き切る剣術を学んでいるが。もっとも、サミュエルがジャックに学んだのは剣術以外にも弓術、槍術、短刀術等々、沢山の戦闘技術を学んでいたりする。


(確かに……だけど、斬る事に特化した剣だと防御面というか、耐久度に不安があるしな…………ミノタウロスみたいな奴の一撃を剣で受け止めたら、斬る事に特化した剣だと防げるほど強い物があっても刃こぼれしたら困るし………)


サミュエルの心配ももっともだが、刃こぼれを防ぐ方法も幾つか存在する。その一つがミノタウロスを倒した後にサミュエル自身が考えていた方法なのだが………本人は既にその事を忘れてしまっているようだ。

黙り込んで目をつぶり、一人の世界に入っているサミュエルを疑問に思ったのかカトナーが尋ねる。


「どうした?」

「ん?……あぁ、何て言うか………斬る事に特化した剣だと、ミノタウロスのような強力な一撃を剣で受け止めたりしたら剣が折れなくとも刃こぼれはするだろ?………だからその辺の事をどうするか考えていたんだ」

「………貴様は………馬鹿か?」


ダンジョンから一度帰還したのは何の為か忘れたのか? と、呆れた様子で言うカトナー。サミュエルは、実はまだ昨日の酒が残っていて、まともに思考できていないのだ。それに少し、というより、かなり、サミュエルは天然だったりするのだ。

そしてサミュエルは、馬鹿かとカトナーに言われ苦笑いをしながら答える。


「ははは、辛辣だな君は……カトナー君一体なんだというんだね?」

「はぁぁ………昨日ボス部屋で貴様自身が言っていただろう。ミノタウロスの魔石で剣や杖、それに出来れば防具も強化したい………と」

「……………………………あっ!?…………………そうだった!その方法があるじゃん!」


カトナーに説明され、満面の笑みで手を叩き頷くサミュエル。はっきり言ってアホの子だ。ひたむきに努力するという美点はあるのだが、この天然な所が無ければ、この世界での母親のヴェロニカの血が濃い為顔はイケメンなのでモテると思うのだが。

そんな少しアホな子のサミュエルが、しきりに頷きながらカトナーに急かすように言う。


「良し!!だったらさっさとミレーユとの集合場所のギルド前の広場に行こうぜ!もうそろそろいい時間になるし、ミレーユも家を出てる頃だろ!」

「はぁぁぁぁ……………貴様は……分かった、行こう」


サミュエルに、早く行こう! と、言われ深い溜め息を吐き、頷き椅子から立ち上がるカトナー。

そして二人は宿屋の女主人に料理の代金を払う。といっても、払うのはサミュエルだが。


「おばちゃん、ご馳走さま。はい、銅貨十枚」

「毎度あり。今日は宿の方はどうされますか?」

「う~ん、武器や防具の事もあるしな。…………それじゃあ、取り敢えず宿の方もお願いします」

「分かりました。じゃあ……まだ駆け出しの冒険者って言ってたし、二人合わせて銀貨三枚でいいですよ」

「え!?いいんですか?」

「いいわよ。それにカトナーさん……だったっけ?魔族の人なんて見る事も無いし、その魔族の人が泊まった宿だって有名になれば客も増えますしね」

「ははは、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います」


宿の女主人が言う通り、このフォークスの街で……というよりも、このグレートアースの世界では千年前から魔族を見た者は一人としていない。魔族が魔界から出て来なくなった為だ。因みにカトナーは魔族ではなく、魔物であり、ゴブリンという種の上位種であり希少種のヒューマノイドゴブリンなのだが、それを言ってしまうと色々とややこしい事態になってしまうので魔族と嘘を言っているのだ。


「サミュエル、行くぞ」

「おう。それじゃ失礼します」

「はい、お仕事頑張ってくださいね」


サミュエルとカトナー、二人は宿を出てミレーユとの待ち合わせ場所の広場に向かう。

まだこの街に来て間もない為だろう、道行く人がカトナーを見て次々に振り返る、あるいは何度見か数えられない程首を振っていたりと、かなり目立ちながら街道を行く。勿論サミュエルも目立つのだが……。サミュエルが目立つ理由はグレートアースに髪が黒く瞳も黒い者は少ない為だ……否、少ないのではなく、今までグレートアースには髪と瞳の色が黒い者など存在した事が無い。

