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私の「声」は届いていませんでしたか?〜汚い声だと追放された聖女、その歌声を好きだと言ってくれたのは獣人でした〜  作者: 衛星 奏志


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第二話 愛の歌

完結です。

 町ではゆっくりと過ごした。

 約束通りドラゴンの里に連れて行ってもらって、デューリスさんのご両親にも会えた。

 デューリスさんのお母さん、シアさんはかなり若く、聞けば十八歳で番になりそれから体の成長が止まっているそうだ。しかも、今は失われた魔法の使い手というすごい人だった。

 シアさんにせがまれて歌を披露した。


「私のことを凄いって言ってくれたけど、あなたの歌もとても凄いわ。でも酷使しすぎちゃったわね。聖なる力というのは、使う人の心に大きく影響されるの。心から守りたい、助けたいと思えば自ずと内から力が湧いてくる。些細なことだけれど、きちんと感謝してもらえる、相手が愛するに値する、そういうことは影響するわ」


 シアさんもドラゴンの里に来る前では全く感謝されなかったらしい。国を覆うほどの巨大な結界を張り、国のために戦ったにも関わらず。


「心の栄養が枯渇してる状態で無理に聖なる力を使おうとすれば体に異常が出るのは当然のこと。頑張ったのね。でももう無理して歌う必要はない。好きな時に好きな人に向けて歌えばいいわ」


 そう言って頭を撫でてくれた。

 シアさんは見た目は若いけれど、全てを包み込んでくれるような安心感があった。

 この地で数日を過ごして十分に心が満たされていたと思っていたけれど、しがらみのようなものから解放されたような気がする。


 私は、ヨナスに勧められて町のすぐそばにある森の中で思う存分歌った。

 一人で。

 ヨナスと一緒に。

 集まってきた動物達にも聴かせる様に。


 木々も喜ぶようにサラサラと枝を揺らして音を鳴らす。


「リディ、凄いよ」


 隣で寝転んで歌を聴いていたヨナスが起き上がり静かな声を上げる。

 見れば、大きな角を持った鹿に似た動物が寄ってきていた。


「歌うのを止めないで、あれはこの森の神獣様だよ。いるらしいとは聞いたことがあるけど。リディの歌に誘われて来たんだね」


 神獣。

 とても美しい生き物だった。

 鹿に似ているけれど、枝分かれした角は大きく、所々苔が表面を覆い、蔦が絡まっている。

 背中にも苔が生え、歩く度に足元にキラキラと光る粒が舞い上がる。

 鹿よりも二回りほど大きく、足も太くて蹄もどっしりしている。


 神獣様は、すぐそばまで来て足を折ってのっしりと伏せた。手を伸ばせば届くほどの距離だ。

 神獣様の周りにはたくさんの動物達が集まり、身を寄せたり、神獣様の上で追いかけっこしたりしている。


 私の膝にも、再び寝転んだヨナスの体の上にもたくさんの動物達が乗り、体を休めている。


 神獣様のお陰か、降り注ぐ光がキラキラと輝いていて、空気が澄んでいる気がする。


 しかし、それをヨナスに言うと、


「それ、神獣様のお陰じゃないよ? リディが歌うといつも、そんな感じになってたけど……気付いてなかったんだね?」


 と、笑われてしまった。


 驚くほど穏やかな日々だった。

 ドラゴンの里にも何度も遊びに行き、シアさんとヴィオレッタさんとはお茶飲み友達のようになった。

 マレナさんとも料理を教えてもらったり、薬草の見方や煎じ方を教えてもらったり、本当の親子の様に仲良くなった。


「ずっと、この町にいたらいいよ。私達は大歓迎さ。リディが来てから、作物の育ちがいいし、質も断然良くなってる。いつもより高く買ってもらえるって皆喜んでるよ。いつも言っているだろう? リディのお陰だって。昨日の野菜も一昨日のだって、お礼で皆が持って来てくれたんだ。感謝してる。もちろん、私もね。リディがうちに来てからずっと楽しいんだ。リディが居なくなったら寂しくなっちまうよ」


