表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

説得 その3

―――――雨が降りしきっていた日だった。

敵対する組織を抑えるべく、隼は護衛の炎と共に敵地へと乗り込んでいった。

残った鶯と焔、炎火はその帰りを待っていた。

あの2人が組めば負ける事は無い、そう信じて待っていた。

ところが、日付が変わっても2人が帰ってくる様子は無かった。3人で何かあったのではと思い、敵地へと向かった。

そこにいたのは、血を流して倒れている炎の姿と。

無表情でそれを見つめる血だらけの隼の姿だった。


「直ぐに炎殿の元へと駆け寄りましたが、生きてはいませんでした。何があったのかと隼に尋ねても、何も答えませんでした。元々隼も自分も好かれてはいなかったのもありますが、それをきっかけに炎火殿も神八代を去りました。焔と言い争っていたそうですが・・・。何度も、何度も隼に問い詰めました。けれど何も返さない。そしてあの女に誘われて、神八代を捨てました。」

「・・・・・で、でも隼さんが殺したって決まった訳じゃ・・・。」

「自分も信じたかったです。けれど、ならば言えばよかったのです。自分は殺していないと、自分は何もしていないと、言えば。何故、何も言わなかったんですかね。そんなもの、自分が炎殿を殺したと言っているようなものじゃないですか。」

「・・・・・。」

「調べさせたところによると、死因は失血死。胸と腹を深く刺されていました。凶器は炎殿の刀、それには隼の指紋が残っていました。ここまで言えば、おわかりでしょう。隼は、あいつは、身内を殺した。それも慕っていてくれた炎殿を。焔は憎んでいます、炎火殿も、恨んでいるのでしょうね。自分も、同じです。」


そう言って唇を噛み締める鶯さんの顔は、あまりに辛そうで見ていられなかった。

隼さんの過去、きっと知られたくなかった部分。確かに、この話を聞いてしまえば今まで通りに隼さんと接するのは難しいかもしれない。以前の俺ならそうだっただろう。

けれど、どうにも俺には釈然としない。確かに、話の辻褄は合っている。でも、あの隼さんが、果たして本当の犯人なのだろうか。何故だかわからないが、どことなく引っかかる部分があるのだ。

そこで俺は前にあった事件を思い出す。俺の同級生が被害に遭った染脳師のことをだ。言葉巧みに人を操り、自殺にまで追い込む。間に合わなかったら、俺の同級生は自殺していただろう。

そういった特殊な力を持った人間が、こっちの世界にはいるのだ。もしかしたら、その炎さんも操られて隼さんを攻撃してしまい、自己防衛の為に殺してしまった・・・・とは考えられないのだろうか。

と、ここまで思って直ぐにその考えは止めた。妄想も過ぎるな、俺。

隼さんならそれくらいの染脳はとけそうだし、話を聞く限りじゃ炎さん強そうだし、染脳にはかからないだろう。


「・・・・・すいません。」

「え。」


ひたすら考えていたら、急に鶯さんに謝られた。今、何か謝る所あったか?


「本来ならば、本人の口から聞くべき話だったのに・・・自分が全てをお話ししてしまったので・・・。」

「いや、大丈夫。てゆーか、何となく隼さん察してそうだし。」


あの人勘鋭いから、きっと鶯さんの口から過去の話をされる事くらい分かっていただろう。

あれだけ家に行く事を嫌がってても来たんだから、それくらいの覚悟はあったってことだ。

まあ過去の話は聞いたけど、真実はまだ分からない訳だし。


「いや、でもまあ信じれないよな・・・身内がそんな目にあっちゃ。」

「・・・炎殿は、強く、逞しく、誰からも尊敬されていました。自分も、焔も炎火殿も。・・・そして、少なからずとも自分は隼の事も、尊敬しておりました。」

「・・・。」

「それが・・・あのような形で裏切られることになってしまうとは・・・。」

「っ鶯さ・・・。」


その時だった。悲鳴のような音が外から聞こえてきたのだ。

何事かと思い、俺と鶯さんは慌てて廊下に出る。鶯さんが玄関の方へと向かうので、俺も一緒に付いていく。

長い廊下を走り、ようやく辿り着いた玄関の所では、鶯さん達の部下が大勢倒れていた。


「!お前たち!」


遠くからしか見えないが、全員胸が上下に揺れているから生きているみたいだ。

一体誰が・・・そう思っていたら、この場では場違いなくらい明るい笑い声が聞こえてきた。


「うふふふふふふふ。」

「・・・お前さ、その笑い方、気持ち悪りーヨ。」

「・・・・。」

「あー、めんどくさそうなの大量に来やがった。」

「・・・・何だ、あいつら?」

「隼さん、焔さん!」


俺達の前には既に駆けつけていた隼さんと焔さんの姿があった。焔さんは既に日本刀を構えているし、隼さんも何故それを持っているのかは分からないが鉄パイプを持っていた。

その向こう側、鶯さん達の部下を攻撃したであろう人物たちの姿は3人あった。


「神八代鶯さん、ですね。それと部下の真愚鍋焔さんに・・・おやおやこれは出て行ったと噂に会った隼さんではありませんか。これは一体なんて巡り合わせなんでしょうねぇ。」

