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黒幕 その3

千種と別れ、隼は暗い道を1人で歩いていた。

本来ならば家まで千種を送り届けるのが自分の役割だったのだが、このまま家まで歩かせるよりも、車で送って行ったもらった方が安全だろうし早い。鶯の部下ならば信頼はしていないが信用はしている。無事に家まで送り届けている頃だろう。

そして何より、隼は1人で帰りたい気分だったのだ。二度と戻るまいと決めていた本家に戻って、嫌な事ばかり思い出してしまった。はあ、と小さく溜息をつく。


「・・・・これだから、戻りたくなかったんだ。」


鵙の野郎、あとでおもいきりぶん殴ってやると心の中で悪態をついた。

本家もみえなくなってきたのでそろそろいいか、と隼はスーツの上着のボタンを外しラフにする。いつもの着なれた執事服と違って堅苦しいスーツだったので、肩が凝ってしまった。

そこでふと、胸元に入れてあったお守りを取り出す。千種が所長に頼まれ隼に渡した、ピンク色のリボンだった。

本人はあまり可愛らしい色だからとつけないが、隼は似合っていると思った。プレゼントしたのが鷹だというのは多少気にいらないが。

リボンを少しだけ握りしめ、目を閉じる。少しだけ、嫌な気分が楽になった。


「・・・・帰るか。」


俺の帰る場所はもう、あそこだけだ。

そう心の中で呟いて、隼は再び歩き出す。落とさないようリボンは再び胸元にいれる。


「AMCですね?」


その時、目の前に突如人影が現れた。よく感覚を飛び澄ませば、あちらこちらに殺気を感じる。

また面倒な事になりそうだな、と隼は軽く舌打ちし、相手の質問に答える。


「そうだが、何の用だ?」

「殺しに来ました。死んでください。」


声の高さから女だと言う事が分かった。暗くてあまりよく見えないが、確かそれなりに有名な私立高校の制服なのが分かる。

だがその手に握られているのは、包丁だ。それも肉を切ったりする業務用の大きなもの。


「・・・・後3、4人はいるな。面倒だからまとめてかかってきてくれるか?俺はとっとと帰りたいんでね。」

「・・・・その油断は命取りとなりますよ。ですがお言葉に甘えます。出てきてください。」


女がそう言うと、一斉に隼を取り囲むように敵が現れた。

全員が同じ制服を着ており、それぞれ手には違う武器が握られている。チェーンソー、鋸、刀、斧・・・何ともバラエティにとんだ武器ばかりだ。


「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとでも思ってんのか?」

「ええ、思います。」

「先程の戦いでそれなりに疲れている筈。」

「そこを我々の連携で仕留めます。」

「いくら神八代隼でも、我々5人を相手にまともに戦えまい。」

「我々は強い。朝霧、昼顔、夜露と一緒にはしない方がいい。」

「・・・・成程、あいつらの事も知ってるのか。」


女たちの話しぶりから、先程までの焔対昼顔、朝霧対隼の対決も見られていたらしい。気配を全く感じなかったが、染脳操師である夜露がいたのならば話は早い。おそらく頼んで隼の記憶や感覚を操られていたのだろう。

これだけの相手を1日でするのは久しぶりだな、と隼は軽く笑って、自身もシルバーのナイフを構える。


「こい。せっかくだ、手加減してやる。俺が武器を持って戦ってやるんだ、これ以上のハンデはねぇよ。」

「・・・・馬鹿にするのも程ほどにした方がよろしいかと。」

「馬鹿に?最初からしてるに決まってるだろ。あの暗闇に乗じて俺に攻撃を仕掛けなかったのが一番の駄目なポイントだな。まあ、仕掛けてきても倒せたが。つーわけで、早くかかってきて俺に殺されてくれ。」

「・・・・分かりました。その油断が命取りになる事を、精々死んでから味わって下さい。」


そう言うと、5人が一斉に隼へと襲い掛かる。隼はナイフを構え、この台詞は2回目だな、と思いつつ言った。


「死ぬのはお前らだよ。」

***********************************

「ふう・・・。」


場面変わり、神八代本家。怪我人の手当てもようやく落ち着き、鶯は部屋でほっと胸を撫で下ろした。


「ご苦労様です、鶯様。」


そこへ、焔がお茶を持ってやってきた。高級そうな湯呑に入った緑茶は、ほかほかと湯気が上っている。鶯はそれを受け取って、口に含む。


「・・・・やはり、お前の淹れる茶は旨いな。」

「お褒めに預かり光栄ですねー。隣座っても良いです?」

「ああ、構わん。」


そう言うと、焔も自分の湯呑を持って鶯の隣に座る。鶯が正座しているのに対し焔は完全に足を崩している。本来ならばここでだらしが無いと言うべきだし、言えば焔も正座するだろうが、今日は色々あって疲れているのは焔も同じだろうと黙っている事にした。それに焔の性格上、正座するようなタイプでもない。


