続 初めてのお使い
「君………その若さで…凄いな」
チンピラ冒険者の三人の内、大きめのアックスを構えた冒険者を気絶させた後、十代後半の冒険者が余程驚いたのだろう、どうにか声を絞り出したといった様子でサミュエルに話し掛けてきた。
「いえ、少し魔法が得意といっただけの事ですから………。えっと……お名前を伺っても?」
「すまない、先ずは名を名乗り感謝を述べるべきであった……………。私…いや…俺の名前はナイジェルマリーという。助太刀、感謝する」
「どういたしまして、怪我が無いようで何よりです……。僕の名前はサミュエルといます。それにしても災難でしたね」
最初に話し掛けてきた時にはどこか育ちの良さが滲み出ていたが、無理矢理にといった感じに押し込め、何故か武骨な話し方に切り替え、簡潔に名前と今回の出来事について感謝を述べるナイジェルマリー。
「まぁ、冒険者をしているとこういった輩が絡んでくる事も少なくないからな」
少し落ち着いた為なのか、言葉を詰まらせる事もなくサミュエルに返事を返すナイジェルマリー。
「ところでこのチンピラ冒険者は警備隊の詰所に連れて行った方が良いですかね?」
「確かに…そうだな。だが警備隊の詰所より冒険者ギルドの方が良いだろう」
(普通は犯罪者は警備隊の方に連れて行くもんなんじゃないのか?)
「何で冒険者ギルドなんですか?」
サミュエルが疑問に思うのも当然だろう。
何故なら警備隊とは、地球は日本でいうところの警察に相当するのだから。
因みに警備隊は警察と相当するとはいえ、警察が国に雇われているのに対し、警備隊はこの街ブリッツ並びにブリッツ周辺の土地を統治している貴族が抱える騎士により編成されている。つまり国に雇われている訳では無い。
そして日本では国の法の下、治安維持や秩序の為に県を跨いで犯人追跡をしたり他所の国に犯人を引渡し要請をしたりするが、この警備隊はここブリッツの街、並びに街の周辺の治安維持あるいは秩序を守る為のみ存在する。
それに、千年前に起きたグレートアースに存在するほとんどの国が参戦した国家間の戦争以後、一度も戦争が起きて無い為、千年前と違って騎士は軍人といった意味合いが薄くなっている。
「サミュエルは冒険者ギルドが国に所属する機関では無いと知っているか?」
「え?そうなんですか?」
「ああ、国が作ったのではなく、村や街に魔物や野生の動物といった者の被害を抑える為に雇われていた傭兵によって作られた、独立した組織だ。その為、冒険者が問題行動を………今回の事で言えば一般人、しかも成人していない子供に武器を向けたといった行為を警備隊に処理されたとあっては面目丸潰れといった状況になるからな。だから冒険者ギルドに連れて行ったほうがギルドの為になるし……警備隊に引き渡すより、あのチンピラ冒険者にはよっぽど厳しい立場に立たされる事になるだろうな。そして何より金一封が出るかもしれんしな」
冒険者ギルドは、今から九百五十年前に田舎の村や街に雇われていた傭兵達により設立された。そして瞬く間に国の垣根を越え、グレートアース全土の街や村にギルドの支部が設置される事になったのである。
またナイジェルマリーが言っている事に付け足すと、ギルドは人々の依頼により成り立っている。その為ギルドの評判を著しく落とすといった行為に対しては厳しい処罰がされるし冒険者ギルドに登録する際には、細かくルールを記載された木の板を見、ギルドのルールを遵守すると宣誓した後に登録されるのでそのルールを破ったは場合、最悪、ギルド所有の奴隷に身分を落とされる。
「成る程、分かりました。ではギルドに連行しましょう」
「いや………俺一人で大丈夫だぞ。家の場所を教えてもらえれば…一緒に捕らえたんだし、もし金一封が出たら当然サミュエルの家まで持って行くからな」
ちゃっちゃと済ませようといった軽い口調で言うサミュエルに、子供にそこまでさせる訳にはいかんだろうという感じで返事を返すナイジェルマリー。
「袖すり合うも他生の縁と言いますし、気にしないで下さい」
「まぁそこまで言われてはな………。だがゴーレムは出したままで大丈夫なのか?」
自分が七才だという事を本当に理解しているのか疑問に思うほど難しい言葉を使って答えるサミュエルに″体力″や″精神力″即ち″魔力の源″の残りを心配しているのだろう、少し眉間に皺を寄せながら訪ねるナイジェルマリー。
「大丈夫ですよ。ゴーレムを生成するのに魔力を使いますがその後のゴーレムの操作等には魔力を消費しませんので」
「そうなのか?」
「はい、最初にゴーレムを生成する際に込めた魔力が切れるまでは大丈夫ですよ。もしゴーレム内の魔力が切れそうになっても、また魔力を込めれば良いんです。ゴーレムを生成する時に比べれば少ない魔力で済みますし」
「そうか……。ならギルドへ向かうか」
「はい!」
納得した様子のナイジェルマリーに促されゴーレムに手を捻りあげられうめき声をあげるチンピラ冒険者二人をそのままの格好でギルドに歩を進めようとした瞬間その場にいたサミュエル、ナイジェルマリー、チンピラ冒険者、周りで事のなり行きを見守っていた者達、全員を強烈な殺気が襲った。
そしてサミュエルが殺気の出どころを探ろうとした瞬間、何者かの魔力の気配を背後に察知しそちらに視線を向けると……………。
「サミーちゃんに…………。私のサミーちゃんに………。斧を向けるなんて…………。あまつさえ糞ガキって………。」
(お……お母さん!?)
「な……何者だ……凄まじい殺気だ……………只者じゃない」
般若のような表情をしている母親、ヴェロニカを見つけ瞼や口をこれ以上開く事が出来ないと思われるほど目を見開き、口をあんぐりと開け、驚いた様子で固まるサミュエル。
一方ナイジェルマリーは、ただ目の前に突然現れた経験した事もない恐怖に固まっていた。
そしてそんな二人と余りの殺気に固まっていた野次馬を置き去りに、ヴェロニカが人差し指と中指を立て、その指先を気絶したチンピラ冒険者の頭に向け人に聞きとれないほどの小さな声で何か呟くと親指の爪ほどの小さな火球が出現し、その指先の向けられている場所に放った。
(あっ……………髪が…………)
その場にいる全ての者が唖然とした表情で火球が着弾して燃え上がっている部分を見る。
「サミーちゃんにした事、言った暴言、これで許してあげるわよ」
さっき迄の般若の表情から一変、艶のある、見る者全ての心を奪うかのような笑みと声でヴェロニカが気絶したチンピラ冒険者に声をかけるている。
その後ギルドに連行されたチンピラ冒険者三人は奴隷に落とされはしなかったものの、アフロになったパーティーリーダーと共にアフロ三人衆とブリッツの街や周辺の村、ならびに隣の貴族が統治する街でも、年老いて死ぬその時まで呼ばれ続ける事になる。
因みにヴェロニカが何故、あの場に居たのかというと、サミュエルが初めてのお使いを達成するのを「買い物するサミーちゃんって何て可愛いの!?」と見守っていたからだった。
すいません。なんか書いてたら自分でもよく分からないんですが………………こうなっちゃいました。




