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説得 その5

「・・・・俺もな、まあ危機感は感じててん。いやまあそれなりの当主様やし?でも護衛は一応おるから問題ないやろと思たんやけど。いやー実際忙しくて大変やねん。お姫さんがここぞとばかりに好き勝手暴れてくれるから俺がどんだけ処理してるか・・・この苦労、誰か少しくらい労ってくれや。それだけで俺結構救われんねんで。あー、なんか激辛なもん食べたい・・・たこ焼きに大量にタバスコと七味かけたやつ食いたいわぁ。こんなとこじゃなくて、お家に帰って。」

「・・・・。」

「鵙様、ぐだぐだと長々と話している暇があるのなら動く努力くらいはしてください。」


場所変わり、九神岳が所有する企業のビルの一室にて。九神岳鵙は高級感漂うデスクにあぐらをかいて座っていた。

机の上に置いてあったものは綺麗に床に落とされている。

その前、鵙を守るように立つのは部下である表裏ひょうりと、東条一里だった。

全11階からなるフロアの一番上、言い換えれば社長室に彼らはいた。

11階より下は社員が仕事をする場所であるが、今日はどのフロアも人がいない。その代りといってはなんだが、黒く長いマントで身を隠し、顔にはキャラクターのお面をつけた奇妙な奴らがぞろぞろと溢れかえっている。中々に滑稽な画だ。


「いやー、やっぱ会社の人間避難させといて正解やったわ。こんなん溢れたらえらい騒ぎになってまう。」

「マスコミには手は打ってあります。」

「流石やな。さて、残りどんくらいや?」

左右さゆうの調べでは、200近くと。既に100は潰してるんですが。」

「多!はー・・・どんだけ人件費かかってんねやろ。勿体な!」

「推測ですが、報酬は後払いではないかと。六角神が、そこまで金をかけるとは思えません。」


表裏は鵙と会話しつつ、目の前から襲いかかってくる敵を両手に持っている警棒で叩きのめしていく。

一里も、体術で敵を仕留めていく。強烈な一撃に、一発で敵は気絶する。

既にこの社長室では30人程が倒れている。1階にて応戦している天地てんち達の包囲網を潜り抜けた者達だ。

補足しておくと、一応彼らもそれなりの武闘派集団ではあるが、九神岳の部下達の方が2枚も3枚も上手の様だ。


「しっかし・・・まさかお前が俺を助けにくるなんてなぁ、一里。お前んとこの所長、どういう風のふきまわしやねん。」

「・・・・。」

「まあ、何か裏があると思っとくわ。けど、助かった。これだけの集団、俺らだけじゃ手に負えんかったからな。」

「梟様からの連絡があってよかったですね。」


この集団達がビルに来る1時間前、梟から鵙の所へ連絡が入った。

六角神に雇われた集団が、続々と九神岳が所有する建物へと向かっていくのを鳥達が目撃したとの情報が入ったのだ。これを聞き鵙は急いで全ての者たちに避難命令を出した。おかげで今日は仕事が止まってしまっている。

