82.贈り物
翌日、ポーラが目覚めて朝食をとっている間に、ノルン達は共にコラル島までついて行きたいということをポーラに伝えた。
すると本当はポーラ自身も不安を抱えていたのだろうか。朝から寂しそうに俯かせていた耳をぴくりと立てて、ノルンの言葉に目を潤ませ、それは嬉しそうに何度も頷いていた。
その様子を見て、ノルンは眉を下げて少しだけ口角をあげる。そして、アトラスとアオイもまた二人の様子に嬉しそうに頬を緩めるのだった。
朝食を食べたあとノルン達は滞在していた村を発つとコラル島へ向けて足を進める。
村を出ると小さな雑木林を抜けて、広大な草原が広がっていた。
柔らかな風が吹き抜け、青々と伸びた草は瑞々しい。
所々さく花々は辺り一面の草原に彩りを添えている。
ノルンが気持ちよさそうに目を細めていると、隣を歩くアトラスがノルンを見上げた。
「そういえば村を出る時に、村の人から何貰ってたんだ?」
そういえば、村を出発する際に昨日世話になった親子とすれ違い、その際息子である男の子がノルンに悪い奴らをやっつけてくれたお礼、と言って1つの包みを渡してくれた。
恐らく盗賊のことだろうか。
母親である女性が話したのか。
とにかく、ノルンは男の子の好意を無下にすることも出来ず、丁寧に礼を言うと包み紙を受け取ったのだった。
アトラスの言葉を聞いてノルンはとりあえずとマントのポケットにしまっていた包み紙に手を伸ばす。
朱色の包装紙で包まれ、黄色のリボンで丁寧にラッピングがされている。
そして、リボンで挟み込むように1枚の小さなカードがついていた。そこにはまだ拙い文字でありがとう、とだけ書かれていた。所々がたがたとしていて、“あ”の文字はひっくり返っている。
それでもノルンはそれをしばらくじっと見つめたあと大切そうにトランクにしまい込むのだった。
「何だそれ?」
「男の子からのメッセージカードの様です。ありがとう、と書いてくれています」
「へぇ。そうか」
どことなく嬉しそうな雰囲気のノルンにアトラスも笑って返す。
ノルンはリボンを解いて包み紙を開いた。
そこにはこんがり焼かれたプレーンクッキーが5つほど入っていた。一つ一つがしっかりしていて、分厚い美味しそうなクッキーだ。
アトラスがノルンの手元を覗き込む。
「…クッキーか?」
「そうみたいです」
「わぁかわいい。どんぐりの型だね」
隣を歩くアオイの言葉にノルンは頷く。
クッキーはどれも可愛らしいどんぐりの形をしている。
するとクッキーという言葉に反応したのか足元のポーラがぴょんぴょん跳ねる。
「え!クッキー?ノルン、クッキーがあるの?」
可愛らしく目を輝かせるポーラにノルンはその内の1つのどんぐりクッキーを差し出す。
ポーラは嬉しそうに小さな両手でそれを受け取る。
5つということは人数分同封してくれたのだろうか。
ノルンは別れ際の母親を思い出して優しい気遣いに心が温まった。
そして、アオイ、アトラスにも1枚ずつ渡していく。
「ありがとう。ノルンちゃん、いただきます」
アオイに渡したあとでノルンはそういえば、と別れ際の男の子の言葉を思い出す。
「そういえば男の子が中に身が入っていたら当たりと言っていた気がします」
「身?」
ノルンの言葉にアオイが首を傾げる。
しかしノルン自身もなんの事かわからなかったので曖昧に頷く。
すると一足先にクッキーを味わっていたアトラスが「ん?」と訝しげな顔をして口をもごもごとさせる。
「どうかした?アトラス」
「…ん…いやそれが…」
「?」
そして同時にポーラも変に口をもごもごとさせている。
首を傾げるノルンとアオイ。
するとアトラスが口から何かを出した。
それは白い紙に見えた。
「んん?何だこれ」
「紙?」
アオイが首を傾げる。
「何か書かれてますか?」
ノルンが聞けばアトラスは丸められた紙を開く。
そこには可愛らしいタヌキが描かれていてハズレの文字とともに手でバツを作っていた。
「何だこれ?」
アトラスがもう一度首を傾げる。
「ポーラ。クッキーに紙が入っているかもしれません」
ノルンが首を傾げるポーラに伝えるとポーラも同じように紙を口から出した。
そして、丸められたそれを開く。
そこにはアトラスと同じように可愛らしい狸の描か手で罰を作っていた。
「なるほど」
二人のクッキーを見てアオイが頷く。
「どういうことだ?」
「なにこれ?」
アトラスと可愛らしく首を傾げるポーラにアオイは微笑んでみせる。
そして、自身の手にあるクッキーをパキッと割る。
そこにはアトラス、ポーラと同様白い紙が丸められ入っていた。
アオイはそれを取り出すとくるくると小さな紙を広げた。
そこには先程の可愛らしいタヌキが笑って手に木の実を抱えていたのだった。
「…あれ?ぼくたちと違う」
いつの間にかアオイの腕に抱かれたポーラはアオイの手元を覗き込んで言う。
アオイはクスリと笑った。
「うん。どうやらこれはおみくじつきのクッキーみたいだね」
「なるほど。じゃあ坊主の言ってた中の身ってやつは…」
「木の実のことだったのですね」
ノルンは納得したように頷くとパキッと手元のクッキーを割る。そして、クッキーだけをブランの口元に運ぶ。
その後自分用のクッキーも割って中を見て見たが、どうやら当たりを引いたのはアオイだけらしかった。
しかしクッキーは木の実を練り込んでいるのか、ナッツを練り込んでいるのか香ばしくとても美味しかった。
 




