レベルアップ
ドラゴンスレイヤーを入手した部屋から出発して、割とすぐに三階層への移動魔方陣を発見し、三階層へと進んだ三人。
本人達は知らないが、少なくともこのダンジョンでは今まで挑戦してきた冒険者や貴族達より、遥かに短い時間でここまで進んで来ている。
何気に凄い事をしているエフォールの三人だがここ三階層に来てかなり不満な様子で呟く。
「なぁ、ミレーユ」
「どうかしましたか?」
「この三階層に来てかなり経ったと思うんだけど、外はもう夜ごろかな?」
(恐らく三階層に入った時点で、十五時ほどだろうと思うけど。……そうすると今の時間は、二十時位じゃないか?俺の体内時計ならば………)
「そうですね……………私もサミュエルさんの仰る通りだと思いますよ」
「はぁぁ……三階層からは、かなり広いな」
「確かにな……さっさと強者と戦いたいが……ここまで広いとなると」
サミュエルとカトナーは早く先に進みたいのだろう、何処にあるとも知れぬ移動魔方陣を想像しながら愚痴を言う二人。
三階層からは、二階層までの約二倍程も広くなっているので愚痴を言うのも仕方ない事だ。
だがミレーユは愚痴を言う二人とは違い、笑顔を見せながらサミュエルとカトナーに声をかける。
「この三階層では、確かにかなりの時間を使っていますが…………ふふふ、私にとっては大きな収穫があったので有難いくらいです」
「収穫?」
「ほう…何か技でも閃いたのか?」
ミレーユが笑みを浮かべ収穫があったと言うが三階層に来てから、得られた収穫と言えば八十体もの魔物を倒し得られた素材と魔石位しかない……と、考え疑問に思い首を傾げるサミュエル。
そしてミレーユはカトナーの言葉を聞き、嬉しそうに言う。
「技を閃いた訳ではありませんが……二人ともギルドカードを確認してみて下さい」
「……?ギルドカードを?……………………うぉ!?」
「クククッ、成る程な……収穫とはこの事か」
ミレーユに言われ、ギルドカードを確認した二人。
一人はギルドカードの特性を知らなかったからだろう、目を見開き驚きの声を出す。そしてもう一人は、ギルドカードの特性を知って、笑みを浮かべている。
「レベル20だったのに……………今はレベル26になってる!!」
「クククッ…サミュエルのレベルは、なかなか上がっているようだな。俺はレベル32に上がっているな」
「レベルが上がれば自動的に、ギルドカードに記載されている表示も変化するのか!?」
「ふふふ、より正確に言うと……レベルだけでなく、スキルも祭壇で取得したらすぐに記載されますよ。因みに私のレベルは16になりました!」
「凄いじゃん!ミレーユが一番上がってるな!!」
ギルドカードの表示が変化している事に驚き、次にはミレーユのレベルがかなり上がっている事に、自分のことのように嬉しそうな笑顔を浮かべるサミュエル。
因みに何故レベルアップした事に、こんなに喜んでいるかというと、冒険者ギルドで請ける依頼にランクやレベルがある一定以上の者でなければ駄目な場合がある。
そしてレベルアップする事により体力、精神力、瞬発力、腕力等と身体能力が飛躍的に上がるという効果がある為、こんなに喜んでいるのだ。
「この分だと五階層のボス部屋までに、全員レベル30はいくかもな!」
「そうですね、上手くいけばそれだけレベルアップする可能性もあり得ますね!」
「クククッ、そうだな……それにここのダンジョンを攻略した時にはレベル40に到達しているかもな」
先程まで愚痴を言っていたとは思えないほど明るい表情で進む三人。
おそらくミレーユは、不満げな二人の表情を見てわざとレベルの話題を出したのだろう。
まだ結成されて間もないパーティーであるが、既にミレーユはこのエフォールの潤滑油とでもいうべき存在になっていた。
