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norn.  作者: 羽衣あかり
“粘土人形と少女”
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97.青い星

 柔らかい草を踏みしめて石畳の道を歩く。

 それから神殿へと続く階段を登る。

 今のところ魔物がいる気配は無い。


「今んとこ静かだな〜。どうだ?ノルン。なんかいる気配あるか?」


 ノルンはアトラスの問いに首を縦に振る。


「そうか!それならよかった!」


 気が抜けたように笑うアトラスにノルンはまた首を縦に振りつつ神殿を見つめ、そしてふと足を止めた。


(…ここは…)


 足を止めたノルンの横でブランも足を止め、またそれに気づいた前を歩いていたアトラスも足を止め振り返る。


「ん?ノルン〜。どうかしたか?」


 アトラスがちょこちょこと歩いて戻ってくる。

 ノルンは無言のまま神殿を見つめ、ぽつりと零す。


「…魔力(エーテル)が…」

「ん?魔力(エーテル)?」


 アトラスがノルンの言葉を繰り返す。


「…はい。どうやら師匠(せんせい)のお話の通り、ここは魔力(エーテル)の濃度が高いようです」


 ノルンが神殿から目を逸らしアトラスを見る。


「へぇ〜そうなのか。俺にはよくわからねぇ」


 アトラスは手をグーパーと開くも首を傾げる。

 そこで何かを思い出したように顔を上げる。


「ん?てことは…あの花が咲いてるかもしれねぇってことか?」


 あの花。それはここに来た目的でもある星蒼花の事だろう。


「はい。可能性は高まります」


 ノルンは真剣な瞳で頷く。

 当たりを見渡してみるが今のところ本に描かれていた星のような美しい花は見当たらない。


 隅々まで探したいところだが。


「…神殿に近づくにつれて魔力(エーテル)の濃度は高くなっているようです」


 ノルンは目の前に高く聳え立つ尖塔を見つめて言う。


「なるほどな。んじゃ、まぁとにかく神殿に行ってみるか」

「はい」


 再び2人と一匹は神殿へと足を進める。

 そんな中なんだか不思議な感覚だとノルンは思う。

 魔力(エーテル)が充満していくにつれて、身体がリラックスしたように落ち着く。

 この魔力をどこかで知っているような感覚にさえ陥る。


 魔力(エーテル)が充満しているからなのか、所々に見たことの無い植物、花が咲いておりついノルンの好奇心が湧く。

 ノルンがふらふらと近づきそうになる度にアトラスに「うおーい。ノルン。後でな?」と嗜められる。

 また見たことの無い不思議な生物もいた。

 虫なのか魔物の分類なのか、はたまた精霊の類なのか白く光り輝く真綿のような粒がふわふわと浮遊している。

 まるで意思があるように珍しい客人を伺うようにノルンやアトラス、ブランに近づいては去っていく。


 ノルンがそっと手を差し出す。白い真綿はノルンの人差し指に触れたかと思えば、またふわふわと飛んでいってしまった。


「やっと着いたな」


 先を歩いていたアトラスの声に顔を上げる。

 すると少し先の階段を昇った先で、アトラスは神殿の入り口に立っていた。

 ノルンもすぐに追いついて、神殿の扉を見つめる。

 神殿の扉は先程と同じく石で造られた重厚な扉のようだったが、片方の扉はノルン達の横の地面に倒れていて、片方しか付いていない。


 どうやら今度は普通に中に入ることは出来そうだ。

 アトラスに続いてノルンは壊れた方の扉から中に進もうとして、その景色に思わず目を見開く。


 アトラスも「すげぇな」と呟いて足を止め、その先の景色を見つめる。


 神殿の内部は一言で言えば幻想的だった。

 もう忘れ去られてしまった古代の神殿に淡いピンクの美しい花が咲き乱れる。


 窓であったであろう空間から光が差し込み、神殿内部を照らし出す。天井が抜けて雨水が溜まり、所々に水たまりができている。

 祭事を行うのか、儀式を行っていたのか1段高い場所に空間があり、そこには古代からこの大陸の神として崇められてきた女神の象がある。

 また神殿の至る所に施されている美しい彫刻。

 まるでこの神殿だけは時が止まっているようで。

 美しくもどこか物寂しい神殿。


 そんな神殿を見渡す中、中心の台座のような場所に視線を移した時ノルンは小さく目を見開いた。

 美しいグランディディエライトが太陽の光に一瞬輝く。


 なるべく花を踏まないようにしながらノルンはそっと中心に向かって歩き出す。


「ノルン?」


 アトラスがノルンの後ろで不思議そうに名を呼ぶ。

 ノルンは構わず台座に向かうと、その場にゆっくりと膝を着いた。


 ノルンの視線の先には一輪の花が咲いている。

 ノルンの瞳が揺れる。

 白く華奢な指先がそれに触れる。

 それは蒼と白の美しいグラデーションの花だった。

 中心には花糸の上にふわふわとした黄色のやくがついている。

 花弁は5枚でその先端は少しばかり尖っていて、まるでそれは星のような美しい花だった。


「…アル。ブラン。…ありました」


 ノルンの声が少しばかり上擦る。

 間違いなくそこに咲いていたのは本で見た星蒼花のスケッチと瓜二つの花だった。

 途端に安堵がノルンに広がる。

 ノルンの眉が少し下がりその表情が和らぐ。


「あったって…」


 アトラスが不思議そうに首を傾げる。

 しかしすぐにノルンの言葉を理解したようにぴんと耳を嬉しそうに立てた。


「…!探してた花か!?」

「はい。星蒼花です」


 ノルンが答えると顔を明るくさせたアトラスもすぐにノルンの横にやってくる。

 そして美しい淡い桃色の花の中に凛と咲く青い星にアトラスもまた嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。






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