初めての魔物そして初めての盗賊
両親に別れを告げてから三時間後。
サミュエルは平原で、人や馬車などで踏み固められた一本の道を歩きながら一人呟いていた。
「この世界に転生してから十五年か……………。父さんや母さんには本当に世話になったな。生後一年で流暢に喋り、しかも魔力まで生み出せるような子供を気味悪がらず、尚且つ可愛がってくれた……………。そんな二人の為に…………自分だけの為だけじゃなく、二人の為にもこのグレートアースの世界で立派な人間になろう!」
決意を胸に秘め、平原を進むサミュエル。
だがこう言ってはなんだが、一人でぶつぶつと喋る姿は気味が悪いのだが……。
(さて………目的地のフォークスの街までは歩いて十日か。う~ん…………フォークスとブリッツの中間にある村までは五日位らしいしのんびり行くか)
サミュエルが向かっている目的地フォークスの街とは約十万人が住んでいて比較的大きな街である。
サミュエルの生まれた国バルスールの中では三本の指に入るほどの規模の街で、ダンジョンが街を囲んでいる壁の中に八つもある。その為、安全にダンジョンに入れるので冒険者が最も集まる街で、道具屋、鍛治屋、武器屋、防具屋といった店の質が高く沢山ある。
そういった理由でサミュエルはそのフォークスという街に行くことを決定したのである。
因みにそれらの情報は両親と、友人であるナイジェルマリーから得たものだ。
「ん?何か複数の視線を感じるな」
のんびり行くか等と考えていたサミュエルは何かを感じ立ち止まり、辺りに視線を向ける。
すると平原の中にサミュエルの腰程の背丈の草が多い繁る場所から緑色の肌をして、腰に簡素な布を巻いていてこれまた簡素な木の槍を持った魔物が七体でてきた。
(魔物との初めての遭遇だな…………。名前はゴブリンだったかな………確か右耳が討伐証明部位で素材は魔石だけだったな)
魔物の情報を思い出しながら剣を抜くサミュエル。
(意外と小さいな。身長130㎝ほどってとこかな)
小さいな等と考えていると一番前にいるゴブリンが槍を構え走りよって突きを放ってきたが、サミュエルはそれを冷静に左にかわしながら逆胴打ち……いや今手に持っている剣は真剣の為、逆胴斬りといったほうが正しいか。その逆胴斬りを放ったサミュエル。するとゴブリンは上半身と下半身に別れ、血と内臓を野原にばら蒔きながら倒れる。
そして一匹のゴブリンが死んだのを合図に残りのゴブリンが奇声をあげながら一斉に向かってきた。
「「「「「「ギギィー、アァァア」」」」」」
サミュエルはゴブリン達が放つ突きを右に左にと、かわしながら少し魔力を生み出し呪文を声にだす。
「敵を穿て!ストーンボール!!」
ストーンボールの大きさは一つ5㎝程と小さいが一度に二十個ほども出現し、一斉にゴブリン達に放たれた。
そして放たれた岩のスピードは時速160㎞程の速さでゴブリンの頭や腹を直撃し肉を抉り、骨を砕き命を奪っていく。
「魔物との戦闘は初めてだったにしては落ち着いて魔法を使えたかな…………ふぅ~」
息を大きく吐き出し気持ちを落ち着け、まだ周囲に敵が居ないか視線を向けるサミュエル。
(良し、他に敵は居ないようだな。それじゃあ、ちゃっちゃと魔石と討伐証明部位の右耳を取って先に進むか)
素材を回収しようと次元魔法で収納している、ナイジェルマリーから貰ったナイフを取り出すサミュエル。
(これが魔石か、両親に見せて貰ったことがあるけど………ちっさいな)
以前サミュエルが見せて貰った魔石はオーガと呼ばれる身長300㎝~500㎝程の魔物の魔石で成人男性の拳位の魔石だった。
そして今回サミュエルが倒し、入手した魔石は大きな物でも3㎝程度しかなった。
その理由は魔物の体格や生まれてからの年数で魔石の大きさが変わる為である。今回倒したゴブリンの魔石は平均的であるが、長い年月を生きたゴブリンであればオーガの平均的な魔石と変わらない大きさの物も今までに確認されてある。
「耳も魔石も回収して空間に収納したし先に進もう。これだけ戦えるなら心にゆとりを持って村まで行けるな!」
何故サミュエルがこれ程余裕を持って、魔物が出るのに一人でフォークスの街まで移動出来るかというと、単にゴブリンといった低レベルの魔物や少し注意が必要なレベルの動物しか出ない為である。
「ベビベビベイビベイビベイビ…ベイベ…ベイベ今夜おまーえーはー♪」
「ん?あれは馬車かな?」
ゴブリンとの戦闘から七時間程経過した現在、夏とは言えもう夕暮れ時になり日が沈んできたので何処かで火をお起こして食事を摂りながら休むか、と歌を口ずさみながら考えていると遠くに馬車が止まっているのを見つけた。
それならばとサミュエルは笑みを作り一人呟く。
「どうせ休むなら人と一緒にいたほうがいいな、ゆっくり休めるしな」
(とはいえ、変な人間じゃなければ………だけどな)
そんな風に考えている間にもう馬車の目前に来ていた。
しかし馬車の周りには人が見当たらない。その為サミュエルは少し大きな声で馬車の持ち主を呼ぶ。
「すみません!どなたかいらっしゃいませんか!…………………………………?近くに居ないのかな?でも普通、魔物や肉食動物がいるのに馬車や馬をそのままにして何処かにいくかな?」
何故近くに居ないのだろうと眉を寄せ怪訝な表情で周りに視線を向けるサミュエル。
すると微かに馬車が停められている場所から20m
程離れた木々の中から女性のうめき声が聞こえた。そしてその次の瞬間には「助けて!」といった悲鳴が聞こえ、サミュエルはその声が聞こえた方向に声を掛けながら急ぎ走りだした。
「何があったんですか!?大丈夫ですか!?」
サミュエルが声を掛けながら悲鳴が聞こえた場所に辿り着くと其処で見える光景に、何故馬や馬車から離れたのか、そして何故悲鳴をあげたのか、すぐに理解し、叫んだ。
「貴様ら!そのような行為をしているという事は死ぬ覚悟が出来ていると判断していいんだな!」
サミュエルが見た光景とは十人の男が革鎧を装備し、鉄製のダガーやロングソードを手に持ち三人の女性の服を無理矢理、剥ぎ取ろうとしていたのだ。
そして三人の女性の内一人は殴られたのだろう目の周りを赤くして唇の端から血が流れている。
その状況からすぐに男達が盗賊であると理解し、サミュエルは叫んだのだ。
「出でよ!ゴーレム!!」