 マレナさんは優しく撫でながら、そんな風に言ってくれる。

 母親というのはマレナさんみたいなのだろうか。


 ヨナスの父親は、マレナさんの作った薬を持って、行商の旅をしているそうだ。

 時々は王都のヨナスの元へ来て、薬を置いていってくれていたとヨナスが話してくれた。


 そして、私の心にも変化があった。

 というか、気付いた。歌う時、いつもヨナスのことを考えていることに。


 隣にヨナスが居なくても、ヨナスに届くようにと歌っている。


「それは恋ね」

「いいわねぇ。甘いわねぇ、素敵ねぇ」

「やっぱり、そう思いますか」


 ドラゴンの里で相談するとヴィオレッタさんとシアさんが肯定する。


「あら、初めて?」

「ええ、まあ。そうですね、初めて……と言うよりも男性とこんな親しい間柄になったことが初めてで……」

「そうなの。獣人の男性は愛情深いから大切にしてくれるわよ。私の旦那様、番になって千年経つのに今でも甘々なの」

「ああ、お義父様はお義母様にベタ惚れですものね」


 シアさんはにこにこ嬉しそうに笑っている。その顔を見てお互いベタ惚れなのは一目瞭然だった。


「でも、私歌うしかできませんし、ヨナスが私のことを悪くは思っていないとは思うんですけど、好きでいてくれるかは分かりませんし、もし気持ちを伝えて町に居辛くなるのは嫌なんです。あの町が私大好きなんです。できればずっと住んでいたいくらい」


 シアさんとヴィオレッタさんは顔を見合わせた。


「ヨナスさんの気持ちを私達から言うことはないけれど、きっとリディの気持ちは隠せないと思うの。だって歌に乗っているもの」

「ええ、そうね」

「ええ?」


 ヴィオレッタさんの言葉に驚く。


「次、歌う時、チラッとヨナスさんの様子を見てみなさい。きっと分かるわ」

「え? そんなこと言われたら怖いじゃないですか」

「あっは! 大丈夫、大丈夫。何の心配もいらないわ。期待して見てあげなさいな」


 シアさんが笑い飛ばして言った。

 そして、シアさんは言う。


「恋してからのリディの歌、とっても心地良いけれど、少し切なくなるの。胸がキュウっとね。久しぶりにラーヴェンに出会った頃を思い出したわ」


 ラーヴェンさんはシアさんの旦那様で、ドラゴンの里の長をされている方だ。

 ヴィオレッタさんもまた頷いていた。


 いつものようにヨナスと森へ行く。

 なんだか意識しすぎて緊張して不自然に二人の間に距離ができてしまった。そんな私にヨナスがチラチラ視線を送ってくるが、振り向くとができない。

 いつもの場所に着くと、すでに動物達が集まっていた。


 神獣様もいて、神獣様を挟んで向かい合うように座る。


 神獣様は触らせてくれるようになり、私が歌っている間、ヨナスが神獣様をブラシで手入れするのがここ数日の日課になっていた。


 ヨナスの手によって神獣様の毛並みはサラサラで、角はツルツルツヤツヤに輝いている。


 苔や蔦のある神獣様も古き神という感じで良かったが、手入れされた神獣様は眩いばかりの神々しいお姿だ。


 思うまま、紡がれるまま、言葉を音に乗せる。


 最初の頃は、聖歌隊で歌っていた歌だったが、今は心から紡ぎ出されるままに歌っている。

 それはヨナスに向けての歌ということだ。


 ある程度、高まったところでチラリとヨナスに視線を向けると、パチリと目があった。

 すぐに逸らされてしまい、ズンと心が重くなったが、よく見るとヨナスの耳は真っ赤になっている。

 そして、頬もじわりじわりと侵食するように染まっていく。


 歌が辿々しくなり、やがて尻すぼみするように消える。


「ごめん、その。俺のことじゃないって分かってるんだ。でも、なんか、歌がすごく切ないっていうか、愛しいっていうか。胸が締め付けられる感じがして……いや、ごめん。何言ってるんだろ。気を散らせてごめん。続け……て?」