「・・・・てめぇら、何者だ?」

「名乗る名はねーヨ、お前ら全員死刑なんだからヨ。」

「・・・・。」


男、女、男の順番で横に並んでいるそいつらは、異様な雰囲気を醸し出していた。

まず左にいる男は口調こそ丁寧なものの、見た目は全然丁寧ではない。ずたずたに斬り裂かれたマフラーに、ハードな革ジャンと革のズボン、何故だか足元は黒のローファーだった。それも裸足。片耳にはこれでもかというくらいのピアスがつけられている。金髪に緑色やら青色のメッシュをカラフルに入れ込んでいた。前髪はオールバックになっている。

もう一人の男は、不気味だった。黒いマントで全身を包み込み、足元は紫色のブーツ。時折風が吹いてマントがめくれるが、その下は黒ズボンに黒のシャツ、丈が短く腹が見えている。確認しておくが、今は12月の真冬である。

手入れのしていないぼさぼさの髪、目の下はクマが酷い。とてつもなく顔色が悪かった。

そして女。正直、女と言っていいのか分からない。何故ならば、どこからどう見ても小学生であるからだ。

120センチもないくらいの身長、黄色い帽子にピンクのランドセル。そこまではまあ小学生だが、着ている服は何故だか巫女さんの服だった。それも赤色の袴じゃなくてピンク色の袴。

短いツインテールは子供らしいが、こちらを見ている目つきは大人顔負けの鋭さだ。その目は、暗い。

とゆうか、この3人はもしかしてここまで一緒に歩いてきたのだろうか。それはかなり目立つと思うんだが。


「とある依頼がありまして、貴方を殺させていただきます神八代鶯さん。よろしいですか?」

「・・・・そこではいと答えると思うか?」

「思いませんよ?なので言い方を変えますね。死んでください、神八代鶯さん。」


そう言った瞬間、丁寧男と不気味男がこっちへ向かって来た。速い!

あとちょっとで鶯さんへと手が届きそうな、それくらいの距離まで詰めていた。

だが、それは届かない。丁寧男を隼さんが、不気味男を焔さんが止めていたからだ。


「焔!」

「鶯様、あそこ行ってください。日比野千種、鶯様よろしく。」

「え、え?」

「ここは俺達で止める。鶯、千種さんに怪我させんなよ。」

「・・・言われなくても分かっている。千種殿、こっちへ。」

「うあ!?」


腕を引っ張られる形で俺は鶯さんに連れられて行く。

あそこって・・・一体何処に?


「逃がさないヨ!」


俺達が逃げようとしているのに気付いた不気味男が焔さんを振り切ってこちらへ向かってくる。

両手には鎌が握られており(それもかなり大きな、とてもこんな男が持てそうな大きさでは無い)、それは鶯さんを狙って振り下ろされる。

それを焔さんが日本刀で受け止める。そしてぎろりと不気味男を睨みつけた。


「鶯様に指一本触れても殺す。つーか、触れないでくれる?汚れるから。」


今までのテキトーな雰囲気はどこへやら、真剣な顔でそう焔さんは言う。・・・・やっぱ怖い人だった。

受け止めた鎌を流し、何かを察知したのか不気味男は舌打ちをして距離を取った。その隙に俺達は走る。


「鶯さん、一体・・・?」

「隠し部屋へ向かいます。そこに入れるのは鍵を持っている人間だけ、当主のみです。緊急時にはそこに逃げ込むようになっているんです。どんな人間でも絶対入れない安全な場所・・・そこに隠れましょう。」

「か、隠し部屋・・・。」


これだけ広い屋敷だから、それくらいはあっても不思議ではないんだろうけど。それにしたって普通は驚く。

忍者屋敷か、と思わず突っ込みたくなるが我慢我慢。つーかそんな状況じゃないしな。

再び長い廊下を走り、目的の部屋へと辿り着く。見た目は普通の扉だが、和室ばかりの中に突然の扉。雰囲気には合っていない。


「今開けますね。」


鶯さんが鍵を取り出そうとした時だった。こちらへと向かってくる足音が多数聞こえてきたのだ。

慌てて音のする方を見ると、そこにいたのは鶯さんの部下たちだった。怪我をしていないことから、多分玄関の守りで無い所にいた人たちだろう。

敵かと思って慌てたぜ・・・。俺は安心して近づこうとした、その時だった。


「千種殿、下がってください!」

「へ?」


俺を庇うように鶯さんが前に立つ。その手には、いつの間に持っていたのやら、木で造られた薙刀を握っていた。御丁寧に刃の所まで木で出来ており、木刀の薙刀バージョンといった感じだ。


「ど、どうしたんだよ鶯さん。この人達は味方じゃ・・・。」

「目をよく見てください。」


目?そう言われて俺は部下達の目を見る。よーく見ると、心ここにあらずといった感じだった。つまりは、虚ろ。

どこか遠くを見ている様な、そんな目だ。・・・・・もしかしなくとも、危ないのか?