1日動かないだけで大変な会社もあるのだ、やってくれたわ姫さん、と鵙はぽつりと呟いた。


「なあ、聞いてええ?なんでお前断らんかったん、一里。お前、俺と関わるの嫌いやろ。」

「・・・。」

「あの所長がここまでして俺を助ける義理あるん?」


そう言う鵙に、一里は懐から一枚のメモを取り出し鵙に渡す。

鵙は首を傾げながらもメモに目を通す。そこに書かれていたのは、話に出てきた所長からの一言だった。


『今君に死なれても困るから一里貸してあげる。感謝してよね。一里になんかあったら許さないから。』


「・・・・・そんでお前は命令通りここに来たと。どんだけ所長命令に従順やねん。」

「・・・。」

「ああ、言わんでも分かっとる。お前を連れ出したんはあの女やしな。今死なれても困る、ねえ・・・。確かに、その通りやな。」


鵙はにやりと笑うと、勢いよく立ちあがりデスクから飛び降りた。

一里と表裏の間を通り抜け、今し方着いたばかりの敵6人を見据える。


「ようやく本気を出されますか?」

「ん、俺もそろそろちゃんとせないかんと思てな。面倒や、とっとと下まで降りて片付けよ。」

「出来ればもう少し早く決断して頂けると、部下としては嬉しい限りです。」

「厳しーなー・・・今から頑張るから帰ったら辛いもんいっぱい用意しといてや。」

「仰せのままに。では、これを。」


表裏が取り出したのは拳銃、ベレッタだ。弾が入った袋も一緒に渡し、鵙はそれを装備する。

さて、と言うやいなや一発敵に打ち込んだ。お面の眉間に着弾し、敵は倒れ込んだ。突然の事に周りにいた他の敵達は慌てるが、直ぐ様切り替え3人の元へと突進してくる。


「んじゃ、行こか。死体処理は烏がどうにかしてくれるやろ。いっぱい暴れてええで。」

「仰せのままに。」

「・・・。」

****************************

「染脳操師・・・・・?」


洗脳師、は聞いた事があるがそれに操がつくなんて知らない。とゆうか、そんな人までいるのか。

今目の前で仁王立ちしているこの幼い少女、夜露月見と名乗ったが絶対偽名だと思う。こんな小さな子が、なんでそんなのに・・・。

俺は一生懸命暴れてみたが、ぴくりとも動けない。くそ、さすが神八代。並みの鍛え方はしていないようだ。

その様子を見ていた夜露月見ははあ、と深い溜息をつく。11歳で大人みたいな溜息するなよ。


「無駄だと言う事が分からんのか?いい加減諦めよ。」

「・・・・随分と古風な話し方だな、子供なのに。」

「子供だから古風に話してはいかんのか?それと、挑発にはならんぞそんなもの。」

「・・・っ千種殿は、離せ!」

「鶯さん!?」


それまでずっと黙っていた鶯さんがそう言うから、俺は思わず驚いてしまった。


「お前達の狙いは自分だろう?殺すなら自分だけ殺せ、この人は関係ない!」

「鶯さ・・・。」

「確かに。関係はなかろうな。貴様には。」


夜露の言葉に俺と鶯さんは首を傾げる。そのニュアンスでいくと、まるで俺とこいつが何か関係あるみたいじゃないか。

だが俺は夜露月見とは初対面である。大体、初対面じゃなかったら真っ先に警戒するわ。


「AMCなんじゃろ、日比野千種とやら。」

「!」


さすが敵さん、調べは付いているらしい。俺も中々認知度が上がってきているようだった。嬉しくないけど。

けれどここまでくると、所長達って相当恨み買ってるっぽいな・・・。一体過去に何しでかしてるんだろうあの人達。

この夜露月見も、過去にAMCに何かされたのだろうか。


「AMCの奴らも殺すよう命じられておる。それと、仇もあるのでな。」

「仇・・・・?」

「日比野千種とやら、染脳師は知っておろう?」

「・・・・嫌な思い出しかないけどな。」

「あれは儂の母親じゃ。」

「は!?」


10月に出会った染脳師。AMCの力で探し出し、倒して、殺された。それは俺たちじゃない、六角神の部下である死吊さんの仕業だ。・・・今でも思い返すだけで吐き気がする。俺の目の前で、染脳師は首を切られて死んだのだ。あの生々しい出来事を、俺は一生忘れえないだろう。

その染脳師の、娘ってことか?・・・成程、それなら仇というのも頷ける。


「母親としても染脳師としても失格だったが、一応血の繋がりはあるのでな。復讐とさせてもらおう。」

「・・・・実力的にはお前の方が上だってか。」

「左様。言うたろ、儂は染脳操師であると。あれは人の心は動かせたが、儂は更に意識も、記憶も、脳も操る。外の2人が儂がいなくなったことに気付かなかった事も、脳さえ操れば簡単じゃ。一瞬の隙さえあれば儂は簡単に操れる。そもそもそこに存在したのか、自分の記憶違いだったのか。それが出来るのが、儂じゃ。」