 真っ赤になってしまった私を見てヨナスが目を丸くする。


「えっと、か、勘違いじゃないの」

「へ?」

「いつの間にか、歌う時いつもヨナスのことばかり考えちゃって……」

「俺の?」

「ヨナスが歌って良いって言ってくれたから。私の歌を好きだって言ってくれたから。だから……」

「感謝の気持ち……で?」


 この期に及んで思い違い。

 なんだか分からないが腹が立つ。


「私の歌を聴いてて、感謝だけだと思うのっ?」

「え? ほんとに?」

「さっき言ってたじゃない!」

「え……俺のことが、好き?」


 私が頷くと。


「え? どうしよう? ほんと? これ現実? リディが俺のことを好きって? し、神獣様どうしよう?」


 神獣様の首を掴んでゆさゆさ揺らす。

 神獣様は瞼を半分だけ下ろし、呆れた顔をヨナスに向けながらされるがままになっている。


「ちょっ、ヨナス! 神獣様が!」

「あ、申し訳ありません」


 神獣様から腕を離すと、神獣様は起き上がり少しだけ距離を取った。

 向かい合う二人の間には神獣様分の間しかない。


 ヨナスが居住まいを正す。


「リディエル、ずっとこの町に、俺のそばにいてほしい。好きだ」


 ヨナスが差し出した両手を見下ろす。

 少し震えるその手に、私も両手をそっと乗せ、顔を上げるとキュッと握ってくれた。


「私も、ヨナスが好き。この町が、森が好き。ずっとここにいたい。ずっとそばにいる」

「うん。ひとっ飛びするけど、結婚してくれる?」


 確かにひとっ飛びかもしれない。でも、ずっと一緒にいたいと思ったのだから──


「はい。ヨナスと結婚します」


 と、答えた。


 神獣様が近づいてきて、繋いだ手に口をつけた。

 すると、ふわりと金色の粒が手から二人の体を包んでスッと消えた。


「祝福、してくれたのかしら?」

「多分そうだね。神獣様ありがとうございます。これからも神獣様の毛艶整えていきますので」

「私も、たくさん歌いますね。祝福ありがとうございます」


 神獣様は満足そうに首を振った。


「じゃあ、……帰ろうか」


 真っ赤な顔でヨナスが差し出した手を握り返し、繋いで歩く。

 なんだか気恥ずかしいが、安心もする。


 森の中をゆっくりと歩く。

 でも、町まではそう長くはなくすぐに町の姿が見えてくる。


 森を出たその時、ヨナスが私の手を引いて庇うように目の前に立った。


「ヨナスっ!」


 マレナさんの焦ったような声がして、ビクッと体が強張る。


「聖騎士があんたを逮捕するって……」


 ザッザッと石を踏み締める音とカチャカチャと鎧のぶつかる音がする。

 それはとても聞き慣れた音であり、すでに懐かしい音だ。


「ヨナス、貴様を聖女誘拐の罪で逮捕する」

「何をふざけたことを。聖騎士団はクソだと思っていたが、ここまでとはな」


 ヨナスの向こうで騎士達が殺気立つ。


「あんたが出ていけっていったんだよな? ガルド団長さんよ」


 そろりとヨナスの横から顔を出すと、ガルド団長の姿が見えた。


 しかし、その姿は以前のような麗しさは一切なく、髪は荒れ、疲れた目をしている。


「俺たち獣人は言ったはずだ。リディの歌なくして戦線は成り立たないと。俺たちは最前線にいたからよく分かる。届いていたのはリディの歌だけだ。どんなに掠れていても、リディの声は届いていた。正真正銘俺たちはリディに守られていたんだ。あんた達は知らないだろうけどな。いや、その様子だと、リディが居なくなってから知ったんだろうな」


 私とガルド団長の目が合い、にこりと笑顔を向けられる。

 前のガルド団長であればその微笑み一つで女性を魅了してしまいそうな雰囲気だったが、今はあの時のような輝きはない。


「リディ、何か行き違いがあったようだ。聖歌隊には、いや、私には君が必要なんだ。その獣人に誘拐されたのだろう? そうだよな? 聖歌隊に戻りたいと思っているだろう? 掠れた声でも聖女になれるように私がしよう。君の居場所は聖歌隊で、私のそばだ。さあ、おいで」


 ガルド団長が両腕を広げて近付いて来るのが異様で思わずヨナスの腕に抱きついた。


「は? 私ではなく獣人を選ぶのか? そいつは我々の盾としての価値しかない使い捨てだぞ」


 ザワリと、内側から湧き上がる力の塊があった。

 獣人達の怒りもひしひしと感じる。


「今、価値がないって言いました?」

「リディ?」


 ヨナスが心配そうに振り返る。


「ヨナスを誘拐犯扱いにし、獣人達を見下す。聖騎士団でもいつも獣人は最前線で盾でした。ヨナスの腕にはいくつもの傷跡があります。きっと、体にも傷があるんでしょう」

「適材適所だよ。体が頑丈なんだ少々怪我したところでなんともな……」

「獣人は使い捨ての駒ではありません!」


 内から抑えきれないものが溢れ、言葉と共に吐き出され、ドンッと大気が揺らぐ。


 私が一歩踏み出す毎にガルド団長が一歩下がる。


「あなたは、私の声は汚いと言いました。でもヨナスもここにいる皆も、私の声も歌も好きだと、素敵だと言ってくれる。私の居場所は聖歌隊じゃない、この町です。お帰りください」

