続々 初めてのボス
「貫け!!ストーンランス!!」
サミュエルが叫ぶとストーンランスは猛烈な回転をそのままに、標的であるミノタウロスを目掛け飛んでいく。
そしてミノタウロスの体に槍が突き刺さる……いやより正確にいえば、突き刺さるというよりもミノタウロスの体を貫いていく、といった方がいいだろう。
槍が一本、二本、三本とミノタウロスの体を貫通して風穴を開けていく。
今まで平気な様子だったミノタウロスも、このストーンランスは予想外の威力だったのだろう、強烈な痛みに震えながらも、なんとか痛みに耐えようと叫び出す。
「ブルルゥ!………フシュー……フシュー……」
痛みをこらえ、その痛みを怒りに変えながらストーンランスを放ったサミュエルを睨み付けるミノタウロス。
だが怒りに震えながらミノタウロスが見たものは、また新たに出現した空中に無数に浮いているストーンランスだった。
その光景を見たミノタウロスは、このままでは更にストーンランスを放たれてしまう……放たれる前にこのストーンランスを操る者を仕留めよう……と考えたのだろう、ゴーレム達は眼中に無いとばかりに猛然とサミュエルに向かって駆け出した。
「甘い!…………そうくるのは予想していた………貫け!!ストーンランス!!」
猛然とサミュエルに向かい駆け出したミノタウロスだが、サミュエルは恐れることも無く冷静に指先をミノタウロスに向け空中に浮いていたストーンランスを放つ。
するとまたミノタウロスの体に風穴を開けていく槍。
だがミノタウロスはそれでも止まらない、まるで体に穴が開く事すら既に関係無いとばかりにゴーレム達を凪ぎ払いながら進む。
そしてサミュエルとミノタウロスの距離が残り5m程になった時、ミレーユの声が辺りに響き渡った。
「させません!ファイヤーランス!!」
炎で出来た槍が二十本、次々にミノタウロスの顔面に向け飛んでいく。
タフなミノタウロスといえども、流石に目は体のように頑丈ではないのだろう、ミレーユの放ったファイヤーランスを両腕で顔を庇いながら立ち止まる。
そしてその際にサミュエルはミノタウロスから距離をとるため後ろ向きに勢いよく飛び退いていく。
そんなサミュエルの様子を横目で見ていたカトナーが、サミュエルがミノタウロスから充分に離れたのを確認し、剣を上段に構え叫ぶ。
「サミュエルばかりにいい思いはさせられんな…………俺の奥の手も見せてやろう…これを喰らっても立っていられるか!?……喰らえぇい!壱閃!!…………弐閃!!」
カトナーが上段に構えていた剣を振り下ろす、すると白い光の線が一つミノタウロスに向け飛んでいく。
カトナーの必殺の技で、技の名を壱閃という。
その壱閃が……白い光の線がミノタウロスの左腕に触れると腕を切り飛ばした。
そして今回の壱閃はこれでは終わらない、カトナーは振り下ろした剣を、今度は左から右に勢いよく振ると、再度白い光の線が一つ飛び出した。
壱閃の直後、間髪入れずに放たれた技の名は弐閃。
魔力を飛ぶ斬撃に変えて放つ技、壱閃を連続で放つ技である。
その壱閃の直後の弐閃が、ミノタウロスに目掛け飛んでいき、腹部に触れると腹を真一文字に切り裂きながらミノタウロスの強靭な体を上下に別ける。
そしてミノタウロスは辺り一面に血と臓物をばら蒔きながら倒れ、自分に起こった事が信じられないといった様子で切り落とされた腕と、まだ倒れる事も無く立ったままの下半身を見ながら……死んだ。
「……………ふぅ…………きつい戦いだったな…………」
「……はい…誰もこの五階層を突破できなかったのが……よく理解できました」
「クククッハァハハハッ!!かなりの強敵だったな!……ダンジョンとはこれ程に、心踊る戦いがあるのだな!」
サミュエルとミレーユは心底疲れた様子でグッタリとしているが、二人とは正反対にカトナーはミノタウロスの強さを思い出しながら笑っている。
(まぁ…確かにカトナーの言う通り、心踊る戦いが出来たけど……っていうかカトナーの放った技は何なんだ!?反則だろ!……壱閃、弐閃ときてるって事は………まさか!?)
