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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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84.どんぐりクッキー

 モモリコを食べたあと、ついでに幾つかをもぎとってトランクにしまう。フルーツは貴重で食後のデザートには丁度いい。

 何より先程から初めてのフルーツにアオイは心弾ませているようだった。


「うーん、ゼリーがいいかなぁ。あ、でもフルーツタルトにしても美味しそう」

「お。ゼリーいいな。そろそろ暑くなってくるしなぁ」

「たると?タルトってなに?アオイ〜」


 アオイが楽しそうに声を弾ませる横でアトラスとポーラも会話に加わる。

 アオイのの言葉に脳内でノルンはモモリコのゼリーと、モモリコを贅沢に使ったタルトを思い浮かべた。


(…どっちもおいしそう)


 そんなことを思いながらアオイの半歩後ろで期待を膨らませるのだった。

 しばらく歩くと森を抜けて、また少し暑い日差しが降り注ぐ。

 だが暑いといっても湿気はなく、生ぬるい風がノルンの頬を撫でる。

 ノルンは思わず頭の上に登った太陽に一瞬目を細めて直射日光から頭を守るようにそっとフードを被った。


「お!見えてきたな!」


 高低差のある道を進むと、少し先に建物の連なりが視界に入る。

 コラル島への通過地点である村だ。

 近づくにつれて、その村には至る所に鮮やかな染物がかけられていることに気づいた。

 青。えんじ。若草色。色とりどりの鮮やかな布があちこちに干され、風に靡いている。

 その景色にノルンは少し暑さが和らいだように感じた。


「わぁ、綺麗だね。ノルンちゃん」

「はい。とても綺麗です」


 村に足を踏み入れると、あちこちで色鮮やかな布を持った村人に迎えられた。


「あら。旅人さんかい?いらっしゃい。ゆっくりしていってね〜」


 片脇の籠の中に布を積んでいる少しふくよかな中年の女性がノルン達に優しく声をかけた。

 少しばかり訛っている口調が特徴的だ。


「こんにちは。ここには素敵な布がたくさんあるんですね」


 女性にアオイが周囲を見渡して告げる。

 すると女性はにこやかに笑って手元の布を広げた。


「そうさね。ここは染物の村なんだよ。ほら、綺麗だろ?代々引き継がれた製法で村人が機織りをして、そのあと染めるんだ」

「…とても綺麗ですね」

「ふふ。ありがとう。あんた達も良かったら見ていってよ。ここの染物の凄いところは染物によって効果が変わることなんだから」

「効果が変わる?」


 女性の言葉にアオイが聞き返すと女性は頷く。


「あぁそうさ。素材なんかにもこだわっていてね。中には魔物の皮や鱗を使うことなんかもある。そうした材料で作られた旅装束はそこらのとは比べ物にならないくらい頑丈なのさ。それに染物の色や方法によって、魔物にばれずらくなったり、音を消してくれるものなんかもあるんだよ」

「へぇ〜、すごい」


 女性の話に思わず食いついて聞いてしまう。

 信じられないというように感心するアオイの横でノルンもまた表情はいつも通り動くことは無いが、とても興味深そうに話を聞いていた。

 アトラスは故郷の近くという事もあって知っているのかうんうんと頷いていた。


 気前のいい女性と別れると、とりあえず宿屋を探すことにして、買い出しをする事になった。

 しかし宿屋を探して荷物を置くより先に、一通りの物が揃いそうな店を見つけた。

 後からまた戻ってくるのも手間がかかるため、一同は先に買い出しを済ませることに決める。


 風通しの良い入口が開け放たれた店内に入ると、染物の村というだけあって至る所に涼し気な布が綺麗に折りたたまれて置かれていた。頭上に掛けられた布も透けた布が風に揺れてその様子は少し暑さが和らぐ。


 その他には消耗品である日用品や食材、薬草、少しばかりの矢が置かれていた。

 必要なものをアオイとノルンが揃えていると、ふとポーラが声を上げた。


「あ。ノルン〜、みてみて。どんぐりのクッキーだよ」


 名を呼ばれたノルンがポーラが立っている場所に向かって、ポーラの立つ陳列棚を覗き込んだ。

 そこには確かにどんぐりの可愛らしいクッキーが包装されてたくさん置かれていたのだった。


「あ、ほんとだ。たくさんあるね」

「ここら辺で人気なのかもな」


 アオイとアトラスもポーラの声が聞こえたらしく、どんぐりのクッキーを覗き込む。

 するとノルンたちの会話を聞いていたのか店主らしき若い女性がカウンターから近づいてきてノルン達に話しかけた。

 健康的な少し日に焼けた肌。

 茶髪をポニーテールにしている女性は、鼻の上のそばかすが印象的な元気で可愛らしい女性だった。


「それ、気になりますか?今ここら辺で子ども達に大人気なんですよ」

「へぇ、そうなんですか」


 アオイが相槌を打つと女性は続ける。


「ええ。どんぐりさんのクッキー。これ、実は中に御籤が入っていて当たりを10枚集めたら、特別なクッキーと無料で交換できるんです」

「へぇ」

「なるほどな、あれはそういう事だったのか」


 頷くアトラスの横でなるほど、とノルンも納得する。

 そこに丁度村の子どもだろうか。

 1人の男の子が走ってやってきた。

 そして、1つ真剣にどんぐりクッキーを選ぶと店主の女性から買ってその場でパキッとクッキーを半分口に入れて割る。

 そして慣れた手つきで紙を取り出す。

 しかしそこにはノルン達も見た可愛らしいたぬきの絵が手でバツを作っていたのだった。

 それを見た瞬間男の子ははぁ、とため息をついて項垂れた。


「ちぇ…またハズレかぁ」

「あら〜。今3枚目だっけ?まだまだ道は長いねぇ〜」

「うぅ…!…見てろよ!絶対当ててやるからな!」

「はいはい。またね〜」


 悔しそうに口をとがらせる男の子をからかうように店主は笑う。

 それに図星というようにぐぬぬ、と唸ったあと男の子はびしっと指を店主にさして、宣言をするとクッキーを片手に走って帰っていったのだった。


 そして男の子に笑顔でひらひらと手を振っていた店主は、ぽかんとするノルンたちを見てほらね、とでも言うように微笑んでみせたのだった。


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