「では、私はどうなる? 王都は? 聖騎士団が戦えなければ王都は守れない」

「私の代わりはいくらでもいるのでしょう? では代わりの聖女と共に聖騎士団が頑張れば良い。私はもう聖歌隊でも聖女でもありませんので、関係ありません」

「ま、待て! この私がわざわざ迎えにきたんだぞ? お前の力をこんなところで腐らせてどうする。その歌は聖騎士団のため、いや、私のために使うべきだ。その方が幸せだろう?」

「少なくとも、王都にいた時よりは何倍も、何万倍もこちらの方が楽しいですし、充実してます。私はここにいるのが幸せですし、もう、この町の住人です」


 いつの間にかヨナスより前に出ていたが、手はしっかりとヨナスが繋いでいてくれた。

 私は戻るようにヨナスのそばに行くと寄り添った。


「ならば、強引な手を使ってでも連れ帰るまでだ。やれ」


 私達を取り囲むように、マレナさんを筆頭に町民達が集まる。


「聖騎士団はやけに横暴だね! うちの息子を危ない目に遭わせ、うちの娘同然のリディを無理矢理連れて行こうとする! そんな非人道的なこと許されると思っているのかい!」


 マレナさんの言葉に周囲が同意する。

 しかし、ガルド団長は獣人達を睥睨すると剣を抜く。


「獣人が何人死のうが関係ない。邪魔するなら切り捨てる」


 ガルド団長の瞳が昏く揺れる。


「母さん、皆下がって」


 私を含めた皆を下がらせ、ヨナスが前に出る。


「ヨナス……」


 こちらは誰一人武器を持っておらず、聖騎士は団長を含めて五人。

 皆、剣をこちらに向けている。


 このままでは皆が怪我をしてしまう。

 ヨナスと繋いだ手にギュッと力が入る。


「リディ、ダメだよ」

「でもっ」


 ヨナスが聖騎士から目を離さないまま言う。


「リディは私の娘。絶対に渡さない」


 ヨナスと繋いだ手と反対側の腕を掴んでマレナさんも言う。


「リディはもう家族だ。いくら脅されようと家族を渡したりはしない。家族を守れなくて何が獣人だ。俺たちは絶対に屈したりしない」

「ヨナス」


 私はもうその言葉だけで十分だった。

 私も皆の家族。私も家族を守る。


 一度、ヨナスの背中に額をつけると、そっと手を離す。ヨナスが振り返る。


「ダメだって」

「でも、私だって家族を守りたい」

「絶対ダメ。そばを離れないって言った。ずっと一緒にいるんだろう?」

「離れていたって私は家族よ」

「……なら、俺も一緒に行く」

「ダメよ、危険だわ。今度こそ、最前線で前より危険な目に遭う」


 チラッとガルド団長を見ると、ニヤリと笑っている。

 ガルド団長はヨナスを許さない。戻れば恐らく一番危険な場所に配置するはずだ。


「俺はもう、リディのそばにいるって決めてる。だから、リディが行くなら俺も行く」

「ヨナス……」

「泣かないで。大丈夫だよ。リディをあんなところに一人になんかしない。そっちの方が苦しいし痛いんだ」


 グイッと強引に肩を引かれ、痛みが走る。


「っつ! イタッ」

「やめろっ!」

「ヨナスっ!」


 飛び掛かろうとしたヨナスの首に剣が突き付けられる。


「いつまでうだうだやっている。どうせ、そいつは先に死ぬ。リディが居るのはその獣人のそばではない。私だ。汚い声でも役に立つなら歌わせる」

「離して、あんたなんて大嫌い! ヨナスが死んだら私も死んでやるんだから!」

「やってみろ、そんなことしたらここの住民全員殺してやる」


 顔を近づけて言うガルド団長の瞳は曇っている。誇り高き聖騎士団長はもういないのだろう。

 ここに居るのは地位に固執し、自分の間違いを認められない無様な男だけ。


 腕を掴まれ、グイグイ引っ張られる。


「離して! 触らないで!」

「リディを離せ」


 ガルド団長が振った剣がヨナスの服を切り裂く。


「ガルド団長やめて! ヨナス、だめ。抵抗しないで、お願い」


 ガルド団長に引っ張られ、他の聖騎士が背後でヨナスに剣を向ける。


 ヨナスはギリッと奥歯を噛むが、近づく事が出来ない。


「貴様も来るなら来い」


 頷き、後を付いてくるヨナスがチラリと上空を見上げた。


 強く掴まれた腕はぐいぐい引っ張られる。


「やめて! 自分で歩けます。だからヨナスのそばに居させて」

「いいだろう。どうせ……まあ、いい。では行くぞ」


 私がヨナスのそばに行き、ヨナスに肩を抱かれてついて行こうとしたが、抱かれた肩をぐっとヨナスに掴まれて、足を止める。


