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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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80.ポーラ救出

 すぐさまブランの後を追ってポーラの元に駆けつけたノルンたちは広がっていた光景に一瞬きょとんとしてしまう。


 何故か盗賊であろう男二人は泡を吹いて倒れており、その傍らに抵抗できないように、胴体にぐるぐると縄で縛られたポーラがいた。

 そして、ポーラもまた涙を流しながら泡をふいて倒れていたのである。

 ブランがはっはっ、と息をして盗賊の1人を玩具にして遊んでいる当たり、ブランの登場に気絶したというところだろうか。


 とりあえず、とアオイは腰に刺さっていた剣を抜くと、ポーラを拘束していた縄を切った。

 アトラスは近くに落ちていた縄でぐるぐると盗賊を縛り上げる。


「…ポーラ。ポーラ」


 ノルンが膝まづいて、優しく名前を呼びながらポーラの身体を揺らす。

 すると、はっとしたようにポーラが目をぱっちり開くと勢いよく起き上がって焦ったように当たりを見渡した。


「お…お…おおかみ…!」


 顔を青ざめさせて首をぶんぶんと振り回して確認したポーラだったが、そこに映ったのは飛びかかってくるウルガルフではなく、心配そうにポーラを見つめるノルン達だった。


「はは。ブランならここだぜ」

「よかった。目が覚めたみたいで。怪我は無い?」


 ポーラは驚いて拍子抜けしたように顔をおどけさせた。アトラスはブランの背を撫でながら、アオイはポーラを覗き込むように前かがみになって言う。


「あれ…?…アトラス…?…アオイ…ブラン…ノルン…?」

「はい」


 ポーラの確認するように呼ぶ声にノルンは頷く。


「遅くなってしまってすみません。ポーラ」


 そして、ノルンが優しくそういった事でようやく、ポーラは恐怖の糸が切れたように、真ん丸な目をぶわっと潤ませた。

 そして、そのまま目の前にいたノルンに飛びかかる。


「わあぁぁぁぁ〜…!!ノルン〜!」

「はい」


 ノルンはおうおうと涙で虹をかけるポーラを宥めるようにポーラの小さな背に手を当てた。

 そして、ポーラが落ち着きを取り戻たあとで、ようやく先程の村へと戻ることが出来たのだった。


 先程の盗賊は目を覚ました時に余程ブランに恐怖を覚えたのかずっとぶるぶると身体を震わせて、縮こまっていた。

 どうやら彼らはここ最近ここら辺で旅人目当てに食料や金品を奪いとっていたらしい。

 そして、そこに今度はノルン達が通りかかり、そこで見たポーラを何とかしておびき出して捕まえられないかと考えたようだ。

 大陸では珍しいウール族を、さらには小柄で愛らしい見た目のポーラなら高く売れるだろうと考えてのことだったらしい。

 本来であれば(イーグル)に引き渡したいところではあるが、生憎ここら辺には(イーグル)の駐屯地はない。

 そうして、仕方なくもうこの村には近づかないことを条件にアトラスは盗賊達を解放したのだった。

 盗賊たちはブランに食べられるとでも思っていたのか、開放された時には泣きながら一目散にノルンたちの前から走って姿を消したのだった。


 村への帰り道、アオイがいつ盗賊たちと出会ったのか、とポーラに尋ねると、ポーラは「あぅ…」と言って言いにくそうに俯いて身体の前で手をにぎにぎし始めた。


「お家にいて、気づいたらノルンとアオイが居なくなってて…。僕も外が気になって玄関から少し外を覗いてたら…近くにクッキーが落ちてて…その奥にもまたクッキーが落ちてて…」


 ポーラの話にアトラスとアオイは苦笑いする。

 どうやらクッキーに釣られて森に誘い込まれたらしい。そして、突然先程の男達に捕まってしまったのだという。


「クッキーかぁ」


 思わず可愛らしい手口とクッキーにつられるポーラの姿を想像して、アオイは思わず眉を下げて笑う。

 そして、アトラスもポーラを見つめて、口を開く。


「ポーラ、俺も寝ちまって悪かったが次どっかに行く時は教えてくれ。心配しちまうからな」


 アトラスは最後の言葉を特に優しく伝えた。

 それが余計に心から心配をかけてしまったようで、ポーラは俯く。


「あぅ…ごめんなさい」

「いいや。怒ってるわけじゃねぇぜ!俺も悪かったな!」


 アトラスが優しく忠告するも、ポーラはまた迷惑をかけてしまったと言わんばかりに瞳に涙を溜めた。

 そんなポーラの様子をみてこれ以上誰も何も言うことはなかった。

 そうして、村に着いた後には、村を出る前に忠告をしてくれた母親の元へ行き、ポーラが無事見つかったこと。そして、盗賊はもうこの辺りで出ることはなくなっただろうと伝えておいた。

 母親は驚きながらも安心したように何度も礼を述べてくれた。


 宿屋に帰り、それぞれが時間を過ごし、夕食を食べ終えるとポーラは疲れたのかブランに寄りかかり、早くも寝てしまったようだった。


 蝋燭の暖かな灯りに照らされながらノルンは隣でポーラ見つめていた。

 森での帰り道からずっとノルンは何かを考えるような表情をしていた。

 そして今も。

 アトラスとアオイはどちらからともなく視線を合わせると小さく眉を下げて笑った。

 そしてノルンに声をかけるのだった。




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