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norn.  作者: 羽衣あかり
“女の子と少女”
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86.リナの祖父

 アトラスの突拍子もない発言にノルンは動きを停止する。少し見開かれた瞳と共に小さな困惑の声が聞こえる。またノルンと同時に店主も驚いたようにまだ自分より幼いであろうフードを被った少女を見つめた。


「…旅人さん、薬草家(ハーバリスト)なの?」

「…アル」


 しかしノルンがアトラスに何かを言おうとする前に幼い女の子瞳がノルンに注がれた。


「…ほんと…?…おじいちゃんのこと…なおしてくれるの…?」


 女の子もといリナも薬草家(ハーバリスト)が何を意味しているのかについては知っているようだった。

 ノルンはすぐ様訂正しようとしたものの、リナの涙目が縋るようにノルンを見つめていて、ノルンは何か言いたげだった口を閉じた。

 そして眉を下げるとフードを被ったままそっとリナの足元にしゃがみ込む。


「…治せるかどうかについては申し訳ありません。症状を見ていないので断言はできません。…しかし」


 申し訳なさそうにただ事実だけをノルンは述べる。


「…私で良ければ一度、バルト様の元へ連れて行って下さい。少しでも貴方のお爺様が良くなるように善処します」


 ノルンがしゃがみ込んだことで、リナの瞳にノルンの顔が間近に写る。

 その時初めて大きく映し出された今まで見た誰よりも綺麗な顔。

 美しく宝石のように輝く瞳。

 真っ白な肌に小さな薄桃色の唇。


 大きな瞳からリナに注がれる視線は真摯でリナは幼いながらに涙を止めて、一瞬の間を開けてこくりと頷いた。


 話を聞いていたのか店主の女性もほっと胸をなでおろしたようだった。


「旅人さん。バルトさんの所へ行ってくれるんですね?ありがとうございます」

「おう!任せとけ!」


 店主に見送られながらノルン達は着いてそうそうに村を出ることとなった。リナの案内の元、村を出て近くの森に入る。ノルン達がこの村に通ってきた森とはまた別の森だ。


 焦る気持ちからリナは頑張って走ろうとするが、身体のあちこちに傷ができており、痛いのか時折顔を顰めて、それでも懸命に走る。


 途中ノルンが見かねて、急いでいる中申し訳ないとは思うがリナをちょうど良い大きさの石の上に座らせると、軽く手当をした。

 ノルンが手当をしている最中リナは物珍しそうにノルンの手元をずっと見ていた。

 そしてすぐ様綺麗に傷跡が治るとリナは初めて可愛らしく笑った。

 その後はリナの足で走るよりはノルン達の方が速いので、ノルンがリナを抱き上げて運ぼうか提案したところ、アオイが「じゃあ僕がリナちゃんを運んでもいいかな?」とさりげなく配慮してくれたため、今はリナはアオイの腕の中に収まってその肩を掴みながら指をさして家までの道を教えてくれていた。


 リナの言う通りに進んでいく中、途中魔物も出没したが、難なくアトラスが一人で倒してしまった。

 そして、そのまま少し走ると森の木々の中に1つの建物らしきものが見えた。


 リナがあそこ、と指を指していることからあの建築物がリナの家で間違いないだろう。

 少し玄関が高くなっていて、主な部分は石造りに2階は木造になっている様だった。

 家の隣に水車が設置されている。

 水車の下には小川が流れているが、現在水車は動いてはいなかった。


 アオイに下ろされるとリナはぱたぱたと急いで家に上がり込んだ。

 開け放たれた玄関にアオイが気まずそうに顔を出す。


「すみません、お邪魔します」

「お邪魔します」


 アオイの後ろにノルンが続く。

 するとすぐ様リナが駆け寄っているベットが目に入った。


「…おじいちゃん…おじいちゃん…っ…」


 リナがまた涙を零しそうになりながら祖父の身体を揺する。

 ノルンはすぐにそちらに向かうとトランクを足元に置く。

 邪魔なフードをとってすぐ様リナの祖父、バルトの容態を確認した。

 バルトは苦しげに顔を歪めており、額には汗が浮いている。

 見たところ外的被害は無さそうだ。

 とすれば病気か毒あたりだろうか。


 ノルンは無言のまま両の手を前に出しバルトの身体に向ける。

 すると淡い光がバルトを照らす。

 アオイやアトラスは何も言わない。

 不安そうにノルンとバルトを見ては焦るリナをアオイが宥めるように背中に手を置いていた。


 しばらくするとノルンは真剣な瞳を少し見開いてバルトを見るとそっと手を戻す。

 そして、床に置いたトランクをおもむろに開いたかと思えば、トランクを漁ってガチャガチャと音を鳴らしていくつかの小瓶を取り出した。


 そして、バルトの上半身を軽く支えながら薬を飲ませようとする。

 それにはすぐに気の利くアオイが手伝ってくれた。


「…鎮静剤です。毒ではないのでゆっくりお飲みください」


 途中ごほごほと噎せるバルトに丁寧に声をかけて鎮静剤であるノルンが調合した魔法薬を飲ませる。

 薬を飲ませ、しばらくするとバルトは大分落ち着いたように呼吸を規則正しくしていた。


「どうだった?」


 アトラスが率直に聞く。

 ノルンはアトラスを振り返り、そしてリナを見ると口を開いた。


「…かなり容態は悪いと思われます」

「………」


 ノルンの言葉にアトラスとアオイは口を噤む。

 ノルンの様子を見守っていたリナは不安げに瞳を揺らしてノルンを見つめた。


「…おじいちゃん、病気なの…?」


 弱弱しいその声にノルンは心を痛めながらも静かに首を縦に降ったのだった。




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