ヒューマノイドゴブリン
凶悪そうな笑みを浮かべ、自分をヒューマノイドゴブリンの魔物だと言う男。
そんな男の容姿をもう一度冷静に観察しながら頭のなかにある、本で見た魔族の情報を思い出し、照らし合わせるサミュエル。そして確かに魔族とはどういった容姿をしているのか本には載っていなかった事を思い出した。
男性職員が言った、恐らく魔族だろうという言葉をそのまま鵜呑みにしていた自分に危機感を抱き顔を顰め、黒い男にたずねる。
「ヒューマノイドゴブリンとは?…………すまないが………ヒューマノイドゴブリンとは何なのかを教えてもらえるか?」
「貴様らは知らんのか?……ならば教えてやろう。ヒューマノイドゴブリンとは、ゴブリンという種族の中から数億から数十億に一つの確率で生まれる魔物で………高い知能、高い身体能力、そして生まれながらに魔力を生み出す技術を持ち、外見上は人間やそれに類する者たちに近い容姿を持つ特殊な生命体………」
男の説明を受け、サミュエルは男の体の上から下へと視線を巡らす。
男の外見は、皮膚は真っ黒で瞳の色は金色、目の周りは真っ赤な色をしている。そして下瞼の中央から真下に同じく真っ赤な線が顎まで伸びていて髪は肩まで長く、目の周りや下瞼から伸びている線と同じ真っ赤な色をしている。そして身長は185㎝程だろうか…体格は太くもなく細くもなくといった容姿をしている。
そして装備は両手に手甲を装着し、それ以外は胴体、腰周り、膝から下、といった場所は全て魔物の革で出来ている鎧を身に付けている。
武器は太く、肉厚な金属の塊のようでいて武骨なグレートソードを背中に差している。
そんなヒューマノイドゴブリンがグレートソードを抜きながら続けて声を発する。
「理解出来たか?…………出来たら俺と戦え!」
サミュエルは好戦的な視線を受け戸惑いながらヒューマノイドゴブリンに手のひらを向け声を掛ける。
「ちょっと待て!………確かに…お前がヒューマノイドゴブリンという生命体だという事は理解出来た!………だが何故お前と戦わなくてはいけないんだ!?」
「………言っただろう……俺は強い奴と戦いたいと」
何を聞いていたんだ、と言いたげな表情で話すヒューマノイドゴブリン。
そして疲れてるから嫌だとばかりにサミュエルが答える。
「俺はやりたくないんだよ!………問答無用で襲ってくる人間や魔物なら容赦しないが……それに今は疲れてるんだよ……」
「貴様らが戦っているところを見させてもらった…………確かにあれだけ魔力を使った直後なら体力、精神力はかなり消耗しているだろう……だが戦闘後三時間以上は経ち、もう貴様なら大分回復しているだろう?」
「じゃあ…………わざわざ回復するのをここで待っていたという事か?」
「そうだ…疲弊した奴と戦って何になる。………そんな、つまらん勝利などいらん」
「…………………………はぁ…………………………」
ヒューマノイドゴブリンの言葉を受けて溜め息をはくサミュエル。
そんな二人のやり取りを黙って見ていたミレーユがサミュエルに目に力を込め言葉を掛ける。
「私も戦います!」
「…………フッ………やめておけ………その男の邪魔になるだけだ……それに足手まといを庇いながら戦う奴に勝っても、つまらんからな」
サミュエルはミレーユの言葉と表情を見た後、もういくら言っても駄目だな、と諦めた表情でヒューマノイドゴブリンに視線を戻し、話し掛ける。
「わかった……場所はここでいいか?」
「あぁ…俺はかまわん」
「ミレーユ、気持ちはありがたいが………さがっていてくれ…こいつとは一人でやる!」
ミレーユはサミュエルの表情と言葉を聞き、今の自分では足手まといにしかならないのかと唇を噛みながら頷くと、サミュエルとヒューマノイドゴブリンから少し離れた場所までさがっていった。
そしてミレーユが離れたのを確認してサミュエルは剣を抜き魔力を体に満たせる。
「クククッハッハハハッ!いいぞ!なかなかの魔力だ!」
「やり合う前に、お前の名を聞いても?」
サミュエルの体に満ちる魔力を感じ、楽しくてしょうがないといった様子で笑う男に名をたずねるサミュエル。
何故魔物の名前などを聞くのか………。
理由はサミュエル達が体力や精神力を回復させる時間を与え、尚且つ不意討ちではなく正々堂々と正面から一騎討ちを仕掛けてきたこのヒューマノイドゴブリンを気に入ったのだ。
ただ強い奴を求め、ただ己の力を高める事に執着する、このヒューマノイドゴブリンを………ひたすら努力をしているのだろう、このヒューマノイドゴブリンを。
「俺の名は、カトナー………貴様の名は?」
「…………サミュエル………」
「サミュエル………ククッ………さぁ始めようか…サミュエル!!」
お互いに名を聞き合った直後、カトナーがグレートソードを上段に構え、瞬時に間合いに入る。
「しゃぁあああ!!」
「ふんっ!」
ガギィンッ
カトナーは間合いに入ると同時に剣を振り下ろす。そしてサミュエルはその振り下ろされる剣を力を込め弾く。
すると辺りに、金属同士がぶつかる大きな音が響いた。
「っ!?」
(かなりの力だ!…………まともに受けていたら剣がもたない!)
