フォークスの街
酔い潰れた次の日、カトナーをマリアンヌとマリンに紹介したサミュエル。意外な事にマリンは怖がらずに笑顔でカトナーに接していた事がサミュエルを驚かせた。
そしてカトナーを新たに旅のメンバーに加え一行はフォークスの街に向け出発した。
そして旅は順調に進み、一行はフォークスの街の正門前に辿り着いていた。
「おぉ……でっかいな!」
サミュエルの視線の先には、街を囲んでいる高さ50m程の壁が見えていた。
そんな壁を目にして顔を上に向け口を大きく開き驚いている。
そして上に向けていた顔を前に向け、眉をひそめながら今度は嫌そうに呟く。
「おぉ……………行列凄すぎ…………」
「ふふふ、いつもこの街の正門はこんな感じですよ」
「……です」
「これ俺たちの番がくるまで……」
「それは仕方ないですよ」
「がまん……です」
「はぁい」
眼前に列を作っている人の行列は、この街に入る為に門番の許可が必要なので一人一人チェックされている。何故なら街の内側に盗賊や過去に街で問題を起こした者を入れる訳にはいかないので、それらの危険人物を排除するために必要な事なのである。
マリアンヌやマリン、ミレーユもそれがわかっているので、こうやってサミュエルに言い聞かせているのだ。
もっともマリンの場合は、サミュエルが少し子供っぽい所があるため、お姉ちゃん気分を味わいたいだけのようだが。
「カトナーは……爆睡だな……こいつ一体何時間寝れば気がすむんだ?」
「暇だから寝る……って言ってましたよ」
サミュエルがカトナーを見て疑問に思い、独り言を呟く。
するとその独り言にミレーユがカトナーの凶悪そうな笑みの物真似をしながら説明する。
「ははははっ!似てる!」
「じゃあ今度は…………。それは私の………です!」
「マリンだ!ははははっ!それもめちゃめちゃ似てる!」
「似てない…………です!」
ミレーユがやったカトナーの物真似があまりに似ていたため大笑いするサミュエル。そんなサミュエルの反応を見てまたミレーユが物真似をする、今度はマリンだ。
そしてマリンは顔を赤くして似てないと否定するがその姿がミレーユがした物真似と全く一緒だったため、また大笑いする。
そんなこんなで何故か馬車の中は物真似大会となり暇を過ごしていると自分たちの番がやってきて、門番の一人が話し掛けて来た。
「このフォークスの街に来た理由は?」
「俺はダンジョンが目的で来ました」
「冒険者か?ならギルドカードを出してくれ」
「はいどうぞ」
サミュエルがギルドカードを渡すとそれをしっかり確認する門番。
「ん……確かに冒険者だな、よし。君はいいぞ………他の者達は?」
「私達三姉妹はこの街で暮らしているので家に帰って来たんです」
「ん?……あぁ…確かに……この街を出発する君たちを俺が対応したんだったな……わかった君たちも、もういいよ。…………………それで………頭から袋を被っている人物は?」
サミュエル、マリアンヌ姉妹と街に入る許可を与え、最後の一人というところで眉をひそめ、怪訝な様子でたずねる門番。
最後の一人とは勿論カトナーの事である。
そのカトナーが何故、頭から袋を被っているのかを説明すると………今は昼の為、太陽がこれでもかと主張してくるので眠るには眩しいとカトナーが言い、袋を被って寝ているのだ。
それを知らぬ他人からしたら誘拐かと思う程だ。
それにサミュエルから燕返しという技を放たれ、致命傷だろうと思わせる程に革鎧が裂けているため、誘拐という可能性の信憑性が増している。
それを理解しているのかしていないのか、サミュエルは袋を乱暴に取り、カトナーを起こそうとする……すると門番の男が驚き表情を固まらせる。
「おい!カトナー!」
「………………………」
「きょーりょくな、まものがいるーぞー?」
「何!?どこだ!?俺がやってやる!!」
「………お前……こんなアホな策に……まぁいいや。街に着いたから、門番にギルドカードを提示してくれ」
「貴様!?騙したな?……まぁ、いい…これでダンジョンに入れるんなら……ほらそこの門番の男!ギルドカードだ」