サミュエルもカトナーの言葉を聞き、ミノタウロスとの戦闘を思い返していたが、カトナーが最後に放った技を思い出したようで恐る恐るカトナーに尋ねる。
「カトナー………もしかして壱閃って……弐閃の後にも続くのか?」
サミュエルが疲れた表情と驚きの表情、半々といった様子で尋ねる。
サミュエルの反応も仕方ないだろう、何せあの強靭な体を持つミノタウロスを簡単に切り裂く事の出来る技を連続で放つのだから。しかもサミュエルの予想では弐閃の後にも続くと思われるのだから。
そんなサミュエルの考えを理解したのか、カトナーがサミュエルの質問に笑みを浮かべ答える。
「クククッ、そうだ。………と言っても、今の限界は弐閃までだがな。………最終的には体力と精神力の続く限り、放てるようにするつもりだが………まだまだ、先は長いな」
「やっぱりか……俺もお前に負けんように、考えている技を早く実現化しないとな」
「ほう……あのストーンランス以外にもまだ奥の手があるのか?」
「勿論だ……まぁ、まだ実用段階には到達してないけどな」
サミュエルとカトナーがニヤリと笑みを浮かべながら会話をしていると、ミノタウロスの死体が光だして素材の角と魔石を残し消えていく。
そしてその素材の角と魔石をミレーユが拾いサミュエルとカトナーの会話に入ってくる。
「まったく……何で二人とも、そんな悪人顔で話すんですか?……はい、サミュエルさん。素材と魔石です」
悪人顔と言われてサミュエルは自分の顔を手で触りながら、ミレーユから素材と魔石を受けとる。
そしてその魔石を見て驚きの声を上げる。
「うおっ!?………でかっ!!この魔石、顔ぐらいの大きさはあるんじゃない?」
「ええ、確かにでかいですよね。私もこんなに大きい魔石を見るのは初めてです」
大きな魔石を手に、目を見開きながらまじまじと見るサミュエル。
驚くのも無理はないだろう、サミュエルが今までに見た魔石の中では以前に両親から見せてもらった、直径10㎝程のオーガの魔石が最も大きかったのだから。
そして今回のミノタウロスから獲れた魔石のサイズはオーガの魔石の二倍の大きさの、直径20㎝程もあるのだ。
「確かに大きいな……それほどの大きさなら良い武器が造れるだろう。まぁ、武器だけじゃなく防具もだが」
「だな!かなり質の良いマジックアイテムが出来るだろうな………だが腕の良い錬金術師と鍛冶師に出会えたら、の話だけどな」
サミュエルの言葉通り、質の良い素材を手に入れても、知り合いに腕の良い錬金術師や鍛冶師がいない限り無駄になってしまう。
しかし無駄になるとはいっても、売ればかなりの額になるのが。
そんなサミュエルの不安を感じたのかミレーユがサミュエルに声を掛ける。
「大丈夫ですよ。私の知り合いに腕の良い錬金術師と鍛冶師がいますので……それにフォークスの街には私の知り合い以外にも腕の良い方はいらっしゃるでしょうし!」
「そういえば………その辺も考えて、このフォークスの街に来たんだったな…………………………………………………………………………………………………………う~ん………いやでもなぁ………」
「サミュエル、どうかしたのか?」
ミレーユに腕の良い知り合いがいるから大丈夫ですよ、と言われたサミュエルは何か思いついた様子で考え込んでいる。
そんなサミュエルの様子を見て、何かあるのかと尋ねるカトナー。
「俺の武器………このロングソードではこの先のダンジョンでは通用しない可能性もあるんじゃないかと思ってな。………それならミノタウロスから獲れた魔石を使って新しい剣を用意した方が良いんじゃないかと……それにミレーユの杖も強化出来そうだしね。ただそうなると、折角面白くなってきたのに一旦帰らなくちゃいけないだろ?」
この先のダンジョンで通用する武器が欲しいが、折角面白くなってきたのに一旦帰るのは嫌だ、と子供のような事を言うサミュエル。
そんなサミュエルの言葉を聞きカトナーは真剣な表情で考え、サミュエルとミレーユに話しだす。
