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依頼 その1

12月27日、午前11時12分。

クリスマスに降った雪もだいぶ溶けてきた。少しだけだが、寒さも和らいだ気がする。

まあ、事務所内は暖房がききまくってるからあんまり関係ないんだが・・・。

日比野千種、22歳。大学も冬休みに入っているので、朝から事務所に来ている。

・・・・まあ正直、その前に地獄の特訓してかなり休んでたからな。今更冬休みって感じもしないんだが・・・。

俺は一里さんに淹れてもらった紅茶を飲みながら、一息つく。ここのところ慌ただしい日々が続いたが、それも過ぎ去って平和な日常と化している。いい事なんだけどな。

朝事務所に来ても所長から「今日は仕事ないからのんびりしよっか!」と言われ、今に至る。仕事が無い日も結構多かったりするので、慣れている俺は大学の図書館で借りた小説を読んでいた。

ぱっと本から顔を上げれば、隼さんは自分の席でパソコンを見ている。先程何を見てるのか気になって覗いたら、可愛らしい女の子たちがたくさん登場して魔法を使って戦っていくみたいな感じだったのでそのままスル―した。

いや、俺も漫画は読むしゲームもするしアニメも見るけど、ああいったのはまだ手が出せないというか・・・。

あとの2人、所長と一里さんは所長の席で七並べをしていた。何故2人で七並べなのかは分からない。

時々耳に聞こえてきたのは、所長の「ええそんなとこ隠してたの!?ずるいよ、一里強いよ!」という悔しそうな声。一里さん、相当強いらしい。まあ表情も読みづらそうだもんな、あの人。

とまあこんな感じでのほほんと過ごしている訳だ。このまま仕事来なきゃ午後もこんな感じになるんだろうな。その時は俺も七並べに混ぜてもらおうと思った。


「うう、また負けた・・・。僕カードゲーム弱くは無いんだけどなー。一里強すぎるよ、手加減してよ。」

「・・・・。」

「いや、まあ手加減したらそりゃ怒るけどさあ!10戦10敗までしてるんだから・・・ねぇ。あそこでダイヤの4が来てれば僕の勝ちだったのに・・・この隠し上手!」

「・・・・。」

「もっかいやろ、もっかい!今度は僕がパス10回までで、一里2回だからね!ハンデ!」

「・・・・。」


・・・たまにというか、凄く思うんだが、所長はどうやって一里さんと意思疎通の会話が出来るんだろう。

一里さんの声を俺はここに来てから一度も聞いた事が無い。無視したりとかはしないが、俺がありがとうだったりすいませんだったり言っても首を縦に振るとか横に振るくらいしかしない。

手先が器用だし、紅茶もうまい。見た目に反して凄くいい人なんだろうけど・・・何でしゃべらないんだろう?

今まで疑問には思っていたが、中々聞く機会はなかった。今度、2人きりになれたら聞いてみようか・・・。

その時だった。携帯の着信音が鳴る。俺の携帯の音でもないし、隼さんのでも一里さんのでもない。

所長はコートに入っていたポケットから携帯を取り出し、一瞬嫌そうな顔をして電話に出ようとしたが、何か考えるようにすると携帯をスピーカーモードに切り替えた。これで、俺達全員にも電話の内容が聞こえるようになるし、俺達全員の声が向こうに聞こえる。けど、所長にかかってくる電話って大抵は仕事の依頼とか所長だけにとかだが・・・一体電話の相手は誰なんだろうか。

その答えは、第一声ですぐに分かってしまった。


『あーもしもし?AMCやろ?・・・・あれ、返事があらへん。なにこれ、間違っては・・・おらんな。え、ちょ、石投命?悪戯やめぇや!俺すっごい寂しいんやけど!いじめ、これいじめ?』


関西弁。そして所長のいじりっぷり。間違いない、鵙さんだ。とゆうより、ここまで遊ばれるというかからかわれるのって鵙さんくらいなもんだ。

九神岳当主、九神岳鵙。その立派な肩書があるにも関わらず、好き勝手言われ放題いじられ放題。俺はこの人は一度しか会った事は無いが、大体どういう人なのかは理解していた。


『ちょ、まじで・・・・まさか間違い電話?いやそんなことあらへんって番号ちゃんと合うてるし。・・・え、いやいやいやえっとー・・・そちらAMCやよね?』

「あっははははははははははは!!!」

『その大爆笑っぷりはまさしく正解や!!つか返事しいや!俺寂しかったわ!!』

「いやー・・・君をからかうのはいいストレス解消だよね。それで、何の用?つまんない用事だったらぶん殴るよ。」


所長にとってはストレス解消かもしれないが、やられてる鵙さんにはたまったもんじゃないだろう。

一通りの漫才が終わり、鵙さんは「せやったせやった」とわざとらしく咳をして話を続ける。


『お仕事の依頼や。けどお前やない、隼と日比野千種にや。』

「俺と・・・。」

「俺ですか。鵙さんの頼みだからろくなことじゃないんでしょうね。」

「僕と一里はいい訳?」

『おう、つーかむしろ2人にしか出来ん事や。お前と一里には別の仕事。後で燕から連絡来ると思うで。あと隼は一言余計や。』

「これは失礼。ついうっかり。」

『・・・馬鹿にしすぎちゃう?俺泣いてまうで。』

「泣いたら全部録音して他の三神に届けてあげるよ。」

『完全なるいじめや!・・・はあ、埒があかへん。本題とっとと入るで。』


埒が明かない、というか今まで話の腰折ってるのって鵙さんだよな・・・。

さすが関西人。突っ込まずには、ボケずにはいられないらしい。俺の勝手な関西のイメージだけど。

けど俺に仕事って・・・。正直、今までやってきた内容を考えてあまり役に立った覚えは無い。

隼さんと一緒ってのは心強いけど、それにしたっていったい何の仕事なんだ?