「しっかし・・・意外でしたね、鶯様。」

「・・・・千種殿の事か?」

「正直、ちょっとジェラってます。」

「じ、じぇら?」

「嫉妬してます、ってことですよ。日比野千種に対して。あーんな簡単に鶯様の心動かしちゃうんだもんなー、友達にもなっちゃうし。これで俺ほっとかれて友達優先したら、ちょっと泣いちゃうかもです。」

「・・・・またお前は・・・。・・・自分だって、意外だったさ。」

「日比野千種がですか?」

「・・・・あんな風に、臆せず話してきてくれたのがな。出会えてよかった、なんて言われたのはお前以来だ。」

「まー、悪い奴ではなさそうですよ。ちょっと抜けてそうだけど。まあそこんとこ鶯様と似てるし、気ー合いそうですよね。」

「・・・何気に失礼だな、お前は・・・。・・・・そうだな、もうひとつお前に話しておかねばならんことがあったな。」

「?なんです?」

「襲ってきた奴ら・・・夜露月見が死ぬ間際に死吊殿に言っていた。『裏切り者』と。」

「!」

「朝霧朝日の態度もそうだが・・・何かが引っかかっていてな。・・・これが全て仕組まれたものだったのなら、少し考えを改めなければと思ってな。」

「考える・・・つーか、鶯様の中ではもう正解出てんじゃないっすか?」

「・・・流石だな。だが、まだ行動には移せない。しばらくは観察が必要だ。状況をもっと詳しく判断して、今の動きを見極めなければならない。・・・暫く忙しくなるかもしれんが、大丈夫か?」

「・・・忘れたんすか、鶯様。俺は鶯様には絶対ですよ。どんな命令でも何でも引き受けますって。」

「・・・・ああ、有難う。お前には感謝してもしきれないな。」

「・・・・。」

「・・・・・な、何だじーっと見て・・・。」

「いやあ・・・あんまり早く大人にならなくていいですよ。」

「は?」

「いやまあ当主らしい鶯様もいいんですけど、俺としてはやっぱりちょっと頼りない鶯様の方がいいっていうか・・・まあどっちも好きなんですけど。でもまだしっかりしなくていいですからね。俺まだ世話焼きたいんで。」

「・・・・お前と言う奴は・・・。」


その時だ。どたばたと慌ただしく廊下を走る音が近付いてくる。鶯と焔は顔を見合し、何かが起きた事を察した。

直ぐ様障子が荒々しく開かれ、部下の一人が息を切らしながら部屋へと入ってきた。


「ぶ、無礼をお許しください鶯様!」

「構わん、何があった?」

「さ、先程入った連絡によれば!日比野千種殿を送っていた車が何者かに襲われたと!」

「!何だと!」

「被害は?」

「全員・・・・やられてしまったようです。ですが、日比野千種殿が見当たらないと言う事で、怪我人以外総動員で、行方を追っています!」

「千種殿が・・・!?」

「・・・・・っち、面倒なことがまた・・・。」

「隼は傍にはいなかったのか!?」

「そ、それが隼さんは車には乗っていなかったとのことで・・・おそらく1人で歩いて帰ったのだろうと・・・。」


しまった、と鶯は後悔する。油断をしていたわけではない、だが襲撃はもうないだろうとは思っていたのだ。

隼がいるからと安心もしていたが、万が一に備え自分の部下で焔の次に強い部下達を護衛として送っていた。隼がいなくとも大丈夫なようにと、腕の立つ部下を用意していたのだ。

それに、千種が狙われる理由は無いと思っていた。彼はあくまで民間人であり、裏の世界では無名と言っても過言ではない。

そんな千種を連れ去って、得をする人物がいるだろうか?と鶯は考える。


「いますよ、1人。」

「え?」

「鶯様の考えてる事、何となくわかります。日比野千種を連れ去って得をする奴、でしょ?」

「!あ、ああ・・・だが、そんな奴・・・・・。・・・!そうか!」

「う、鶯様?」

「全員に伝えろ、捜索は止めていい。」

「!え、ええ!?」

「行き先は見当がついた。自分と焔で向かう。お前たちは処理と留守を頼む。」

「は、はい・・・!」

「でも、今からは絶対無理っすよ。あの家、夜10時はもう入れませんからね。」

「明日の朝まで待たねばいかんのか・・・。焔、車の準備と・・・あれの用意を頼む。」

「・・・了解です。」

「それと、AMCに連絡を。自分は鵙殿と梟殿に連絡する。」


「・・・・どうかそれまで、無事でいてください千種殿。」


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