「やるな!クククッ………予想通りの強さだ!!こうでなくてはな!戦いはこうでなくては面白くない!!ハハハハハッ!」
予想以上の力に困惑するサミュエル。そんなサミュエルとは正反対に楽しそうに笑うカトナー。
そしてそんなカトナーを見て、次はこちらからの剣を受けてみろとばかりに左諸手上段に構え剣を振り下ろすサミュエル。
「せぇあああ!!」
「しゃあらぁあ!」
ガギィンッ
「クククククッ……………手が痺れている、久しぶりだぞ!この感覚は!」
お互いに相手の強さを直に感じながら再び打ち合う。
ギィン
ギッギィン
ガギィンッ
ギィン キンッ
サミュエルが下段に構えると、カトナーが上段に構え打ち合う。そうかと思えば次の瞬間にはカトナーが左から右へ剣を振り胴斬りを放ち、サミュエルがそれを受け流す。
そういった風に何度も、何度も打ち合う二人。
やがてお互いに頬や首、防具に剣がかすり、小さな傷をつけていく。
そしてサミュエルが、過去………前世で剣道にのめり込んでいた時に本で見て、こちらの世界に来てから必死で身につけた技を放つ。
「受けてみろっ!燕返しだぁあああああ!!」
「……な!?しまっ!!!」
燕返し………かつて日本に存在した剣豪の一人、佐々木小次郎の技である。上段から下へ剣を振り、すぐさま下に振り下ろした剣を今度は下から上に斬り上げ、放つ技である。
文字にすると簡単に思えるが下に全力で振り下ろした剣をすぐ上に斬り上げるのは常人には不可能な動きなのだ。例えトップアスリートと呼ばれる者たちでも。
サミュエルは強靭でしなやかな筋肉、それらを魔力で補ってようやく会得出来たのだ。
そしてカトナーは上から振り下ろされた剣を横にステップして避けたのだがすぐさま下から振り上げられた剣を避けきれず右の骨盤から左の胸まで斜めに斬られ、驚愕した様子で背中から倒れた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
「クハハハハハッ!……ぐっ………ハハッ………やるなサミュエル………始めて見た技だ………たいした技だ……」
肩で息をするサミュエル。そんなサミュエルを仰向けのまま目線だけサミュエルに向け言葉を掛けるカトナー。
そして戦いが決着したのを確認してミレーユが急いで駆け付ける。
「サミュエルさん!たくさん怪我が…………すぐにこのポーションを飲んでください!」
サミュエルの傷を見てすぐに自分のポーションを差し出すミレーユ。だがサミュエルはそれを手で制止し、カトナーに歩みより、魔力を生み出しながらカトナーの胸に手を当てる。
そして………………………………………。
「この者に癒しを!リキューパレイト!」
サミュエルが呪文を唱えるとカトナーの体が白い光に包まれ、斜めにつけられた傷がどんどん塞がっていく。
やがて一、二分もしたら、傷が完全に塞がっていた。そしてカトナーは目を見開き驚いた様子でサミュエルに視線を向ける。
そんなカトナーの視線を受け、サミュエルは屈託のない笑みを浮かべ言葉を掛ける。
「はははっ、何だ?助けたら駄目なのか?……ははは」
「何故……俺の……貴様は何故、俺を助ける?」
「ただ強い奴と戦い、そしてそいつに勝ち、さらに強くなる!そしてまた強い奴を!………………そんなお前が気に入っただけだ」
「クククッハッハハハハッ!!貴様は面白い奴だな!ククッ………」
「なぁ……よかったら俺と一緒にこないか?」
「一緒に?………いや確かに俺もお前を気に入ったが………俺はまたチャンスを貰った………強さへ挑戦するチャンスを………貴様にな。………だからまた強い奴を探すさ」
また強い奴を探すと、これまたあった時に見せた凶悪そうな笑みをまた浮かべ、こたえるカトナー。
そしてそんなカトナーの笑みが移ったのかサミュエルも凶悪そうな笑みを浮かべ質問する。
「カトナーはダンジョンを知ってるか?」
「あぁ…一度も入った事はないが………それが?」
「俺が向かっている街には八つのダンジョンがあり、その内一つは最深部まで攻略されてあるが…………残りの七つのダンジョンは強力な魔物がいて、ある一定から下には誰も足を踏み入れていないらしい」
サミュエルがダンジョンの話しをするとカトナーは嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべ、サミュエルに答える。
「強力な魔物か…………クククッ、いい事を聞いた、それでは是非とも足を踏み入れたいな!わかった貴様についていこう!」
そして二人と一体の魔物は村に向け出発した。
勿論、自分は魔物だと言えばややこしい事になるため、人には魔族だと自己紹介してくれ、と話し合いながら、そんな風にして長かった一日が終わった。
ミレーユに続き新たな仲間です。
この二人と一体でダンジョンに挑みます。
まだ仲間は増やす予定です。




