続 初めてのボス
「来るぞ!気を付けろ!!」
サミュエルが仲間のミレーユとカトナーにたいして、注意を呼び掛ける。
そしてサミュエルは、ミノタウロスの足を止める為に魔法を使う。
「出でよゴーレム!カトナーのサポートをせよ!!……そして……敵を穿て!ストーンランス!!」
サミュエルが呪文を一気に二つ唱えると、まず一つめの呪文では、サミュエルの目の前に岩で出来たゴーレムが八体現れ、二つめの呪文では岩で出来た槍が十本空中に出現した。
そしてゴーレム八体は、空中に浮かんでいる槍をそれぞれ一本ずつ手に取り、カトナーと共にミノタウロスを囲もうと駆け出した。
「カトナー!俺が槍を撃ち込むから、その隙を狙ってくれ!」
「わかった!」
ミノタウロスは突然現れた岩のゴーレムに戸惑い、足を止めた。そしてその隙を逃すまいとゴーレムとカトナーは、ミノタウロスを囲む。
そこに、サミュエルがカトナーに指示をだし、ストーンランスの残りの二本をミノタウロスに放った。
「これでも喰らえぇ!!」
「炎よ、標的を燃やして!…ファイアーボール!!」
サミュエルが指をミノタウロスに向けて降り下ろすと、瞬く間に岩で出来た槍がミノタウロスの右腕に突き刺さった。
そして更にミレーユの魔法もミノタウロスに放たれ、ミノタウロスの上半身に火球が三発着弾した。
「今だ!カトナー!」
「しゃあらぁああああ!!」
ストーンランス、ファイアーボール、二つの魔法がミノタウロスに吸い込まれるようにして着弾すると、カトナーが勢いよく剣を上段に構え飛び出した。
そしてカトナーの剣がミノタウロスに触れる直前に、ミノタウロスが巨大な斧を振り回しカトナーの剣を弾いた。
「ぐぅ!?……サミュエル!こいつのパワーはかなりのものだ!!貴様のロングソードでは、まともに受けると剣を折られるぞ!!」
「わかった!なら俺は魔法をメインにして戦う!……………もう一度だ!ストーンランス!!」
「炎よ、肉を穿ち燃やせ!ファイヤーランス!!」
カトナーはたった一度剣が弾かれただけで、ミノタウロスの力を正確に認識し、サミュエルに助言する。
サミュエルはカトナーの助言を素直に受け止め、戦闘スタイルを変える。今までは剣と魔法を半々の割合で使っていたが今回は自分が持っているロングソード以上の上等な剣を所持していない為、中距離魔法とゴーレム魔法のみを使う戦闘スタイルに変えた。
そして戦闘スタイルを変更する事を決め、もう一度同じストーンランスの呪文を唱える。すると長さ150㎝、太さ4㎝の岩で出来た槍が二十本出現した。
それを見ていたミレーユが、サミュエルに負けじと、今まで使っていたファイアーボールではなくレベルが上がったことで使えるようになったファイヤーランスの呪文を唱えた。
そしてサミュエルとミレーユの、属性が違う二種類の槍の魔法がミノタウロスに向かって一斉に放たれ、空中に無数の赤い線と黒い線が、まるで踊るようにしてミノタウロスの上半身に着弾した。
「カトナーに続け、ゴーレム!!」
「しゃあああああ!!」
カトナーが剣で突きを放ち、それに続いてゴーレム八体が槍で一斉に突く。
「カトナー!!殺ったか!?」
サミュエルがカトナーに仕留めたか、と尋ねる。
何故なら、サミュエルとミレーユの魔法により煙がミノタウロスの周囲を包んでいる、その為サミュエル達からは何も見えないのだ。
「カトナー?どうした?」
あれだけ魔法を体に浴び、だめ押しの一撃をカトナーとゴーレム達から喰らって生きている筈が無いとは思うが、念のためにカトナーに尋ねる。
しかしカトナーから返事が無い為、怪訝な表情で再度尋ねるサミュエル。
すると煙の内側から、まるでダンプカーが壁に激突したような強烈な音が三度なったかと思うと次の瞬間、金属音の後にカトナーが地面をサミュエル達の方向へ転がりながら吹っ飛んできた。
