81.仲間
「ノルン。何か考えがあるんだろ?」
ポーラを見つめていたノルンはアトラスの言葉に少し驚いたようにアトラスを見た。
アオイも何も言わないけれど優しくノルンを見つめている。
どうして分かったのだろう、とノルンは思う。
確かにノルンはポーラが連れ去られた時からずっと、ポーラの行く末を心配していた。
ここまで送ってきたはいいものの、ポーラを一人で送り出すには不安要素があり過ぎたのだ。
しかしアトラスとアオイと交わした話ではこの村までポーラを送る、という約束だ。
本来であればノルンはポーラのことをしっかりとコラル島まで送ってあげたいと思っていた。
しかしこれはノルン一人の旅ではない。
それを踏まえて、この村まで、という約束でポーラを送ることになったのだ。
けれど、先程の出来事を踏まえて余計にノルンの中に迷いが生まれていた。
それをアトラスとアオイは見抜いていたようだ。
(…どうして、)
ノルンは優しい眼差しでノルンの言葉を待つ2人を見つめる。
ノルンは幼い頃の育った環境、辛い出来事から段々と感情を表に出すことをしなくなっていった。
そして、気づけば本来美しく愛らしい姿の少女は笑うことの無い人形のようになっていった。
ぴくりとも動くことの無い顔。
しかしそれはむしろその美しさを際立たせたともいえる。そして、それが余計に街の人には不気味に見えた。
けれどそんな訳でノルンの考えていることがわかる人間なんていなかったし、ノルンも自分のことは話さなかった。
強いて例外があるとすれば、フローリア、アラン、レオの3人だけだった。
3人だけはまるで、ノルンの表情が豊かに動いているかのようにノルンのことを全て見透かしていた。
他の人たちはノルンの揺らぐことの無い表情に気味の悪さすら感じていたというのに。
一度、ノルンはフローリア達に聞いたことがあった。
何故自分のことがわかるのかと。
街の人は自分のことを気味悪がっているのに、と。
するとフローリアは一瞬悲しげな顔をしたあと、慈しむように目を細めた。
___分からないわけないわ。だって貴方は私たちの家族なんですもの。
またアランも続けた。
___何言ってるんだ!ノルンは可愛いぞ!?それにわざわざ言わなくたってわかるに決まっている。俺はノルンの兄だからな!
レオはため息混じりに続けた。
___ノルンって自分で思っているより分かりやすいから。
と。
そして、そんな人たちと同じように今。
ノルンの目の前にはノルンに向き合って、ノルンの話を聞こうとしてくれる人たちがいた。
不思議な人たちだと思った。
自分のことを気にかけるなんて。
ましてや自分と共に旅をしてくれるだなんて。
そこまで考えて、否、とノルンは自分の思考を否定する。
優しい人たちなのだろう。本当に。
それは疑いようがない。
「ノルンちゃん。ノルンちゃんが思ってることがあるなら前も言ったけど、言ってくれていいんだよ」
アオイの言葉にノルンはアオイの方を向く。
「あぁ。俺たちは旅の仲間なんだからな!」
(仲間…)
アトラスの言葉をノルンは脳内で繰り返す。
そして、馴染みのない言葉に慣れないように、固まる。しかしそのあとで、切なげにそれでいて、嬉しさを噛み締めたように儚く、小さく口角をあげたのだった。
少し眉を下げたノルンは二人を見た。
そして、もう一度そばで眠るポーラを見てから口を開いたのだった。
「…アオイさん、アトラス。…コラル島まで行ってもいいですか?」
その言葉を聞くと二人は何故か嬉しそうに笑った。
そして、迷うこともなく頷いたのだ。
「おう!」
「もちろん」
まるで最初からノルンの言う言葉を見透かしていたように。
「…いいのですか?ベルンに向かうと決めていたのに」
ノルンが二人の即答に困惑した顔を見せる。
しかしアトラスはん〜?、と首を傾げた。
「俺は構わないぜ!前も言ったがこれはノルンの旅だからな!俺たちはノルンに着いてくだけだ!」
「うん。それに僕もアトラスもポーラのこと心配だしね」
いつも通り明るく笑うアトラスと柔らかい笑みを浮かべるアオイ。
「だな。別れた後にまたポーラが攫われたりしたら寝覚めわりぃもんなぁ」
「うん、でも僕コラル島行ってみたかったんだ。嬉しいな」
既にアオイとアトラスはコラル島に話題を馳せている。そんな二人を見てノルンは表情を和らげるとそっと2人の元へ近づく。
その後アオイがいれたコーヒーを飲みながら、寝る前の一時を三人は穏やかに過ごしたのだった。




