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依頼 その2

鵙さんがそう言った瞬間、机を殴る音が事務所に響き渡った。

殴ったのは勿論隼さんで、その手は携帯のぎりぎり横に落ちている。もしかしなくとも、携帯を壊す気だったらしい。

けど携帯は所長のだから、寸でのところで思い留まった結果なのだろう。


「・・・・鵙、余計なことしゃべんな。」

『・・・・・えーと・・・すいません。』

「隼、別に携帯壊してもよかったのに。またつっくんにお願いするだけだから。データのバックアップもつっくんに任せてあるしねー。」

「所長・・・。いえ、後で燕さんに死ぬほど怒られそうなので遠慮します。」

「そっかー。・・・あれ、これ僕も怒られるやもなパターン?やっぱ無し!ごめん隼やっぱ無し!!」


いまだに覚えている。パーティ会場にて無線を壊してしまった所長と隼さんに怒る鬼の様な燕さんの姿を。燕さんの説教は朝まで続いたらしいが・・・。俺も燕さんを怒らせないようにしておこう。


「んと、で続きなんだっけ。」

『・・・あ、ええとな。俺は知らんかったんやけど、隼。お前帰ってこい言われとるらしいな。』

「・・・・どこでその情報を?」

『秘密や。俺もたまたま知った情報やし。昔から六角神を毛嫌いしとる部下さん達が手のひら返したようにこぞってお前に助けを求め取るらしいやん。だったら、そいつらに頼んで家あがらせてもらえばええやん。日比野千種と一緒に。』

「・・・すいません、何故俺なんですか?」


ここでようやく本題を切り出せた。そう、何故俺なのだ。

説得するのなら兄である隼さんが言った方がいいし、事情を知っている所長の方が適役の方な気がするんだが。

言ってしまえばなんの力も無い俺がでていったところで何の役にも立てないような・・・。


『いや、むしろお前が一番適役やねん、鶯説得すんの。』

「いやいやだから、お兄さんである隼さんの方がいいに決まって・・・。」

「・・・・千種さん、それは無理なんです。」

「無理って・・・。」

「俺、鶯に死ぬ程嫌われてるんで。目も合わせないと思いますよ。大体俺も嫌いですしね、鶯の事。」

「え。」


隼さんは、いつものような笑顔でそう言った。いやいやいや笑顔で言う事ではないと思うんですが。

しかしそこまで仲悪いのかこの兄弟・・・。俺の知っている兄弟って多少は喧嘩はするけどそれなりに仲が良い方が多いんだが。ここまでお互いがお互いを嫌ってるのも珍しい位だと思う。

そっか、そりゃ説得も難しいわな。話すら聞いてくれないんだから。


「いや、でも所長の方が・・・。」

『もっと無理やな。そいつの方が神八代に嫌われてるし。』

「は?」

「んーと、まあ僕が隼連れてっちゃったからね。あちらさん僕の事憎く思ってんだよ。よく襲われそうになったなぁ。」

「その度に俺が潰しましたけどね。」

「ねー。やっぱ隼はあの頃から強かったよー。」


のほほんと会話しているが内容はだいぶハードだぞ。

けど、そうか。隼さんが神八代を出てここにいるって事は所長が誘ったってことだもんな。そりゃあ面白くないだろうな、神八代としては。後継ぎとして決まってたのに連れて行ってしまうんだから。・・・ポジションどっちかっていうと逆じゃね?


『だからお前がええねん。鶯と年も近いし、警戒心抱くような強い奴ちゃうし。ちょっと抜けてるところもあるしな。ほんま適役やわ。』

「・・・貶されてます、俺?」

『褒めてんのや、喜べ。出来れば早く行ってほしいねん。こっちも動きが慌ただしくなってきおったからな。依頼料は望む金額出したる。百万でも千万でも億でも兆でもええで。』

「・・・・いい、隼?」

「・・・・正直気乗りはしませんが、そうですね。それがAMCの為になるのなら、引き受けます。不本意ですが。」

「だって。じゃあ引き受けてあげるよ。報酬はまた後日連絡する。」

『おおきに。助かるわ。ああ、あと俺しばらく忙しなるからなんかあったら表裏に連絡してくれや。』

「ん、わかった。じゃーね。」


そう言うと、所長は電話を切る。さて、と俺と隼を見て所長はにっこり笑う。


「今から行く?どうせ午後暇だし。」

「今からですか!?」

「だってー善は急げって言うじゃん。あー、でも隼もうちょっと気持ちに整理つけてから行く?」

「いえ、大丈夫です。千種さんの方は、よろしいですか?」

「え、あ、はい。俺はまあ、正直なにしたらいいのか未だによくわからないのですが・・・。」

「鶯と話してください。俺はまともに会話も出来ないので。千種さんなら、いきなり斬りかかられる事は無いと思いますよ。」


どれだけ怖い人なのだろうか、鶯さん。写真も見た事無いから正直恐ろしいイメージしか沸かないんだが・・・。

けど隼さんの弟、なんだもんな。これだけ整った顔立ちをしている人なのだから、きっと鶯さんも整った顔立ちしてるんだろうな・・・凄いDNA。少しでいいから分けてほしいもんだ。