そのため異常に目立ちながら街道を進む二人。

そしてそんな二人が漸く広場に辿り着くと既にミレーユは広場で待っていた。


「おはよう、ミレーユ。ごめん、もしかして随分待たせちゃったかな?」


サミュエルはミレーユの姿を見つけ、少し遅かったかもしれないなと考え、挨拶と一緒に謝罪しながら声を掛ける。

するとミレーユは笑みを浮かべサミュエル達二人に視線を向けると挨拶を返す。


「おはよう御座います。今ちょうど着いた所でしたので気になさらないで下さい」

「そっか、それじゃあギルドに入ろうか」

「はい」


サミュエルとカトナー二人に加えミレーユが揃い、エフォールの三人は揃ってギルドの中へ入って行く。

ギルドの中はやはり、早朝という事もありかなりの冒険者がいる。そんな中に黒髪黒目のサミュエル、世間には魔族と言っているが魔物で黒い皮膚を持つヒューマノイドゴブリンのカトナー、そして美しい美貌を持ちこれまた美しい銀髪を持つミレーユ、と目立つエフォールの三人が入って来た為、ガヤガヤと煩かったギルドの中が静寂に包まれる。

そんな少し異常な雰囲気にも拘わらず、サミュエルは気にした素振りも無くギルドのカウンターに行く。


「すいません。素材や魔石の買い取りをお願いします」

「あ…は、はい!」


この街の冒険者ギルドでパーティー登録した時とは違うギルド職員に話し掛けた為、サミュエル達三人を見て戸惑った様子のギルド職員が慌てて返事を返す。

そんなギルド職員を見てサミュエルは、カトナーの容姿を見て驚くのも無理はないな、と微妙にずれた事を考えながら空間魔法で収納されていた魔石と素材をカウンターに並べていく。

そして並べられていく魔石と素材の数を見てギルド職員だけでなく、サミュエル達三人を見ていた冒険者達から驚きの声が上がる。


「おいおい、いくつあるんだよ」

「……すげぇな……」

「あいつら何もんだ?」


「これだけの数ですと…………時間が係るので……すみませんが…少々お待ち下さい」


冒険者達やギルド職員が驚くのも無理はないだろう。何せ魔石の数は二百近くもあり、素材はファイヤーファングやウォーターファングの毛皮、ポイズンブルの角、といった物がこれでもかと並べられているのだから。


「大丈夫です。急いでないので」


サミュエルは淡々と驚いた様子のギルド職員に返答する。

そしてサミュエル達は、ギルド職員が三人係りで素材と魔石をカウンターの奥の部屋に持って行くのを見た後、時間を潰す為に依頼ボードの前まで行きどんな依頼があるのか確認しながら会話する。


「何か面白い依頼ないかな?」

「武器や防具を買う、あるいは強化するとなると時間がかかるだろうな。ならサミュエルの言う通り、面白い依頼がないか見てみるか」

「お二人の面白い依頼とは、つまり強力な魔物がいないか……という意味ですよね?」

「勿論!「そうだ」よ」


サミュエルとカトナーの声が重なる。

そんな二人の言葉を聞いて笑いながらミレーユは依頼ボードに目をやり、一つの依頼に指さしながら二人に提案する。


「ふふふ、それなら…………これなんてどうでしょうか?」


ミレーユの指先にある依頼に、サミュエルとカトナーが視線を向ける。そこにあった依頼とは、ワイバーンの討伐依頼だった。

フォークスの街から馬車で半日程移動した所にある、村近くの森に最近ワイバーンが出没し、人が襲われ何人も死んでいる為、村から討伐依頼が出されたのだ。

そんな依頼の内容を確認した二人、サミュエルとカトナーは顔を合わせ、獰猛な笑みを浮かべながらお互いに頷き、ミレーユに返事を返す。


「「これにしよう!」」


再び言葉を重ねる二人に、笑いながら頷き答えるミレーユ。


「ふふふ、でしたら知り合いの鍛冶師にあって注文した後、すぐに出発しますか?」

「だな!そうしよう!」

「あぁ、それがいいだろう。……………ただ、この依頼はランクBだが大丈夫なのか?」


カトナーがランクBの依頼だがいいのか、と尋ねる。何故カトナーが疑問に思うのかと言うと、サミュエル達全員がランクCの為、通常自分より上のランクの依頼が請けられないのだ。

しかし絶対に請けられないという訳でもない。何故ならギルドランクを上げる為には自分より一つ上のランクの依頼を達成しなければランクを上げられないので、今回の場合で言えば、サミュエル達より一つ上のランクBの為、絶対請けられないと言う訳ではない。勿論ギルドが許可を出せば、だが。