『神八代どうにかしてくれへん?』

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・え?神八代って確か三神の・・・・。」


三神。日本の裏社会を牛耳る御三家のようなものだ。六角神、神八代、九神岳という凄い名字の人達。

確か六角神がこの間争った生栁さんがいる、いわば敵対している所で、神八代は中間の立場の人間だっていう話だったが・・・あ、中間じゃなくなってきてるんだっけか。

その神八代をどうにかする・・・・って、それってどういう・・・?

ふと3人を見ると、それはもう明らかに不快、といった表情をしていた。(一里さんはいつもと変わらないが)

所長は呆れたようなそんな顔で盛大に溜息をつくし、隼さんは眉間に皺を寄せて厳しい顔をしている。


『そうそう三神の。お、日比野千種それなりに知っとるみたいやな。なら話早くて助かるわ。神八代どうにかしてきてくれ。』

「・・・・・すいません、どうにかって意味が「お断りします。」


俺の質問を遮ったのは、所長では無くて隼さんだった。珍しい事もある。


『・・・やっぱお前はそういうと思たわ。所長さんの意見はどーなん?』

「・・・君が何をしたいかは想像できる。けど、低い可能性にかけられる程僕は勝負師じゃない。」

『リスクは高いのは重々承知や。でもやってもらわんといかん。このままやとまたあの時の二の舞やで。勝率は少しでも上げておいた方がええやん。それに、梟も言っとったらしいで。日比野千種になら出来るんとちがうかって。』


だから何が、と聞きたかったが空気を読んで何も言わなかった。

恐らくこの会話の展開についていけてないの俺だけだろう。一里さん何も言わないけど色々分かってるし。


「梟さんがねー・・・。けど、相手は神八代だよ?そりゃあ六角神よりは簡単だろうけどさ。ううん・・・危険ではないんだね?」

『それは分からんわ。隼の返事次第ってとこやな。』


全員の視線が隼さんに集まる。隼さんはあの優しい顔つきはどこへやら、とても厳しい顔つきのままだ。

腕を組んでしばらく考えている。少しして、盛大に舌打ちをする。え、舌打ち?

これはもしかしたら、生栁さんと戦っていた時のあの怖いバージョンの隼さんなのだろうか。


「・・・俺が行く義理は無い。俺には関係ない事だ。」

『そー言うなやって。つかいつもの執事っぷり崩れてんで。』

「俺が優しくする人はただこの世で一人だけだ。」

『・・・所長からもなんか言うたれや。』

「ええ、僕?」

「・・・・所長。」

「んー・・・僕は隼が嫌な事は断りたいけど・・・神八代か、そっかぁ。けどさ、隼。確か・・・。」

「・・・ええ、俺がいると寧ろ神八代に行く事すらも難しいやもですね。」

「え、それってどういう・・・。」


ようやく俺の入れる時だと思い質問してみる。所長は「あ、そっか千種は知らないのか。」と言い、隼さんは「正直言いたくも無いんですが・・・。」と言う。一体何なんだろうか、全く分からない。

隼さんがとにかく神八代と関わるのが嫌だと言う事は分かるんだが・・・。行く事すらも難しいとはどういう意味だ?

その疑問に答えてくれたのは、鵙さんだった。


『なんや、知らへんの?隼、神八代の長男やで。本名神八代隼、鶯の兄貴や。』

「・・・・・・・・・・・は?」

『間抜けな声やな、まあ無理無いけど。けど何で教えたらんねん。別に隠す事やないやろ。』

「・・・俺には隠したいことだったんだ。」

「いやーまあ、いずれ教えなきゃとは思ってたけど隼が嫌がるからねー。大体神八代の話題隼の前でしないでって前言ったじゃん。」

『事は窮するんや。知らなあかんやろ。・・・あれ、日比野千種黙ったまんまやけど大丈夫か?』


鵙さんの声で我に返る。そして知る。隼さんが、神八代の人?冗談じゃなくて?

いや、こんなとこで冗談だったらシャレにならない。

と、そこで俺は疑問に思った。隼さんが長男なら今の当主である鶯さんは二男だろう。けど本来、当主って長男が継ぐべきものではないのだろうか。大抵の跡取りって長男がするもんだと思うけど・・・。

それに、今隼さんは「綿貫隼」と名乗っている。という事は、神八代を出ていったってことか?

それって・・・・・駄目だ、俺の頭じゃここまでしか分からん。


「えっと・・・聞いていいんすかね?」

「んー、もういいんじゃない隼。話してあげなよ。不本意だろうけどさ。」

「不本意ですね。・・・それもこれも全て鵙、てめぇのせいだ。」

『俺に怒んなや!いずれ知ることになるんやから!んじゃ、俺からもいっこ教えといたるわ日比野千種。お前今多分神八代の人間のくせになんでAMCにいるんだ、って思っとるやろ。』

「え、ええ。まあ・・・。でもくせにとは思ってないです。」

『答えは簡単や。隼は、後継ぎとして決まっとったけど家を捨てた。理由も簡単。所長に誘われて。動機は・・・これは言わん方がええな。つまりそいつは神八代を捨てた。だから、鶯はもちろん神八代の人間に嫌われてる。さっき言うたやろ、神八代に行く事すらも難しいって。それはそうや、家出した人間がのこのこ戻ってくるようなもんやからな。下手に1人で行こうもんなら、焔辺りに斬られるんちゃう?それでも、お前に神八代に行って欲しいねん。神八代鶯、引いては神八代全体を味方に引き入れる為に。』


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