79.ポーラ捜索
その後、3人で懸命に村を探したものの、ポーラは見つからなかった。
そもそもポーラは人間の村には興味があったようだが、村に入った時もノルンの足にしがみついていたほどまだ人間に警戒していた。
そんなポーラが一人で宿屋を出られるだろうか。
ノルンはそんなことを考えながらポーラの捜索にあたる。
しかし結局、村のどこにもポーラはいなかった。
三人は顔を見合わせる。
「どこに行っちゃったんだろう」
「もう次の村へ一人で向かっちまったのかなぁ」
「…それは考えにくいと思いますが」
「だよなぁ」
そんな時、眉を下げて不安を醸し出す3人に一人の女性が声をかけた。
「あら?先程の旅人さんじゃない。どうかした?何か足りないものでもあった?」
それは村に訪れた時、丁寧に宿屋まで案内してくれた女性だった。
女性は優しげに笑いながら首を傾げていた。
そんな女性に実は、とアオイは口を開くのだった。
「ええっ?あの可愛い子居なくなっちゃったのかい?」
驚く女性にノルンは頷く。
「はい。僕たちが買い出しに出ている間に気づいたら居なくなってて…」
「それは大変だわ。皆にも聞いてみましょう」
「ありがとうございます」
ノルンが小さく頭を下げた時だった。
「おかあさ〜ん!」
幼い子供の声が聞こえたと思ったら少し先からまだ幼い子どもが走ってきた。
まだ4、5歳程の男の子だ。
男の子は走ってくるとそのまま女性に飛び込んだ。
女性は慣れた手つきで受け止める。
「マルク。ごめんね、お母さん今から小さなくまさんを探しに行かないといけないのよ」
女性は何か言いたげな息子を宥めるように頭を撫でて言う。
しかし、息子はきょとんとした顔の後、ぱあっと顔を明るくさせた。
「ぼく、しってるよ!いまね、おかあさんにおしえにきたんだ!」
満面の笑みで笑う男の子にその瞬間、母親とアオイ、アトラスは声を揃えたのだった。
「「「どこで!?」」」
突然の大人たちの食いつきように男の子は驚いたようだった。目をぱちくりとさせている。
「マルク、どこで見たの?」
しかし母親がしゃがみこんで、マルクと呼ばれた息子に声をかければマルクははっとして、村の外の森を指さした。
「あっちでね、なんだか黒い服の人達に話しかけられてたんだ」
その言葉にノルンは小さく目を見開く。
そしてそれを聞いた母親は少し眉を寄せた。
「あっちの森だな!ボウズありがとな!」
すぐさまアトラスが駆け出そうとする。
それに続いてノルンとアオイも母親に頭を軽くさげてアトラスの背を追おうとする。
しかしそこで焦ったように母親の声が聞こえた。
「あっ…!あっちの森には最近盗賊が出るって噂なの…!気をつけて行くんだよ!」
その言葉にノルンとアオイが足を止め振り返る。
「盗賊…」
「分かりました!ありがとうございます!」
そして母親の助言 忠告にもう一度礼を言って、ノルンは小さく頭を下げてから走り出したのだった。
アトラスの背を追って森へ入ったが、ポーラは見当たらない。
「ポーラ〜?」
アオイが名を呼ぶもポーラが姿を見せることは無い。
「どこ行っちゃったんだろう…」
「…………」
「おーい!ポーラ!いるか〜!」
アトラスも声を張り上げるが、森の木々のざわめきしか聞こえてくることは無い。
そんな時、ノルンの肩口で何かがもそりと動いた。
「ブラン?」
ノルンが声をかければ、ブランはノルンの肩口から顔を出すと、のそりとノルンの肩から降りて地面に降りた。
そして、1m50cmほどの大きさになると地面にすんすんと鼻をつけてひくつかせた。
それを見てノルンがはっとする。
「…ブラン、ポーラの居場所がわかるのですか?」
ノルンの言葉にアオイとアトラスもなるほどと頷く。
そして、少しあたりの匂いも嗅いだ後、ブランはガウッ、と一声鳴くとまるで着いてきてと言わんばかりにノルンを見つけた。
ノルンは頷く。
それを見ると迷うことなくブランは森の中を走っていくのだった。
そして道から外れ木々の間を通り抜けていく。
しばらくブランについて行ったところで、何やら声が聞こえてきた。
「うううう〜…はなしてぇっ…!」
「このッ…うるさいクマだ!少し黙らせてやろうか?」
「いや、やめておけ。こいつは高く売れる。傷をつけるのは勿体ねぇ」
どう考えても一番初めに聞こえてきた泣き声はポーラで間違いなさそうだ。
そしてその後にガラの悪い会話が聞こえる。
どうやら母親に忠告された嫌な予感が当たってしまったようだ。
思わず聞こえてきた声にノルンは眉を寄せ、声のした方向に向かって全力で走る。
そして、盗賊の元に突如ガサガサッという音が聞こえ、盗賊は身構える。
「なっ…な、なんだ!」
「しっ…知らねぇよッ!」
「ううう〜…」
盗賊の前の茂みが揺れる。
盗賊が思わず片手間に置いてあった短剣に手を伸ばしたときだった。
バウッ、という大きな咆哮と共に、恐ろしいほどに大きく、目をぎらつかせたウルガルフが飛びかかってきたのだった。
「ひぃぃッ…!?」
「うわあぁぁあ…!?!?」
「あああああ〜…!」
森の中に情けない悲鳴が響き渡り、鳥たちは驚いて一斉に羽ばたいた。ちなみに最後の叫び声はポーラの声である。
「はぁっ…はぁっ…ポーラ!」
「無事か!?」
先に走っていったブランを追いかけてノルンたちが到着した時には、盗賊2人は情けなくも泡を吹いて倒れ、またその傍らには同じく口を開けて白目を向いて放心するポーラが倒れていたのだった。