染脳師だけでも凄いと思っていたが、更に格上が現れた。脳を操るって、反則にも程があると思うんだが。

そうか、と俺達を捕まえている人達を見る。全員目が虚ろ、これが脳を操っている状態か。おそらく記憶すらも操られているのだろう。なんとまあ厄介でハタ迷惑な力だな、これは。

さてと、と夜露は背負っていたランドセルからごそごそと何かを取り出そうとしていた。これだけ見ていると唯の小学生なのだが、如何せん中身は可愛げのないガキである。

しばらくして夜露の手に握られていたのは、図工などで使う彫刻刀だった。普通のより一回り大きく、その刃は輝いている。

嫌な予感しかしなかった。


「生憎と儂は力が無いのでな。その者たちに殺ってもらうとするかの。」

「だから、待てと言って・・・!」

「そう儂は気が長くなくてな、待てんよ。安心しろ、先にこやつを殺してから貴様を殺してやろう。後で部下と一緒に死体を並べてやろうぞ。」


夜露は立っていた3人の部下達にそれぞれ彫刻刀を渡す。そいつらはそれを受け取ると、俺の方へと歩み寄ってきた。

何度か刺さなければ死にはしないだろうが、結構痛い思いはする。そんなのはまっぴらごめんだった。

俺は必死に足掻くが、足掻けば足掻くほど俺を押さえつける力は増す。


「いい加減諦めたらどうじゃ?みっともなくて哀れにさえ思えてくるわ。」

「・・・・っ言っとくけど、俺達お前の母親殺してないからな。」

「命乞いか?無駄だと言ったじゃろ。お前達が殺したと報告も受けた。今更敵の言葉に耳を貸すと思うか?」


ぐうの音も出ないとはこのことだった。確かに、俺だって同じ状況になったら命乞いの為に嘘を言っているのではないかと思う。ここで死吊さんの名前を出して動揺させるのもありだと思ったが、夜露よりもむしろ鶯さんの方が動揺してしまうだろう。あの人は六角神を信じている、下手な事言ってしまえば鶯さんにこの場で不信感を抱かせてしまうかもしれない。

とうとう、彫刻刀を持った男達が俺の所へと来た。虚ろな目で俺を見下している。

鶯さんも必死に暴れているが、抜け出せない。声を張り上げても、部下達には届いていない。

彫刻刀が振り下ろされる。ああ、俺死ぬのかと頭は冷静にそう思った。22年生きてきて、突然色んな出来事に見舞われて、最後の方は壮大な人生だったな・・・。

覚悟を決めて目を瞑った。しかし衝撃は一向にやってこない。疑問に思い目を開けると、部下達の手に握られていた彫刻刀は一つ残らず刃が無くなっていた。その様子に俺も鶯さんも、夜露も目を疑った。


