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説得 その6

「あっちゃー、うっかり殺っちゃった。」


ぽつりと、何の悪げもなく死吊さんはそう呟いた。鶯さんからの命令で、夜露月見は生かしておくということになったんじゃなかったのか。

鶯さんは俺の傍で「大丈夫ですか、千種殿。」と励ましてくれている。さすがは当主様、首切り死体にもそれなりに慣れているっぽい。俺は何とか声を絞り出して「大丈夫。」とだけ言った。

持っていたハンカチで鉈の血を拭いている死吊さんに、鶯さんはきつく問う。


「・・・・死吊殿、命を助けて頂いた事は、感謝しています。ですが、生かせと自分は言った筈です。」

「・・・・そのつもりだったんですけどー、ついうっかり。あー、でも大丈夫ですよ!まだ外に2人いるんだし!あ、ひょっとして壁汚したの怒ってます?大丈夫ですって、後でちゃんとお金払いますから!」


そういう問題なんだろうか、と突っ込みを入れれる程俺はまだ元気じゃない。


「ああ、また忘れてた。はい、鶯様。」

「・・・これは・・・。」


死吊さんが鶯さんに渡したのは、小さな箱だった。綺麗な和紙で包まれており、雰囲気は和菓子が入っているようだ。

そういえば最初に、お届けものだって言ってたな。にしても、このタイミングで?

・・・正直、あまりにもタイミングが良すぎるんじゃないかと思う。だって、あとちょっとで俺は殺される所だった。それをまるで正義のヒーローよろしくあんな風に登場するものだろうか。

それに、夜露が最後に呟いた一言が、引っかかっていた。よくは聞こえなかったが「うら・・・もの」と。考えるに、「裏切り者」だろう。

・・・・最初から仕組まれていたということか?あの3人に鶯さんを襲わせて、いいところで自分が助けに入って六角神の好感度を上げるみたいな・・・。

それとも、夜露が惑わせる為に言った嘘と言う事も考えられる。けれど、あの状況でそんなこと思いつくのだろうか。

そんなことを考えていたら、気分が落ち着いてきた。肩に置いてある手を優しくどけ、俺は立ち上がる。


「・・・えっと・・・。」

「あら?どちらさま?」

「え。」


どちらさまって・・・あれだけ強烈なインパクト与えておいてそれはないだろう。

俺が反論しようとすると、死吊さんは笑みを一層深くしてもう一度言う。


「初めまして、よね?鶯様のお知り合い?私死吊っていうの、よろしくね?」

「・・・・・・・。」

「・・・千種殿は初対面でしたね。こちらは死吊殿、雀殿の部下です。こちらは千種殿。自分の友人です。」

「へえ、オトモダチですかー・・・。それにしては死体見慣れてないようでしたけどお・・・。」

「慣れている人の方が少ないでしょう。」

「あは、それもそっか!んじゃ、外行きます?2人のどっちか生かしておかなきゃですもんね!」


そう言って死吊さんはどんどん進んでいく。俺と鶯さんも慌てて付いていった。

気絶している部下の人たちも心配だが、染脳操師はいなくなったんだ。起きても襲ってきたりはしないだろう。

・・・初めまして、ねえ。勿論俺と死吊さんは初対面では無い。最初に会った時いきなり殺されそうになった事を俺は今でも覚えている。

わざわざあんなことを言うってことは・・・俺と死吊さんが顔見知りだと鶯さんに知られてはいけないということだろうか。何のために、はよく分からないが。

死吊さんの深い笑みには背後で「余計な事言うんじゃねぇぞ」というオーラがガンガンに出ていた。もし逆らいでもしたら俺も夜露のようにいきなり首切り死体になってしまっただろう。

前を見る。鼻歌交じりに歩いていく死吊さんは、さっきまで戦っていたような感じは見えない、普通の女子高生だ。手に鉈さえ持っていなければの話だが。

ようやく、俺達は外へと出た。隼さん達の方へと急いで向かう。


「焔!隼!」

「・・・あれ、鶯様と・・・・・何でいる?」

「酷い言い種ですねー、それ。貴方の愛しの鶯様を守ってあげた人間に対して。」

「千種さん、お怪我は?」

「だ、大丈夫ですけど・・・。」


俺の目の前に広がった光景は、刀を閉まった所の焔さん、その前で倒れている不気味男。身体から血が流れていてぴくりとも動かない、死んでいるようだった。首切り死体を見た俺にとっては、多少ましな死体だった。(死体にましも何もないんだが)その横では隼さんがいつものように微笑んでいた。だが若干服に乱れがある。相当暴れたんだろうか?