「カトナー!!大丈夫か!?」
「カトナーさん!」
「っ………ぐっ………大丈夫だ……奴はまだ生きている。それどころか、まるで魔法が効いていないようだぞ………それにゴーレムは全て叩き潰された……」
怪我は無いが手が痺れているようで、手を軽く振りながら煙の内側で何があったのか説明するカトナー。
やがて煙が薄くなっていくと、叩き潰されたゴーレムが光になり消えていったのが見えた。
そして消えていったゴーレム達のすぐ傍に岩の槍が上半身に刺さり、まるでサボテンのようになっているミノタウロスがいた。
そのサボテンのようになっているミノタウロスは四つん這いになり体を、水浴びをした後の犬のようにブルブルと小刻みに震わすと、刺さっていた槍全てが抜け落ちた。
そして、ミノタウロスが体に刺さった槍を抜く一部始終を見たサミュエルは目を見開き驚いた様子で呟く。
「……おいおい………マジかよ……これはヤバイな」
あれだけ魔法を浴びせ、尚且つカトナーの一撃をまともに受けたにも拘らず平気な様子のミノタウロスを見、恐怖するサミュエル。
だが恐怖に固まっていたのでは駄目だと自身に渇を入れる。
(糞っ………ビビるな!!まだ奥の手があるんだ…………それに……魔法も剣も、極めると決めたんだ!こんな奴に殺られてたまるか!!)
「ミレーユはさっきまでと同じように援護をしてくれ!カトナーは強力な一撃を頼む!」
「はい!分かりました!!」
「………貴様はどうするんだ?」
「ゴーレムとストーンランスで殺る!」
サミュエルの指示にミレーユは勢いよく返事を返すが、カトナーは眉を顰めながら質問する。
そしてカトナーの質問に返答するが、カトナーはその答えに納得いかない様子で反論する。
「ストーンランスが効かなかったのは見ていた筈だが?体力と精神力を無駄にするだけだぞ」
「これから使うストーンランスは只のストーンランスじゃない………俺なりに工夫した、俺流のストーンランスだ!」
「クククッ、成る程な。奥の手か…………分かった、ならば貴様が奴の相手をしている間に俺の壱閃を奴に叩き込んでやる!」
サミュエルの説明を聞き納得した様子で少し離れた位置に行くカトナー。
そして離れて行くカトナーを横目で確認したサミュエルは自身の体に大量の魔力を生み出す。
「はああああああああ!!」
サミュエルは自分の体の内側に、まるで魔力で出来た台風のような、とんでもないエネルギーを感じ獰猛な笑みを浮かべながら呪文を唱える。
「出でよゴーレム!!」
サミュエルが呪文を唱えると、サミュエルの周囲に十二個の光の塊が現れる。その光は、次第に人の形になっていき、やがて十二体の青銅製の鎧と槍を装備したゴーレムが現れた。
「ゴーレムよ!ミノタウロスの斧の一撃を受けぬよう距離をとりつつ牽制しろ!!」
サミュエルの指示に従い十二体のゴーレムはミノタウロスの周囲に少し距離をとりながら散らばった。
そしてゴーレム達の動きを見ながら更にサミュエルが呪文を唱える。
「ストーンランス!!」
ストーンランスと呪文を唱えると、十本の岩で出来た槍が現れた。だが今までのストーンランスとは明らかに違っていた。
何が違うのか…………それは、今までのストーンランスはまさに只の岩の槍だったのだが、今回のは槍の穂先がまるで螺のようになっているのだ。
そしてそのストーンランスは空中で弾丸のように回転しながらその場に留まっている。
「ミノタウロス………確かにお前は強かったが……相手が悪かったな……俺が槍を放った後二人も頼むぞ!」
「はい!!」
「クククッ、任せろ!」
サミュエルはミレーユとカトナーに声を掛ける。そして二人が自信満々に返事を返すと、サミュエルは鋭くミノタウロスを睨みながら叫ぶ。
「貫け!!ストーンランス!!」




