第五話
「みんな早かったね。状況が状況だから前置きは省くよ」
役員が集まった時の架院先輩の第一声がこれだった。気が緩んでいる人など最初からいなかったが(多分)、この一言で空気が一気に張りつめたのが分かる。
「世界最大の魔法石――ダイヤモンドがこの学校にあるのは知っているね」
架院先輩は私以外の全員が頷いたことを確認し、続きを話し出した。
「その魔法石を今日の夜盗りに来ると、朝校長に直接メールが送られてきたそうなんだ」
「「「!」」」 「?」
「湊斗、今なんて言ったんや? ダイヤモンドを盗む?」
要先輩が私以外の役員の気持ちを代弁するかのように聞く。
架院先輩がそれに頷き、部屋が静まり返ったタイミングで、私はおずおずと手を挙げた。
「あの……」
そして一泊おき、
「ダイヤモンドってなんのことですか?」
…………………………。
「「「え―――――――――――――――!」」」
私の質問にメンバーは数秒間口を開き、そして絶叫した。
「詩音ちゃん知らんかったんか!」
「生徒会としてまずいだろ!」
「馬鹿だ馬鹿だとは思った、思ってたけどまさかここまでとは……」
「ちゃんと勉強しなきゃだめだよ詩音」
言葉が心に突き刺さるが私はめげない。なぜなら――
「皆さん! 私が生徒会に入ったのは先週のことですよ! 正真正銘、初心者の私が知らないのは当然です!」
「それ、胸張って言う事じゃないからな」
そう(司の発言はもちろん無視だ)。私が生徒会に入ったのは先週の話し。
そもそも、2週間前の魔法力判定テストでふざけてA級魔法を使おうとしたら、魔法が発動してしまったのが始まりだ。
その後すぐに校長室に呼び出され、挙句さまざまな契約を結ばされ、晴れて生徒会に入ったのだ。
あとで聞いた話によると、私が魔法を使ったのを見た試験監督などの記憶は架院先輩が改ざんしたらしい。
「じゃあ、ダイヤモンドについて説明をするよ」
架院先輩は溜め息をついたあとそう言うと、メンバーが代わる代わる説明をしてくれた。
「魔法石には魔力が入っていて、それぞれ強さが違う、ということは知ってるよね」
「はい」
「じゃあ最も魔力が強い石がある、ってことも想像つくかな?」
私が頷くと架院先輩は要先輩に目配せをした。
受けた要先輩が椅子の上で胡坐という奇妙な体制で続きを言ってくれる。
「その最も魔力が強い石、ちゅうヤツがこの学校に保管されてるんや。理由はよう分からんけどな」
「それがダイヤモンド……?」
「そういうこっちゃ」
要先輩は腕を組みつつうんうんと大きく首を縦に振る。
「世界一強い力を持つ魔法石だ。どんな事に悪用されるか分かったもんじゃない」
梓先輩がペン回しをしながら独り言のように言う。
その一言で私は一大事なのだと気が付いた。
「そんなものが盗まれたら大変じゃないですか!」
「だからさっきからそう言ってんだろ!」
私の一歩も二歩も遅れた反応に司が速攻で突っ込みをいれてくる。
「じゃあ早速対策を考えましょう!」
が、私はそれを完全に無視する。
「こいつめ……」
何か言っているが私は何も聞こえない。
「はりきってるとこ悪いんだけど、実は対策はもう考えてあるんだ。それを伝えるために集まってもらったんだからね」
これは私にとって初の任務だ。どんな作戦をするんだろうと、不謹慎にもドキドキしながら聞く体制をとる。
「本当に悪いんだけど、そんな大層な作戦じゃないよ。とりあえず寮の消灯時間、つまり十一時にここに集合して、その後ダイヤの近くで警備をするってわけなんだ」
その言葉を受け、露骨に落ち込む私に苦笑いを浮かべるメンバー。
「安全な方法をとるのが良いことやねんから、詩音ちゃんも落ち込まんといてや」
そんな他愛もない話しをしながら生徒会室をあとにしたのだ。
このときの私には、これから起こることなんて予想することも出来なかった。