そしてその前では、右足、右腕から大量の血を流して立っている丁寧男の姿があった。他から見ても物凄い出血の量だ、生きて立っていられるのが不思議なくらいだ。

丁寧男は俺達の姿を見ると、全てを悟ったかのように「成程。」と呟いた。


「夜露さんは殺られましたか。おまけに昼顔さんも戦闘不能・・・私ももう戦う事は困難。うふふふふふふふふ、成程。お手上げですね。」

「そいつは生かせ!誰に送られたのか、きっちりと話を聞かせてもらう。」

「りょうかーい。ですってよ。悪いけど、あんたの出番ここまでっすわ。」

「・・・あの染脳操師はどうした?あれを拷問掛けた方がよかっただろ?」

「あは、ごめんなさーい、私がうっかり殺しちゃったもんで☆」

「拷問、ですか。それは勘弁願いますね。貴方達を見て、私ちょっと行かねばならない所が出来ましたので。ここで失礼させて頂きます。」

「逃がすと思うか?」

「思えませんね。なので、卑怯な手を使わせて頂きます。」


丁寧男がそう言った瞬間、突如周りが光と煙に包まれた。突然の事に俺は思わず目を瞑ってしまう。

これは確か、所長が前にパーティ会場で使った閃光弾と、煙幕か?眩しいやら苦しいやらで咳込んでしまう。暫くするとようやく景色が見えてきて、そこにあったのは不気味男の死体と、大量の血痕だけだった。

丁寧男の姿は無い、うまく逃げてしまったようだ。


「・・・やられたっすね。すんません、鶯様。」

「・・・・構わん。・・・さて、後片付けをせねばな。」

「・・・・・それよりも、何故ここにいるか聞かねばならない人間がいるがな。」


そう言う隼さんと焔さんの視線は、死吊さんへと向けられる。

若干殺気がこもっているような気がしないでもないが、そんな視線を受けても死吊さんはにっこり笑うだけだ。


「用事ですよー用事。今日、雀様とお買いもの行ったんですけど、たまたま鶯様の好きな和菓子屋さんに寄ったんで、頼まれたんです。持っていってほしいって。そしたらなんか大変な事になってたんで、鶯様救出ってなわけです。」

「どっから入ったんすか?表は俺らがいたんですけど・・・。」

「裏ですよぅ。入口そっちのが近かったんで。そしたら沢山倒れてるじゃないですかー。何事って感じでしたよね!」

「・・・・・そう、ですか。死吊殿、助かりました、有難うございます。」

「いえいえ、大丈夫ですよー。んじゃ、用事も済んだし私帰りますねー!ではでは、また!」


持っていた鉈を専用のケースにしまい、スキップしながら死吊さんは帰って行った。

残された俺達はいつまでもこうしている訳にもいかないので、とりあえずは部下達の手当てをすることにし、空いている大部屋へと全員を連れていく。夜露と不気味男の死体は・・・後でどうにかするらしい。おそらくだが、烏さんの出番なんだろう。あの人は死体ある所に現れるらしいからな。

それにしても・・・・ちらりと横で部下達の手当てをしている鶯さんの様子を見る。先程からずっと塞ぎこんでいる様な、何か考えているような、そんな表情だ。死吊さんの事でも考えているんだろうか。