「彫刻刀ー?武器としてはイマイチよねー。まあ小学生が持ち歩いてても不思議ではないけどさ。」


気付けば、夜露の背後に誰かが立っていた。夜露も気配を察し、ばっと後ろへ下がる。

全身真っ赤なコーディネート、赤のセーラー服に身を包んだ美少女。両手には全く雰囲気とあっていない鉈。そしてその足元には彫刻刀の刃が落ちていた。いつの間に・・・。

美少女―――死吊さんはにやにやと笑っている。楽しそうな顔だった。

夜露は突然の事に動揺していたが、やがて気を取り直し、他にも操っている部下達を一斉に死吊さんの方へと向かわせる。


「あらあら、殺る気満々じゃん!そうこなくっちゃ☆」

「し、死吊殿!殺すのは・・・・!」

「分かってますよう、それなりに手加減しますって!」


そう言って死吊さんは鉈を持ち替え、刃ではない方、切れない方を部下達に叩き込む。強烈な一撃を全員頭にくらわせられ、気絶する。その光景に夜露は再び動揺する。


「な・・・・!」

「あら、これで終わり?つまんないわねー、面白くない!んで、次は誰と殺りあえばいーの?」

「・・・・っ貴様ぁ・・・!」


なんでこの状況で死吊さんが来たのかは分からないが、一先ず助かった。夜露も死吊さんの方へ全神経を研ぎ澄ましているのか、俺達を捕まえている部下の力が弱まった。俺と鶯さんは目を合わせ、一斉に起き上がる。

部下達から簡単に脱出すると、それに気付いた夜露は「しまった!」と表情を曇らせた。俺達は壁際まで下がる。


「鶯様ぁ!この女は殺していいのかしらー?」

「・・・依頼主を知りたい、生かしてくれますか?」

「・・・・ええー・・・まあ、いいか。だって!あんた幸運じゃん、私と戦って殺されないなんて。」

「・・・・っ六角神の飼い犬がぁ・・・!」


怒りを露わにした夜露が、袴の下から大量の彫刻刀を取り出し、死吊さんへ投げつける。

死吊さんはそれを交わし時に鉈で落とす。全て投げ切ったのを見ると、夜露へと走っていく。

そして鉈を振る、それは夜露の腹に直撃した。呻き声が聞こえ、壁に叩きつけられる。流石子供、軽いだけあってかなり飛ぶようだ。そしてやはりというかなんというか、夜露は接近戦は向いてないみたいだ。自分が戦うよりも、相手を操って攻撃させるのが本来の夜露のスタイルなんだろう。


「っく・・・!」

「あらあら、自慢の操り人形もこんなんじゃ弱っちいままねー。まあ、例えどんな人形でも私勝っちゃうけどさ!」

「死吊殿、何故ここに・・・?」

「え?ああ、あっと忘れてた。雀様にお届けもの頼まれたんですよ。直ぐに渡してほしいって言うから私がひとっ走りここまで来たってわけです!まさかこんなことになってるとは、思いもしませんでしたけどー。」

「・・・助かりました。死吊殿が来てくださらなければ、自分は・・・。」

「あっはは、別にいいですよ!最近退屈してたんで、暇つぶしが出来て何よりです。」

「暇つぶし、じゃと・・・?」


死吊さんの態度、言動に夜露は怒りを抑えきれないようだった。あれだけ挑発には乗らないって言ってたのにな・・・。

けど、やはり死吊さん強い。あんな重そうな鉈を両手に持って軽々と振り回して、大の男相手に怯みもしない。

笑っているということは、余裕があるということだろう。そして何より、楽しそうだった。

起き上がりかけた夜露に死吊さんは左足を叩き込む。再び腹に直撃し、夜露は苦しそうな声を上げた。2発も腹にくらっていれば、さすがに立てはしないだろ。


「さーて、これでもう動けないでしょ?小さい体には大きな衝撃でちゅもんねー。」

「っ死、づ・・・・!」

「あら、まだ話せる気力はあったのね。でも、面倒だからもう一発くらい蹴っとこっかなー。」

「・・・・・な。」

「え?」

「だ、・・・・・り、も」


それが夜露の最後の言葉だった。次の瞬間、夜露の体は真っ二つに分かれてしまっていたからだ。

頭と体。首から上を、すっぱりと斬られてしまった。壁に真っ赤な血が飛び散る。

その光景に俺は具合が悪くなってその場に座り込む。隣で鶯さんがそっと肩に手を置いてくれた。

相変わらず、気持ちが悪い。何が楽しくて年内で2人も首切り死体を見なきゃいけないんだ。それも親子の。

以前で慣れたのかなんなのか、前よりは吐き気はしない。それでも、見ていて気持ちのいいものではない。


「あっちゃー、うっかり殺っちゃった☆」


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