ランクアップと初めての報酬
サミュエルとミレーユ、そしてカトナーの三名は村の門に帰ってきた。
サミュエルは心底疲れた表情をし、ミレーユは何故か満面の笑みをし、カトナーはダンジョンの事を考え凶悪そうな笑みを、と三者三様の表情で門をくぐる。
村の中は、時間にして夜中の三時を過ぎている事もあり、家の外には誰も出ていない。
そんな静かな村の中にサミュエル達の歩く音だけが響いている。
やがて唯一、中から光が漏れている建物に辿り着き、サミュエル達は中に入って行った。
「………あっ!サミュエルさん!?………ゴブリンは!?」
声を掛けてきたのは、サミュエルが冒険者登録をする時に応対した男性職員だ。余程、心配だったのだろう声を張り上げ聞いてくる。
もっとも、サミュエル達を心配してというよりは、ゴブリンキングと率いられているゴブリン約三百体が村を襲ってこないかという事だろうが。
そんな男性職員の内心を知ってか知らずか疲れた表情をしながら報告し始めるサミュエル。
「ゴブリンは約三百体いましたが、全て討伐しました」
「おぉ!……それで……ゴブリンキングのほうは?」
「ええ、そちらも討伐してきました」
「本当ですか!?……よかった!………一応確認したいのですが………討伐証明部位等は?」
確認したいと言われて、サミュエルは収納した討伐証明部位と魔石を取り出しカウンターに並べていく。
そして次々と並べられていく魔石と討伐証明部位を見てカウンターの中にいた他のギルド職員達から驚きの声が上がる。
「これで全部ですね!……この耳は……確かにこの大きさの耳は、そして同じくこの魔石の大きさや魔石から感じられる魔力はゴブリンキングに間違いありません!」
「疲れていまして………良かったら早めに……」
「すみません、少々お待ち下さい。正確な数を確認してきますので……君たちも手伝ってくれ!」
「はい!」
「わかりました!」
男性職員が他の職員に声を掛け、職員全員で耳の数と魔石の質を確認していく。
そして男性職員は気になっているのだろう、赤い髪色をしていて肌が真っ黒で耳が尖っている男に視線をチラチラと向けている。
そんな男性職員の視線に気づいたミレーユがカトナーの紹介をする。勿論魔物とは言わないが。
「こちらの方は魔族のカトナーさんです」
「やはり魔族の方なんですね………すみません……魔族の方を初めて見たものですから」
「………ふんっ…………」
男性職員の言葉を聞き、一言も発することもないカトナーの様子を見て機嫌を損ねたのかと冷や汗を流す男性職員。
そこに男性職員にとってはタイミング良く、耳の数や魔石の質を確認した職員がお金を持ってきた。
「討伐証明部位と魔石を換金した分です。そしてこちらが緊急依頼という事でランクB相当の報酬です。…………合わせて金貨七枚に銀貨八十枚です」
「どうも…………そうだ、カトナー!」
「何だ?」
「どうせだから、冒険者登録しといたら?」
「何故だ?」
何故サミュエルが冒険者ギルドに登録する事を勧めるのかというとダンジョンに入るには冒険者か貴族、あるいは貴族に雇われている騎士だけにしか許可されない為だ。
因みに貰った報酬の金の説明をすると、銅貨十枚で銀貨一枚になり、銀貨百枚で金貨一枚になる、そして金貨千枚で白金貨一枚になる。
「成る程な……人間達は面倒な決め事が好きだな………わかった登録しておこう」
「すいません、登録用紙を貰えますか?」
「はい……………こちらにご記入下さい」
登録用紙を貰い記入していくカトナー。
そしてサミュエルが登録した時と同じように銅板に血を垂らした。
そして文字が現れたギルドカードを見るサミュエルとカトナー。
「スキルは無いけど………レベル30!?……俺より高いじゃん!」
「ククッ……当然だろう…だが戦いはレベルが全てではない、戦いに込める心、そして俺を倒したように技も必要だ。……心技体の三つがバランスよくなければ駄目だ……その点貴様は優秀だと言えるだろう」
「そりゃどうも」
優秀だと言われ、照れた様子で素っ気ない返事をするサミュエル。
すると男性職員が話し掛けてきた。
「すみません、ミレーユさんサミュエルさん、お二方のギルドカードをお貸し願えませんか?………………そちらのカトナーさんも今回の討伐に加わっていたのならギルドカードをお願いします」