「へ?………え?………」
門番はカトナーの顔を見て固まっている。
そんな門番の様子をみて、俺も最初はこんな感じだったな、等と考えながらカトナーの説明をするサミュエル。
「えぇと……なんといいますか……この男は魔族でして…俺と一緒の目的で、ダンジョンに入る為にこの街に来たんです。因みに冒険者です」
「え?……………あ…あぁ…………確かに………冒険者のようだな。………すまんな……魔族なんて初めて見たから少し驚いてしまってな………………通って…いいぞ」
サミュエルの説明を聞き少し落ち着いたのか、ギルドカードを確認し、街に入る許可を出す門番の男。
因みにカトナーを見て驚いていたのはサミュエルたちと同様に許可を貰う為に列を作っている他の人間もたちもだが。もっとも門番はサミュエルの説明を聞く事が出来たが、他の人間たちにはその説明が聞こえなかったのだろうサミュエルたちが門をくぐって中に入った後も驚愕した様子で固まっていた。
「人が多いな!それに店も沢山ある!」
「街の観光でもしますか?案内しますよ」
「いいの!?それじゃあお言葉に甘えて!」
ミレーユの案内するという言葉に、礼を言いマリアンヌとマリンに、またね、と言葉を交わし別れる。
そしてフォークスの街の観光名所などをカトナーとサミュエルの二人はミレーユの先導ですすむ。
するとゆうかゆ夕方頃に差し掛かった時、カトナーが一軒の店で立ち止まった。その一軒の店とは防具屋だ。
「カトナー、どうした?」
「あぁ…防具がこの有り様じゃあ、ダンジョンに入るのに心許ないからな」
「じゃあ、村の冒険者ギルドで貰った報酬の残りで買うといいよ………ほら」
「すまんな」
これで買えと収納していたお金をカトナーに放り投げる。
するとカトナーは真剣な表情で防具を一つ一つ手に取り、確かめていく。
因みに報酬はちゃんとミレーユと半分ずつにしている。ミレーユはこんなに貰えないと言っていたがサミュエルが無理矢理に渡した。
「サミュエルさんはもう明日からダンジョンに入られるんですか?」
「ん?うん!カトナーがうるさいしね。どうかした?」
「…………あの……良かったら…私も一緒に連れていってくれませんか?」
ミレーユは最初は言いにくそうにしていたが、意を決してサミュエルに伝える。
そしてサミュエルは少し考えた後、ミレーユに質問した。
「……………パーティーを組みたいって事?」
「はい!私はサミュエルさんやカトナーさんの様に強くはありません…………お二人の邪魔になるかもしれません……………ですが!これから強くなってみせると約束します!ですから私も連れていってくれませんか!?」
決意を両の目に宿し強い口調で想いを言葉にし、伝えるミレーユ。
そんなミレーユの強い想いを感じサミュエルは笑顔で答える。
「それじゃあこれから宜しくね!」
「…………はい!……よろしくお願いいたします!」
サミュエルの笑顔につられるようにミレーユも笑顔になる、端から見ているとミレーユがプロポーズし、サミュエルがそれに答え、今この瞬間に夫婦になった、そんな雰囲気を周囲に振りまいている。
実際周囲にいる人間は、額に青筋をたてている。
全員男だが。
するとそこに新しい胴鎧を装備したカトナーが戻ってきたて、余ったお金をサミュエルに渡してきた。
「ククッ…なかなかいい防具が手に入った。明日が待ちきれんな!……………ほら余った金だ」
「結構余ってるな……それじゃあ明日はダンジョンに入るんだから高めの宿に泊まるとするか……それと酒も飲もう!」
「ふふ、ですがその前にギルドに行きパーティー登録をしに行きましょう」
「あぁ、そっか…じゃあ先にギルドに行こう!案内よろしく!ミレーユ」
「はい」
カトナーは早く酒が飲みたいといった表情で、ミレーユとサミュエルは笑顔で冒険者ギルドへ歩を進める。
そして街中同様にギルドでもカトナーの容姿を見て固まってしまった人達を尻目に職員を落ち着かせパーティー登録をする。
因みにパーティー名はエフォール<努力>となった。努力する事を忘れぬ様に。