そしてそんな風にして、軽い足取りで進んでいると、三人はまた宝箱のある部屋だと思われる扉を発見した。
そしてサミュエルが扉のノブに手を当て二人に声をかける。
「いいか?開けるぞ!」
「はい!」
「……………」
サミュエルが二人に確認すると、ミレーユは勢いよく、そしてカトナーは無言で頷く。
そんな二人の様子を見てサミュエルは一気に扉を開き中に入る。
「ふぅ………良かった、宝箱のある部屋だな」
「扉を開く時は緊張しますね」
部屋の中は、ドラゴンスレイヤーを入手した部屋と変わらない様子だった、一つを除いて。
その一つとは、宝箱の大きさである。ドラゴンスレイヤーが入っていた宝箱とは違い、明らかに小さかったのだ。
そしてサミュエルは、その宝箱の小ささに気付いたようで、少しがっかりしている。
「う~ん…………小さいな。これはあんまり期待出来ないな………ミレーユはどう思う?」
「そうですね、ドラゴンスレイヤーが入っていた宝箱に比べると…………大きさは半分程でしょうか………確かに期待出来そうもありませんね。ですが、それでも宝箱としては普通のサイズですので……盾等が入っているのでは?」
「盾かぁ……それもいいけど、俺は使わないしな。中身が盾だったらミレーユが使うか?」
宝箱の中身をあーでもないこーでもないと言っている二人を見てカトナーは、またか、と呆れた表情をしている。
前回は「お前にロマンは無いのか!?」と言われた為に少し待つが、宝箱を開く気配が全く無いので宝箱に手を当て一気に開く。
すると宝箱の開く音を聞き、前回同様サミュエルが悲痛な叫びをあげる。
「うぉい!!…お………お前は悪魔か!?お前にはロマンが無いのか!?……ロマンどころか、心を無くしてしまったのか!?」
これまたサミュエルは両膝をつき、おお、神よと言いながらまるで悲劇の主人公を演じる劇団俳優の様に、芝居がかったオーバーリアクションで嘆く。
そんなサミュエルにカトナーは視線を向け、深い溜め息を吐くと中身を取り出し見せながら言葉をかける。
「どうやら…盾じゃなくショートソードのようだぞ」
「空じゃないけど……マジックアイテムじゃないみたいだな……」
「そうですね、普通のショートソードのようですね」
「中身はランダムで補充されるって言ってたよね?」
「はい、そうです。…………ですが、より下の階層の方がいいマジックアイテムを入手する可能性が高いそうです………ドラゴンスレイヤーの場合は恐らく奇跡的に運が良かったとしか考えられませんね」
ミレーユの説明を受け、そんなに簡単にマジックアイテムが入手出来る筈もないな、と大きく頷きながらカトナーからショートソードを受けとると、それを収納する。
そして、これからどうするかをサミュエルが二人に問いかける。
「もう恐らく外は夜だと思うけど……晩御飯を食べて、ここで一夜を明かす?」
「そうですね、充分な休息や睡眠は出来る時にしておくのがいいですからね」
「あぁ、そうだな。いくら雑魚を相手にしているとはいっても、休息は取らねばならんからな」
サミュエルは二人が同意したので、収納していた食事を二人に配る。
因みにこの食事だが、次元魔法の一種の空間魔法で収納されていて、空間の中に温かい物は温かい内に入れておけば、出した時には温かいままであり、勿論腐る事も無い。
その理由は、空間の中では時間というものが存在しない為だ。
「このスープ美味しいですね」
「だね!それにこの干し肉も旨い!……以前に食べた干し肉は酷かったけど………」
「クククッ、これで旨い酒があれば、なおいいがな!」
「「ははははっ!」」
「ふふふ、お二人は本当にお酒が好きですね」
美味しい料理で体と心に栄養を摂り、ここは魔物が現れない安全地帯の為ゆっくりと睡眠をとる。
そして充分な睡眠をとった後の翌日、エフォールの三人は次の階層を目指し出発した。




