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あなたは死亡する脇役Aです。  作者: 絵能めむ
第一章:聖都アウルセイン編
3/4

3.失った魔女

 衛兵の怒声が遠ざかっていく。俺は彼女の手を引いたまま、必死に走る。


 ――逃げなければ。逃げなきゃ殺される。


『は、はなしてください!!』


 不意に彼女の声が響き、俺は我に帰り立ち止まる。彼女の荒い息があたりに響き、衛兵はもう追いかけてきていないことを悟る。


「……あ、ごめん」


 俺は、彼女の手から自分の手をほどく。

 薄暗い路地裏に、僅かに差し込む陽光が彼女の蒼い髪の毛を照らす。


『あなたは誰なんですかっ!! いきなり、手を引っ張って』


(命の恩人に対しての第一声がそれっ、てのも……まあ、無理はないか)


 突然こんな場所に連れ込まれて、知らない男に手を引かれたらーー

 怖いに決まっている。


「俺は……タチバナ・ハルト」

『……』


 場の雰囲気は最悪だ。二人の間に気まずさが漂い、沈黙が続く。


『なぜ、国の衛兵が私を狙っているんですか!?』


 沈黙を破るように、彼女が問いかける。


『どうして、助けてくれたんですか??』


 そんな時、彼女は自分の身体を見渡し、震えた声で言う。


『……これ、だれの身体……? 手も、髪も、何もかも私のものと違う……』


 自分の手を何度も見つめては、震える指先に視線を彷徨わせる。


『普通に歩いていただけなのに、なんで……?』


 立て続けに問いが飛んできて、俺は返答に困る。彼女が混乱しているのは誰がどう見ても分かるだろう。息は荒く、目には涙が溢れそうになっている。


『――どうして? 私が……こんな目に……』


 その場に崩れ落ちる。頭を抱えて、彼女の顔は見えないが、小さく、しゃくりあげるような音が響く。

 俺は、その場に残るのに妙な引け目を感じ、その場から去ろうと彼女に背を向けた時。


『……行かないで』


 ほんのかすれた声だった。


 ――でも、


 改めてこれまでの事を振り返ってみる。彼女は今追われている身であり、ここで見捨てれば、何のために彼女を助けたのか分からなくなってしまう。


「……名前は?」

『――二ーヴァ・レイシェル』


 名前を聞いて、改めてこの世界は異世界であることを実感する。


「レイシェル……立てるか?」


 俺はふりかえると、彼女に手を差し伸べる。


(俺の器はまだ小さい……彼女を完全に支えるなんてとうてい無理だ)


 ――それもこれも、


 彼女の嘆きが、過去の俺の声と重なって聞こえた。それだけで、俺が手を差し伸べる理由には、十分すぎたのかもしれない。

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