佐々木さんちの風鈴さんは思う
ある夏の夕暮れどき。
(おっ、だいぶ暗くなってきたな。そろそろか?)
風鈴が思うのとほぼ同時に窓が開く。
「中に入れるねー」
佐々木に柔らかな声で告げられ、風鈴は家の中へ。
「今日もお疲れ」
風鈴をスタンドにかけつつ言う佐々木は、二十歳前後と言っても通りそうな三十歳前後の男性だ。家主アンド風鈴の持ち主である。
朝起きて、晴れ予報なら風鈴を外へ。
夜が近づき、暗くなってきたら家の中へ。
突然の雨に、あわてて家の中に入れることもあるし、外出中などで対応できず、あとで水滴を優しく拭き取ることも。
風鈴を朝出して夜入れる、佐々木の行動。
もともとは、夜に風鈴の音が響くことを厭う人の意見を、佐々木が目にしたことから始まったように思う。
その意見は、佐々木と佐々木の家の風鈴に対してのものではなかったし、そもそも、この家の周辺は、あまり人気もないのだが。
「気に入っている風鈴の、風鈴の音、できればいい感情で聞いてほしいなー」
佐々木はそう言っていたし、その年から佐々木は夏の間、日々せっせと風鈴を出し入れしている。
気に入っている、と言ってもらえて光栄である。
天気を気にして、雨にあわてて、その佐々木の振る舞いには、風鈴は自分がたまに洗濯物であるかのような気持ちになったりもするが、心を向けてもらえていることに、嬉しさを感じている。
『今日もありがとな!』
スタンドにかけられるあたりで、風鈴は毎度礼を言うが、佐々木の反応は毎度ない。
けれど、想いを込めて風鈴を丁寧に鳴らすと。
「どういたしまして」
佐々木は毎回そう返事をする。
「――さてと。もうちょっと今日の分の仕事進めたら夕はんだー」
伸びをしたあとで佐々木が言う。
風鈴が、頑張れ! と風鈴を元気に鳴らすと、佐々木は「応援ありがとー」と言って微笑んだ。
佐々木は言葉で、風鈴は音で。伝え合う日々も、楽しくすごしている。
(けど、いつか――)
(言葉を交わして、いろいろやりとりできたら、それも楽しそうだよな!)
けっこう話が弾むんじゃないかと思うのだ。
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