「え~と何かありましたっけ?」
男性職員にカードを出してくれと言われ首を傾げているサミュエル。
そのサミュエルにミレーユが説明しながら男性職員に確認する。
「サミュエルさん、無事に依頼を達成できた場合ランクアップするという話だったじゃないですか………………その事ですよね?」
「あぁ、そうだったね。忘れてた」
「はい、今回はランクB相当の緊急依頼でしたが単独、あるいは一つのパーティーで依頼を達成させたのではなくサミュエルさん、ミレーユさんとお互いに単独同士の二人で同じ依頼を請け達成した事になりますのでランクBべはなく、ランクCにですがランクアップさせて頂きます」
通常一つの依頼に対して一人か一つのパーティーしか請けられないが、緊急依頼の場合に限り複数のパーティー、あるいは単独で活動する者が複数人、請けられる。そして緊急依頼の場合は自分のランクより数段上でも請ける事が出来る、が複数のパーティーや複数の単独の者達と何人も集まる為依頼を達成する確率が高い、その為いくら高いランクの緊急依頼を達成したからといってもランクCまでしかランクアップ出来ないのだ。
もし今回の緊急依頼をサミュエルが一人で達成できていたらランクBまで上がる事も出来たのだが。
「ランクが上がるだけでラッキーですから。別にいいですよ……………あっ、それとランクアップはカトナーも含めて三人分お願いします」
「やっぱり……カトナーさんもでしたか……わかりました。では三人分、すぐにギルドカードの変更をしてきます」
男性職員は、やはり魔族のカトナーも一緒に戦ったのかと納得した様子で奥の部屋に入って行った。
盗賊を倒したとはいえゴブリンキングは無理だとでも考えていたのだろう、そしてゴブリンキングを倒したのがカトナーだと男性職員は判断したようだ。
「私はまだランクGだったのでランクCまで一気に上がるのは、何だか悪い気がします」
「はは、確かにね」
ミレーユの考えももっともだと、笑いながら頷くサミュエル。
因みにカトナーは、ランクアップなど興味無いといった様子でギルドの中に設置してある酒場のカウンターから勝手に酒を取り出し飲んでいる。
そんなカトナーを笑っていたサミュエルが驚きながら止める。
「ちょ…ちょっと駄目だっつーの!金払わなきゃ!」
「ハハハ!なら払っておいてくれ!」
「まったく……あれいくらですか?」
「え?………あぁあれは金貨一枚になります」
「たかっ!?……………金貨一枚って………」
カトナーは気軽に笑って払っといてくれと言うが平均的な宿屋で一晩銀貨三枚で泊まれる。この世界の一月は三十日の為、金貨一枚で一ヶ月は宿に泊まれるし、少し余るほどだ。
その為、サミュエルは半泣きで職員に金貨一枚を差し出した。
そしてカード持っていった男性職員が戻って来た時、心の中でお前が遅いからカトナーが酒を飲みだしたんだぞ、と叫びながら笑顔を浮かべ少し殺気をだしながら………カードを受け取った。
そしてカトナーは興味なしといった様子でカードをすぐしまい、サミュエルとミレーユはしっかり確認した後宿屋に入っていった。
勿論カトナーの部屋も取る事は忘れずに。
「お休みなさい………というかもう太陽が昇って、今はお昼ですけど……」
「ふふふ、そうですね」
「マリアンヌさんとマリンちゃんにはミレーユさんから報告しといて下さい」
「はい、わかりました。それではお休みなさい」
「お休みなさい」
「カトナーはこっちの部屋だ」
「あぁ……しかしこの酒はなかなか旨いな」
ミレーユと別れ部屋に入るカトナーとサミュエル。そしてカトナーの、酒が旨い発言を聞き少し腹が立ったのか酒を奪い、残り少なくなっていたボトルの中身を飲みほすサミュエル。
そしてこれが金貨一枚の味か、悪くないと言いながらベッドに横になるとあっという間に眠りについた。
そしてカトナーはダンジョンの中にいる強力な魔物に想いを馳せ眠りにつく。
そして夕方目を覚ましたカトナーに起こされるサミュエル。
「うぅ……何だよ?」
「酒を飲みに行くぞ」
「はぁ!?昨日金貨一枚分飲んだだろ!?」
「ボトル一本だろ?」
「わかったよ………少しだけだぞ」
そんな風に会話をした後、酒場に行くが結局飲んでいる内にサミュエルも酔ってしまったのか調子に乗ってしまい、また金貨一枚使って宿屋に戻り寝るのだった。




