第一話
『えー、この式は…………』
先生の声が教室に響く。
『xにこれを代入して…………』
今は授業中である。しかし眠い。
私は机に頬杖をつき思いきり舟をこぐ。
『じゃあ、ここの問題を…………九条、解いてみろ』
何だか自分の名前が遠くから聞こえ
「おい九条、聞いているか?」
「私は九条詩音。十六歳でぴちぴちの高校一年生です」
「知ってるわ!」
「あっ、つい…………」
しまった。寝ぼけて意味の分からないことを言ってしまった。
「何がつい、だ! 誰が自己紹介をしろと言ったんだ!」
「すみませーん」
「棒読み…………まあいい。取りあえず問題を解け」
「え、どこの問題ですか?」
次の瞬間、私は先生の話しを聞いていなかったことを後悔することになる。
スコーン
窓際の一番後ろが私の席なのだが、対角線上にいる先生が投げたチョークが見事に眉間にヒットする。
「いったああああああ!」
私はあまりの衝撃にもんどりうつ。
数秒後、復活した私は左手で眉間を抑え、右手で宿敵を指さす。
「先生! 暴力反対です! 生徒の鏡であるはずの先生が」
「もう一発くらいたいのか?」
「ごめんなさい」
野生本能が勝手に私の腰を折る。
そして非情な先生から非情な一言。
「廊下に立っとけ馬鹿者」
「…………はい」
詩音は渋々廊下へ行く。
廊下に出ろは、イコール放課後の説教を意味する。
今が六時間目なのが完全に災いしている。
まったく。何が悲しくて放課後に先生とデートなんだか。
周りの人たちの視線が癪だが、自業自得なので仕方ない。
言い訳をすると、昨日は夢見が悪かったのだ。高校生にもなって夢見が悪いもくそもないかもしれないが、とにかく昨日の夢は怖かったのだ。
そして小さなころからこの夢を見ると悪いことが起こる。一種の予知夢というやつだ。悪いこと、といっても些細な事から重大なことまで大きさは異なるが、何やら今回は嫌な予感がする。大事にならなければいいが。
後ろ手に教室の扉を閉めながらそっとため息を吐く。あとで説教は確実だ。。
と、
『連絡します。生徒会執行部の役員は至急、生徒会室にお集まり下さい。生徒会執行部の役員は至急、生徒会室にお集まり下さい』
授業中には珍しい、生徒の収集放送が入った。収集とは言っても一部だけだが。
放送を最後まで聞いた詩音は、どこから取り出したのかゴムを手に持ち、それで腰まであるストレートの黒髪を束ねる。
そして詩音は生徒会室へと歩き出す。
生徒会執行部として。
A級魔道士として。
***
時を遡ること千年ほど前。一人の科学者が新しい技術を開発した。
正式名称は『魔の法則によって創られた技術』。今まではファンタジーの中にしか存在しなかった『魔法』である。
人々は魔法を使う力の源を『魔力』、魔法を自由に使う者を『魔道士』、魔法を開発した科学者を『魔女』と呼んだ。
魔女がとても珍しいことにラテン語を話したので、魔法をマギア、魔力をマナ、魔道士をマグスと呼ぶこともあるが、それ単体で使う場合は大抵日本語である。
魔法にはランクが存在し、それは単純に難しさで決まる。
難易度が低いものから順番にE級、D級、C級、B級、A級、S級となる。
日常的によく使用するのはC級、良くてもB級までで、それ以上ランクが上になると専門的な魔法や危険だからと禁止になった魔法がほとんどになる。
E級は使えても大して役に立たない。
そして使える魔法のランクによって魔道士のレベルも決まる。
例えば、D級魔法が一つでも使えればD級魔道士、B級魔法が一つでも使えればB級魔道士といった具合だ。
魔道士の八十パーセントがC級以下で、B級は十五パーセント、A級は四パーセント。そしてS級は残りの一パーセントという分布になる。
しかし、飛行機を知っていても操縦の仕方が分からなければ動かせないように、魔法も大半の人が使い方を知らなかったがために普及しなかった。
このままではこの素晴らしい技術を失ってしまうのではと政府は焦り、魔女に懇願する形で魔法を学ぶための機関である『魔法学校』を全国に設立した。
魔法学校とは言っても、設備が偏っているだけで魔法のみを学ぶわけではない。通常授業に『魔法』という教科が加わりそこで魔法を学ぶのである。
その内の一つにして国内順位五位以内に入る優秀さを誇る学校。
それが詩音の通っている『国立魔法学校青嵐学園』なのである。