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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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83.南国フルーツ

 それから数日間、ノルンたちは2つ目の村へ向かって旅を再開した。


 平原を歩き、森に入り、また草原を歩く。

 そしてまた小さな森に入る。


 ここ最近は少しずつ気温が上昇し始め、影のない平原を歩くには少しきつくなってくる頃だ。

 また南に向かっているということもあり余計にノルンが住んでいたフォーリオよりも気温が高い。


 森に入ったことで少し涼しくなり、ノルンは日除けにしていたフードをぱさりと落とす。

 心地よい風がじわりとした汗をさらっていく。


「段々暖かくなってきたね」

「はは、まだこんなもんじゃねぇぞ。コラルの島は」


 アオイの言葉に頷くノルンにアトラスは笑ってみせる。

 さすがに南の島出身というだけあってまだまだアトラスにポーラも平気な顔をしていた。


 森の中を歩いていてノルンは興味深しげにちらちらと当たりを見る。

 旅を始めてからというもの、アオイは少しづつではあるがノルンのことが分かってきたようだった。

 口下手で無表情ではあるものの、自分の興味があることに関しては一直線。一直線というか、ついついというか。


 この前も森に入って気になる薬草を見つけたのか、急にそこに駆け寄って目を少し輝かせて、植物を採取し始めた。驚くアオイと比べアトラスはやれやれと言ったように、けれど仕方ない可愛い妹を見るように待ってあげていた。

 ノルンはしばらくして自分を見つめるアオイに気づいたのかはっとすると、申し訳なさそうに少し眉を下げて目を逸らして謝っていた。


 ノルンの師が魔法使いの薬師ということは知っていたが、ノルンの興味はそこから始まったのかノルンは植物、花、薬草などに大変興味をもっている様だった。


 アオイが植物の効用を聞けば、雰囲気を和らげたくさんその知識を教えてくれた。アオイはまだまだ旅を始めたとはいえ、ノルンに間近で直視されることには慣れていないのかしどろもどろして少しばかり頬を染めていた。


 眠りにつく前には必ず魔法薬の書物か、魔法学の書物を読んでいた。

 ノルンは魔法を学ぶこともとても好きなように見えた。

 魔法使いは今では数も少なく、魔法を見る機会などそうそう無い。

 そのためいつだってアオイはノルンが使う魔法に興味津々なのだが、一度だけノルンが本を開く横で、アオイが好きな魔法について問いかけたことがあった。


 するとノルンは一瞬の間を置いて本の上に手を置いて、両手を上にしたと思うとそこから十羽ほどの蝶を出現させた。


 その蝶は青白く光り、羽は美しく半透明に透けて、羽ばたく度に白い粒のようなものをきらきらと落とす。

 ノルンの周りを舞う蝶を目元を和らげ、見つめるノルンは何を思っていたのだろうか。


 切なく、儚げで、それでいてとても美しくて。

 一言で言うならまるで天使か女神様みたいで。

 アオイはその姿を目に焼きつけるようにして蝶が溶けるように消えるまでじっと見ていた。


 そして現在ノルンは何か気になるものを見つけたのかぴたりと止まり、ある一点を見つめる。

 あるはずもないが、ノルンにアトラスやポーラのような耳がついていたならば、確かにぴくりと動いただろう。


 談笑するアトラス達を置いてノルンはそちらに歩いていく。


「ん?どうかしたかー?」


 アトラスの間延びした声を背後にノルンは目の前の気になった実を1つぷつりともいだ。


「ノルンちゃん?」


 アオイの声にノルンが振り返り手元の物を見せる。

 するとアオイも初めて見たのか首を傾げた。

 ノルンの手元にあったのはリンゴほどの大きさの実だった。形状は桃に近いだろうか。リンゴより丸みを帯びている。しかし色合いは赤から薄い桃色へのグラデーションだ。

 初めて見た果物なのか、それとも野菜なのかは分からないが、ノルンは興味深そうに実を眺めていた。


 すると二人の手元を見たブランの上に座っていたポーラが嬉しそうに声を上げる。


「あ、モモリコだ〜!」

「モモリコ?」


 ポーラの声にアオイとノルンは首を傾げる。


「ん?なんだお前ら見たことないのか?」


 それに対して今度はアトラスが首を傾げていた。

 頷くノルンにアトラスは丁寧にモモリコと呼ばれた実について説明してくれた。


「モモリコはコラル島でよく育てられてる果物だ」


 ノルンから手渡されたモモリコを片手にアトラスが言う。どこかふわふわとした感触の皮を手馴れた様子で向いていく。そして、それを半分に割るとノルンとアオイに手渡した。


「今の時期はまだ少し甘さが足りないかもしれねぇけど、それでも上手いと思うぞ?」


 アトラスにそう言われ、アオイとノルンは口をつける。それはリンゴのように硬くはなく、桃のように柔らかすぎることも無い二つの間を取ったような食感だった。


「ん!美味しい」


 瑞々しいモモリコが喉を潤す。

 水分量が多く、今でもそれなりに甘いがさっぱりとした甘さだ。

 これから更に甘くなるということらしい。

 この瑞々しさは南の島では重宝しているのかもしれない。

 夏にぴったりだ。

 初めて食べるモモリコを頬張りながら、ノルンは目を輝かせるポーラにも一つ木からもいで渡してやり、また自分のモモリコの残りはブランにあげていた。


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