「んじゃ、いってらっしゃーい!僕と一里は七並べしながらつっくんの連絡を待つよ。」

「・・・・。」

「では、参りましょう千種さん。ここからは少し遠いので車を呼びます。先に下に行ってるので、クラクションが鳴ったら降りて来てください。」

「あ、はい。了解っす。」


そう言って隼さんは携帯を取り出しどこかへかけつつ外に行ってしまった。

別に俺も一緒に下で待ってればいいんじゃないか?と疑問に思ったが、その心を読まれたのか所長が俺の傍に来て教えてくれた。


「あんまり昔の自分知られるの好きじゃないんだよ隼。黒歴史なんだって。電話相手は神八代の人間だし、きっと千種にはあんまり知られたくないんだよ。」

「・・・そういうもんなんですね。・・・どうしよう、なんだか怖くなってきた。」

「だいじょーぶだって!隼がいざとなったら守ってくれるから。それに、いくらなんでも鶯くんも焔くんもいきなり斬りかかってきたりはしないって。一般人には手を出さないからねー。」

「はあ・・・。」


それを聞いてますます不安になってくる。一体全体どういう人たちの集まりなんだ、神八代家。

つーか会話に出てきた「焔くん」って一体誰なんだろう。まさかの兄弟とかなのだろうか。

と、その時クラクションが鳴る。俺は所長と一里さんにいってきますと言い外へ行こうとした。ら、所長にコートの袖を引っ張られた。


「所長?」

「これ、お守り。隼に渡しておいて。」


渡されたのは、普段所長が髪をしばったりする時に使うピンク色のリボンだった。以前鷹さんにプレゼントされたものらしい。所長はあまり可愛らしいのはつけないタイプなので、鷹さんが遊びに来る時以外はあまりつけない。

それを渡された。お守り・・・?