「まだ抵抗するのか、次は本当に獣人を殺す……ぞ?──へぶし」


 周囲が影になり、ガルド団長が上を向いた次の瞬間、ドンッと上から巨大なものが降ってきた。


 衝撃に皆、一瞬体が浮いた。


 ガルド団長を足で踏みつけているのは黄金のドラゴン、デューリスさん。

 その背からするりと降りてきたヴィオレッタさんがこちらに走って来る。


「大丈夫? お義母様がリディの怒りの波動が届いたって言うから来てみたら、変なのに連れて行かれそうになってからとりあえず踏んでもらったわ。あれは何者? 踏んで良い奴よね?」

「はい、踏み潰しても良い奴です」


 ヴィオレッタさんの言葉にヨナスが即答する。


「そう。デューリスぅ──」

「ま、待ってください。踏み潰されたら困ります!」

「だめなのか?」

「え? だめ?」


 ヨナスとヴィオレッタさんが同時に言う。


「一応、あれでも王国の聖騎士団長ですから」

「だけど、リディを脅して言うこと聞かせようとするクソ野郎だろ」

「え? 何しやがったの?」


 デューリスさんと、ヴィオレッタさんにヨナスが説明する。


「デューリス、そいつ潰して良いわ」


 グッと踏みつけられて、ガルド団長が潰れたカエルのような声を出している。


「あと、ついでに遠くに捨ててきて」

「ああ、分かった」


 デューリスは潰されて気を失っているガルド団長を咥え、恐怖で腰を抜かしている他の団員を二人ずつまとめて掴むと飛び去った。


「大丈夫よ、殺しはしないわ。獣人が人間殺すと面倒なのよ、色々。……そんなことよりも、うまくいったみたいね」

「え? あ……」


 呆気に取られていた周囲も、にやにや顔に変わっていく。

 先程、一緒にいたいだのそばを離れないだの、盛大に聞かれてしまっている。


 慌てて抱き合っていた腕を離して距離を取ろうとするが、ガシッと別の腕が私とヨナスをまとめて抱きしめる。


「良かったぁ! また居なくなるかと思ったじゃないか! もうっ、あんた達は」


 マレナさんが、おいおい泣いていた。


「ごめんなさい、マレナさん」


 心配を掛けてしまったみたいだ。


「お義母さんって呼んでぇ~」


 泣きながら言ってくるから、ヨナスと顔を見合わせて笑ってしまった。


「お義母さん、私はここに居ます」


 それを聞いて、さらに泣き出したお義母さんの抱きしめる腕がギュウギュウ締めつけて痛いほどだったけど、その痛さが嬉しかった。


 それから私とヨナスは、ヨナスの父親が戻ってくるのを待って結婚した。

 これからは歌を歌いつつ、マレナさんの薬師の仕事を教わるつもりだ。


 ヨナスはお義父さんについて薬の行商を引き継ぐらしい。

 昔はお義母さんもお義父さんの行商に付いて行ってたようなので、私も一緒に色々なところに行ってみようと思う。


 ガルド団長は団長を解任され、いち騎士に格下げになったそうだ。ヨナスに言わせれば、当然らしい。


「だって、あの人リディありきの作戦しか立てた事がないだろう? それじゃ戦線が崩壊するのも当然だ。普通、あれだけの広範囲に歌を展開できる聖女なんていない。リディに代わりは居ないの! なのにあの野郎蔑ろにしてあんな仕打ち」

「でも、それがあったから私はヨナスに会えたし、この町にも来られた。結果的にはお陰様で、じゃない?」

「それもそう、だ」


 ヨナスが私を抱えあげ、きゃあと声をあげてしまう。


「一緒に来てくれてありがとう」

「こちらこそ。連れてきてくれてありがとう」


 森の中だったから、触れるだけのキスをする。


「さ、神獣様が待ってる、行こう」

「このまま?」

「このまま」


 抱き上げられたまま森の中を歩く。


 開けた先には、神獣様と動物達。

 そして、隣には最愛の人。


 愛と家族と友人を手に入れて、私はまた溢れる愛を歌に乗せ響かせる。


最後までお読みいただきありがとうございます。

完結です。

リディは最前線にいる獣人達の救いの人でした。

皆、リディのことを好きだったと思います。一番行動の早かったヨナスが持っていって他の獣人はぐぬぬしてる事でしょう。

早い決断、即行動大事。

はい、お読みいただきありがとうございました!

また次回お会いできますように!

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