「……………大丈夫なんじゃない?………多分」


サミュエルが少し考えた後、カトナーに言う。後半自信無さげに。

そんな風にしているとカウンターの方からギルド職員に呼ばれる。


「サミュエルさん!魔石や素材の確認、終わりました」


サミュエル達は声のした方向、つまりはカウンターの方へ行く。するとギルド職員が紙と袋を持ってた立っていた。


「え…と。魔石が百九十二個にウォーターファングとファイヤーファングの毛皮、それにポイズンブルの角…………全部で金貨八枚、銀貨八十枚になります。ご確認して下さい」

「……………はい、確かに」


ギルド職員が金額を告げると、冒険者達から驚きの声が上がる。しかしサミュエルは袋の中身の金貨と銀貨を確認すると驚きもせず、淡々とギルド職員にか確認した事を告げ、空間魔法で収納する。

そして先程見たワイバーン討伐依頼の事を尋ねる。


「依頼ボードに貼ってある、ワイバーン討伐依頼なんですけど………請けられますか?」

「あの依頼はランクBですが……サミュエルさんのランクは?」

「ランクCです……というか、横にいる二人もランクCなんですが……」


サミュエルが自分達のランクを告げると、ギルド職員は顎に手を当て暫く考えると、サミュエルに尋ねる。


「ランクCになってどれくらい経つんですか?」

「………数日です。………というより、冒険者登録してから数日なんです」

「………は!?………どういう……意味ですか?」


サミュエルの言葉を聞いて驚き、固まるギルド職員。そんなギルド職員に、どうしてランクが上がったのか丁寧に説明する。


「実はゴブリンキングが村の近くで暴れていたので討伐してくれ、と冒険者ギルドに頼まれまして。………そこで冒険者登録をして、緊急依頼ということで討伐したんです。それで登録した翌日にはランクCになったんです」

「……………………な……成る程、理由は分かりました。…………ですが、それなら許可を出す事は出来かねます。ワイバーンはゴブリンキングより遥かに強いので経験を積んでからなら許可を出せますが」


ギルド職員の言葉ももっともだ。何故ならワイバーンはゴブリンキングと違い、火を吹き、空を飛ぶのだから。そして更には、純粋な力がゴブリンキングより遥かに強いのだ。

サミュエルはギルド職員の説明を受け、やはり駄目かと諦める、だがミレーユは違うようでギルド職員に反論する。


「それなら大丈夫です。私達エフォールは昨日まで六番のダンジョンに潜っていましたし。今まで誰も進めなかった六階層まで進んでいます」


六階層まで進んでいる、というミレーユの言葉を聞きギルドの中が再び静寂に包まれる。

因みに六番のダンジョンとは、昨日までサミュエル達が入っていたダンジョンの事で、この街にあるダンジョンは幾つかある為、判別しやすいように番号を付けられているのだ。


「え!?……あそこの五階層にはミノタウロスがいたはずですが!………それはどうしたんですか!?」

「サミュエルさん、魔石と角を出して頂けますか?」

「ん?……分かった」


ミレーユに促され、収納していたミノタウロスの魔石と角を出してカウンターに置くサミュエル。するとギルド職員と冒険者達から、もう何度目か分からない驚きに満ちた声が上がる。

そしてギルド職員は魔石を見つめた後、角を手に取ると頷き視線をサミュエル達に向け発言する。


「確かにミノタウロスの角ですね。魔石の方は解析しないとミノタウロスの魔石かどうか判断出来ませんが………………分かりました…………ワイバーンの討伐依頼を請ける許可をギルド職員として出させて頂きます」

「おぉ、やったな!カトナー!」

「クククッ、ミレーユのおかげだな」

「だな!ありがとな、ミレーユ!」

「ふふふ。いえいえ、本当の事しか言ってませんしね」


ギルド職員から許可を貰えガッツポーズを取り、ミレーユに礼を言うサミュエル。しかしミレーユ笑みを浮かべ謙遜する、だが確かにカトナーの言う通りミレーユの機転を利かせた発言が無ければ許可は貰えなっただろう。


「良し!それじゃあ、さっさとミレーユの知り合いの鍛冶師と錬金術師に会いにいって、注文したらすぐにワイバーン討伐に行こう!」


サミュエルは満面の笑顔でカウンターに出した魔石と角を収納して二人に提案する。

そんなサミュエルの提案にミレーユとカトナーは頷き同意する、それを確認したサミュエルはギルド職員に礼を言うとサミュエル達のせいで、驚き騒がしくなった冒険者ギルドを出てミレーユの知り合いのもとへ出発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