トカゲと海
掲載日:2026/08/30
木の影からみえた月灯りが星のように瞬く夜
木の葉の影がひとつササッと動いた
「今夜はどこへ釣りに行かれるのですか」
木陰に隠れていたトカゲが一人の漁師に訪ねる
「喜んで釣られる魚はいないでしょうからね。
必死に逃げる魚だから面白いのですか」
漁師は少し困った顔をして答えた
「そうかもしれないですね。でも油断をすると私自身も海へ還ることになる、海を愛しているからそれでもいいと思っているんだけれど 陸には愛する妻がいるから 生きて帰りたい」
還る場所と帰る場所 ふたつあるのは僕らと一緒だとトカゲは思った
そうしてまた一度漁師に訪ねた
愛するおふたりの間に在るのは
「釣り糸か、鎖か、餌か、槍か、舟か、、」
漁師はきっぱりと答えた
「やはり海辺だろうね」
その言葉を聞いたトカゲは夜明けまで
小高い山の上から海を見下ろしていた
時が波打つような風に吹かれて
舟のように揺さぶられる木の葉に乗って