それに、襲ってきたあいつらは結局誰の差し金だったのだろうか?鶯さんの命を狙ってたってことは、鶯さんの敵なんだろうけど・・・。


「千種さん。」

「はい!?」


そこまで考えていたら、急に名前を呼ばれたので俺は思わず心臓が口から出そうになった。

呼んだのは隼さんで、さっき携帯が鳴ったので外で話をしていた筈なんだが・・・。


「所長から連絡です。もう日も落ちたので、帰るようにと。」

「え、でも・・・。」

「大丈夫ですよ、千種殿。」


この人達の手当てを、と言いかけた所で鶯さんに止められた。


「大分手当ても終わってますし、気絶していた者たちも起きてきています。後は我々がやるので、お帰りください。手伝って頂いて、有難うございました。」

「え、いやいや俺ほとんど何も出来ていなかったっていうか・・・。」

「いえ、十分すぎる程助かりました。心配無用です、もう暗いですし、早めに家へと帰った方がよいですよ。」

「ここまでありがとな、日比野千種。」

「あ、いや、どうも・・・。」

「では帰りましょうか、千種さん。」


俺は渋々立ちあがり、隼さんと共に、玄関へと向かう。

なんというか、あっという間の一日だった・・・いつの間にか日も暮れてたしな。流石に疲れたから、今日は早く風呂に入って寝よう・・・。


「・・・・・っ千種殿!」


と、ふいに後ろから声をかけられた。立ち止って振り向くと、鶯さんの姿があった。その横には勿論、焔さんも。


「?どうしたんだ?」

「・・・・自分は、九神岳の仲間になる気はありません。」

「!」

「六角神の、味方であると思います。」

「・・・・うぐ、」

「ですが、貴殿等・・AMCの味方でもあります。」

「・・・え?」

「生憎と、自分は未だ六角神を信じております。雀殿の事も。・・・・・それを承知の上で、貴殿等AMCと手を組ませて頂けないでしょうか?」

「・・・それはつまり、2重スパイってことか?」


突然の事に驚いている俺と違い、冷静な隼さんはそう質問する。

そうか、確かにそうだよな。六角神の味方をしつつ、俺達の味方もしてくれる。けれど六角神は俺達を嫌っているし、俺たちだって六角神は敵をして判断している。


「・・・・少し違うがな。とにかく、今後何か情報があればそちらにも流す。だが決して六角神の人間には誰一人として知られるな。・・・もう少し、調べたい事がある。」

「調べたい事?」

「・・・・それは、また話します。待っていてください。」

「鶯様・・・。」

「焔、いいな?」

「・・・・俺が鶯様の意見に逆らった事あります?」

「っありがとう!鶯さん!」

「・・・・れ、礼を言われることでしょうか・・・。」

「当たり前だろ!よかったー・・・少しでも結果残せて。これで何の成果もなかったら、俺ホント今回何してたんだろってことになっちゃうから・・・。」

「そんな事はありませんよ。」

「え?」

「千種殿のおかげです。貴殿が今日、こうして来てくれなければ、自分の考えは一切変わりませんでした。・・・不思議なお方ですね。」

「え、え?」


不思議なお方と言われても・・・変わってるっていうのはこの世界でよく言われるけれど。それはあくまで俺が普通であって周りの人たちがおかしいんだと思うんだけどな・・・。

けどまあ、よかった。六角神とは手を切れなかったが、俺達の味方はしてくれるんだ。それだけでまずは充分だろ!

当初の目的より少し違うけれど、これはこれでいい結果になったんじゃないだろうかと俺は思った。


************************************


「っはあ、はあ・・・・・。」


辺りが真っ暗な日本庭園に、血を垂れ流している男―――朝霧朝日の姿があった。

神八代邸から必死の思いで逃げ出した彼は、溢れ出る血が止まらなくとも、歩き続けた。通りすがりの人間からは奇怪な目で見られてしまったが、始末したので問題は無い。

そしてようやく、目的の場所へと辿り着いたのだ。


「・・・・随分と、約束が違うんじゃありませんかね?私達は神八代鶯を殺害せよ、との命令を受けました。それがなんです、あのアクシデントだらけの結末は。隼が戻っているなんて聞いていないし、ましてや死吊まで・・・これは一体、どういうおつもりなんですかね・・・雇い主でもある、六角神雀さん?」


そう目の前の少女に朝日は問い掛ける。

少女―――六角神雀はそれを聞いて、にっこりと、優雅に、綺麗に微笑んだ。

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