「・・・操られているようですね。あの3人の中に術者がいるのか、或いはもう一人・・・。」

「ど、どうする?下手に攻撃するってのも不味いだろ?」

「ええ、ですのでこれを使います。」


相手は鶯さん直々の部下達だ。ここでもし誰か一人でも鶯さんが殺してしまったら、隼さんと同じ運命を辿ってしまうかもしれない。確かに、この木で出来ている薙刀ならば、気絶程度で済むだろう。

しかし、術者か・・・染脳師とはまた違う奴なのだろうか。けれど、あの3人の中でどう見てもそれっぽい人いなかったけど・・・強いて言えばあの不気味男っぽいが、鎌振り回してたから戦闘員だろうし。

となると、屋敷の中に1人潜んでいるのか?俺は前にいる部下達を気にしつつも、背後も警戒する。

やがて、1人が飛びかかってきた。その攻撃を鶯さんは避け、腹に一撃お見舞いする。

流石に大の男でも腹に一発くらって立っていれない。しゃがみ込むと、鶯さんはさらに首元に手刀をいれるように薙刀でもう一撃。男は呻き声を上げて気絶した。

見ていて思ったが、鶯さん戦い慣れてるっぽいな。薙刀は昔大学の部活紹介で見たきりだが、動きもしなやかだし、回り込んだりするのも上手い。正直、鶯さんって戦えないだろうなと思っていたちょっと前の自分をぶん殴ってやりたい。


「・・・千種殿。何か武術はやっておられましたか?」

「一応、合気道を。」

「ならばお願いできますね。協力して全員を気絶させましょう。おそらく大した武器はもっておりません。」

「何で分かるんだ?」

「彼らには裏口の守りをお願いしておりました。が、裏口から侵入する敵などあまりいないので、大した武器は持たせていないのです。今回で裏目に出たような、よかったような・・・。」

「まあ、俺達には幸運だったってことだな。」

「・・・・ですね。では、一気に片付けましょう。」

「おう!」


「捕えよ。」


がん、と勢いよく後ろから押さえつけられた。しまった、警戒してたのに。

けれど気配なんて全く感じられなかった。腕も足も抑え込まれてしまい、頑張って首を動かして見ると、そこにいたのはがたいのいい男達。きっとこの人達も鶯さんの部下だろう。けど、ここまで大きな男たちなら、少しくらい気配を感じてもよさそうなのに・・・。

鶯さんも同じ状態で抑えられている。頑張って抜け出そうとしているが、大の男3人に抑えられてしまってはさすがに無理だろう。


「やれやれ、苦労かけさせるでないわ。」

「っお前・・・!」


喋り方は古風で落ち着いているが、そこにいたのはさっきまで不気味男と丁寧男と一緒にいたあの巫女服姿の少女だった。

背負っているランドセルが歩くたびかちゃかちゃと音を立てる。普段は聞き慣れているそれが、とてつもなく不気味に聞こえた。


「儂をここまで歩かせるでないわ。小学生は、体力がないんじゃぞ。」


・・・・そのしゃべり方で小学生って言われても説得力ねーよ。

そもそも普通の小学生ならTシャツに半ズボンとかスカートだからな、巫女服なんて(ましてやピンク色)着やしねーし。


「・・・・貴様らは、何者だ。」

「名前か?ああ、あ奴らは名前を名乗らんのが好きなようだが、儂は別じゃ。名乗ってやる。」


その小学生は、とうとう俺達の間近へと到着した。小学生に見下される日が来るとは、夢にも思わなかった。


夜露月見よつゆつきみ、11歳。とある方からの依頼で、貴様を殺しに来た。」

「・・・どうやってここまで来た?あの2人を差し置いて、来れる筈は無いんだがな。」

「あの2人なら戦闘に夢中で儂の事など眼中に無いわ。おかげで楽じゃったがのう。」

「そんなはずはない!焔がそのようなミスはしない、あいつもだ。・・・一体、何をした?」

「・・・・・・ふむ。ならばもう一つの名を名乗っておこうかの。」


染脳操師せんのうくぐつし、夜露月見じゃ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