「これが、ですか?」

「あ、馬鹿にしてるでしょ。これ結構大事なんだからー。千種はまあいいとして、隼にもしもの時があれば、大活躍なのだ!」

「大活躍、ねえ・・・。」

「分かる人には分かるんだから!んじゃ、気をつけてね。何かあったら僕らも飛んでくから。」

「・・・・はい、じゃあいってきます。」


今度こそ、俺は外に出る。階段を下りて表に出ると、そこにあったのは真っ黒の外車だった。

何故外車と分かったかと言えば日本のブランドマークが付いていないし、国内で見た事の無い形だったからだ。

周りでは商店街の人たちが物珍しさにじろじろと見ている。なんだこれ、恥ずかしい。

車の傍に立っている隼さんに近付く。と、そこで変化に気付いた。


「千種さん、お待たせしてすみません。」

「・・・・・・隼さん、その服・・・。」

「ああ、これですか。」


そう、いつも執事服の隼さんが今日は何故だか普通の格好をしていたからだ。普通、と言ってしまうのも微妙だが。

黒のスーツ上下に鎖骨が見えるくらいの淡い水色のシャツ。足元は黒のエナメル靴だ。

何と言うのか、鵙さんが着てるような高級感溢れる生地だ。さすが隼さん、似合っている。

けど・・・一歩間違えればやくざにしか見えない様な着こなしである。顔が良いって得だ。


「一応、神八代本家へ行くと言う事なのでね、正装くらいはしとかないと。」

「こんな服持ってるんですね・・・。」

「持ってきてもらいました。車の中で着替えましたよ。」

「ああ・・・。」

「若!そちらが例の坊ちゃんで?」


俺と隼さんが話していると、助手席側の窓が開いて男の人が顔を見せた。あ、外車だから助手席側が運転席か。

顔を出した男の人は、ざ・やくざだった。テレビとか漫画に出てくるような、典型的な。

坊主にスーツ、ちらりと見える肌には刺青であろう竜や桜の模様。サングラスをしているが、その下には傷が付いている。

どうしよう、俺もう帰りたいかも。


「ああ、日比野千種さんだ。絶対に手を出すなよ。全員に伝えとけ。」

「了解です。よろしくお願いします、日比野さん!」

「あ、え、えと・・・・こちらこそ、お願いします・・・。」


強面だけど案外いい人そうだった。誘導され、俺と隼さんは車に乗り込んだのを確認して、発進する。

俺達は後ろの席に、前には運転手席に坊主の人、助手席側にはパンチパーマのこれまた強面の人が座っている。

・・・・俺、場違いじゃなかろうか。つーか、隼さんブラックモードに入ってるし。

俺の思いを察してくれたのか、こそっと隼さんが言ってくれた。


「すいません、しばらくは口が悪いかもしれませんが、ご了承ください。」

「あ、いえ・・・。と、そうだ。これ、所長からです。お守りだって。」


思い出して、俺は隼さんにピンク色のリボンを渡す。

隼さんはそれを見て一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに優しい笑顔になった。


「・・・有難うございます、千種さん。」

「・・・・それ、本当にきくんですか?」

「俺にはきくんです。俺だけのお守りってやつですね。」


そう言って隼さんは胸ポケットの中にリボンをしまった。隼さんにだけきくお守り、ねえ。

その様子を見ていたパンチパーマの人は、少しだけ不機嫌そうな顔をして、隼さんに話しかける。


「若、本当に有難うございます。まさか本当に来ていただけるとは・・・。」

「構わねぇよ。それより、他の連中は納得してんのか?」

「今説得させてます。・・・鶯様と焔さんには一応報告しましたが・・・。」

「あれは俺がどうにかする。それ以外の連中はどうにかして見せろ。」

「うす!」

「・・・・状況は?」

「・・・鶯様には訴えてはいるんですが・・・断固として六角神の味方でして。焔さんも鶯様の言う事は絶対の人なんで。焔さんも一緒に鶯様を説得してくれると助かるんですが・・・。」

「無理だな。あいつは昔から鶯以外の命令は聞かない。鶯が正しい事をやろうが間違った事をやろうが、あいつは鶯の味方だ。さすが真愚鍋家といったところだな。」


話を聞いていると、どうやら焔さんは神八代兄弟ではないらしい。てか・・・真愚鍋?また難しい名字が・・・。

つなげれば、真愚鍋焔さんか。内容からして、鶯さんの護衛とか側近だろうか。

しかし・・・鶯さんは相当六角神に入れ込んでるみたいだな。何か弱みでも握られているのだろうか。気になった俺は会話を切り上げた隼さんに小声で聞いてみる。


「あの、隼さん。」

「どうされました?」

「その、何で神八代さんって六角神さんの味方なんですか?梟さんの話だと、これまでずっと神八代は中立を守って来ていたのに、急に2対1みたいな状況になったって・・・・。」

「そういえば、話していませんでしたね。鶯は、六角神雀と婚約関係を結んでいます。」

「こん、やく?」

「許嫁同士といったところですね。それもつい最近の話だそうですが。全く・・・六角神と婚約しようなど前代未聞です。それもこれもまあ、六角神雀が上手にやった結果ですけどね。」

「そっか、だから絶対の味方なのか・・・。」

「ええ。どの家もそうですが、当主の言う事は絶対です。当主が決めた事は部下も守らねばならない。今までだってそうでした。けれど、今回は少し違う。このままでは神八代は六角神に喰われて終わりでしょうね。それだけは何としても阻止したいという考えが鵙にはあるんでしょう。・・・・本当、くたばりゃいいのに。」


最後の言葉だけはスルーしておいた。そっか、許嫁同士ならそりゃそうなるわな。

けど普通、敵対している家の人間と婚約関係を結ぶのって両家が反対しそうなものなんだがな・・・当主様の言う事は絶対でも、部下はきかないだろうに。

神八代鶯さんも気になるが、今度は六角神雀も気になってきた。一体どんな女の人なんだろう。

そんな事を考えていると、車が止まる。どうやら、目的地に到着したようだ。

車から降りて俺はそこにある景色を見る。・・・・いや、まあ大体想像はしていたけど。ここ最近豪華な家は見てきていたからある程度慣れたつもりだ。それにしたってでかいな、これまた。

俺の倍はあるのではないかと思われるような大きな扉。木で出来ているそれは、門である。

とりあえず、見渡してみても壁の終わりが見えない。よくもまあこれだけの土地を確保できるもんだ。

案内されて中に入ると、そこは石畳と砂利が敷き詰められた広い道(いや、庭か?)。遠くを見ると家の入口がある。

が、進むのをためらいそうになった。何故ならば、その玄関までの道にはずらりと強面のお兄さん達が並んでいる。

隼さんの姿を確認すると、一斉に頭を下げて挨拶する。


「若!御帰りなさいませ!」

「ああ。千種さん、どうぞ。」

「は、はあ・・・。」


俺は映画に出てくるようなワンシーンを見てびびりつつ、隼さんと共に玄関まで歩く。

ときおり「こいつ何者なんだ?」という視線が体中に突き刺さるが、無心を貫く。怖くない怖くない怖くない!

やっとの思いで玄関までたどり着く。正直言おう、既に体力は限界である。

車で一緒に来た2人が、玄関の扉を開ける。


「さて、ではどうぞ千種さん。ようこそ、神八代本家へ。」

「・・・・・・はい。」


そして俺は、神八代家へ一歩足を踏み入れた。・・・どうか、生きて帰れますように。

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