「確かにサミュエルの言う通り、ミノタウロスを相手にそのロングソードでは通用しなかっただろう……何故ならミノタウロスの怪力で放たれる一撃にそのロングソードで受ければすぐに折れるだろうからな。………そう考えると、この先のダンジョンでサミュエルの持っているロングソードでは通用しない可能性もあるな。俺にはこのドラゴンスレイヤーがあるから構わんが…………………そうだな、一度街に戻るべきだな…そして今より上等な武器や防具を手に入れてから再度このダンジョンに来れば良いだろう」
「…………………私もカトナーさんに賛成です。今は無理をしなくてもいいと思います。焦らずゆっくりいけば良いかと………ダンジョンは逃げませんしね」
カトナーが冷静に分析し、言葉にする。するとそのカトナーの意見に賛成しながらサミュエルに声を掛けるミレーユ。
そんな二人の意見を聞き、サミュエルは笑みを浮かべながら頷くと、これからの事を二人に相談する。
「それじゃあ、取り敢えず……このボス部屋にある、あの扉を抜けて次の階層に行ったら街に戻るか!」
「ええ、そうしましょう」
「………どういう意味だ?戻るならこの先に行く必要はないだろ?」
サミュエルの意見を聞き、同意するミレーユ。
だがカトナーは眉を寄せ、首を傾げながらその意味を尋ねる。
「ん?……カトナーは知らないんだな?」
「何をだ?」
「私が説明しますわ」
カトナーの疑問にミレーユが説明する。既にこういった疑問に思う事があれば、説明するのはミレーユの仕事になっていたりする………まるで先生のようなポジションのミレーユだ。
「簡単に言いますと…………自分が入った階層を記憶し、ダンジョンの中でのみ行きたい階層にテレポートできる魔法を使えるマジックアイテムがあるんです……なので次の階層に行ってから一階層の入り口の階段にテレポートした方が効率的なんです。何せ、また来る時にテレポートしてこの階層に来たら、ボスとまた戦う事になりますから」
「………成る程な。随分便利なマジックアイテムがあるんだな」
カトナーはミレーユの説明を受けて納得したようで大きく頷く。
「納得したか?」
「あぁ」
「それなら………次の階層に行くとしますか」
「はい」
サミュエルは魔石と角を収納して立ち上がり、二人に声を掛ける。
そして三人は、ボス部屋にある扉の前に立つと念のため注意して扉を開ける。
すると扉の中には二十畳程の広さの部屋の中央に、ぽつんと移動魔方陣があった。
「これはボスを倒した後に休憩をとるためにある部屋なのかな?」
「多分そうでしょうね………あれだけ強い魔物を倒した後に平気な人はそうそういないでしょうからね」
ミレーユの言う通りで、ランクBの魔物を倒した後に平気な冒険者などそうそういない。もっとも、ランクAやランクS、あるいは敢えてランクを上げていないランクB冒険者などなら平気な者もいるだろうが。
「じゃあ魔方陣の内側に入るぞ」
「はい」
「…………」
サミュエルの言葉に二人が頷き、三人一緒に魔方陣の内側に入る。
すると魔方陣が光だし三人の視界が歪むと、次の瞬間には六階層に移動していた。
「………うぅ………気持ち悪いぃ」
「大丈夫ですか?」
「ククッ、まだ慣れてないのか?」
「………俺からすれば、慣れてる二人が異常だ」
まだ移動魔方陣のテレポートに慣れていない様子で、サミュエルは二人を羨ましそうに見ながら呟く。
そしていつまでも、気持ち悪いからと休んでいては魔物に襲われるかもしれないのでマジックアイテムを取り出し魔力を込め、念じながら言葉を発するサミュエル。
「それじゃあ…………一階層入り口の階段に俺達を移動させてくれ!」
サミュエルがマジックアイテムに言葉を発すると三人を中心にして周囲がひかりだす。そして次の瞬間には入って来た時に降りた階段が目の前に現れた。
サミュエルはその階段を見て苦々しい表情で呟く。
「またこの長い階段を…………」
「ふふふ、仕方ありませんよ」
「まぁね………しょうがないか……それじゃあ取り敢えず、今日はゆっくり休んで明日冒険者ギルドに魔石やら素材を売って、ミレーユの知り合いの所に行こうか!」
「はい!」
「そうだな……今日は酒を飲んでゆっくりとするか」
「だな!それがいいな!」
「あまり飲み過ぎるのは体に良くありませんよ!」
疲れているのだろうが三人は、笑顔を浮かべ会話しつつ階段を上って行く。
そしてエフォールの三人にとって長い一日が終わる。




