77.ブランの秘密
翌日。朝起きてまた再び村へと足を運び始めたノルンたちは昼前には目的の村にたどり着くことが出来た。
ギルドも武具の店もない小さな自給自足の村だ。
村に入る前にふとノルンはブランの頭を撫でる。
「ブラン。少しの間フードに入っていてくれますか?」
ノルンがブランの瞳を見てそういえば、アオイは「え」と困惑の声を漏らした。
どう見てもブラン程の巨体がノルンのフードに入れるわけが無い。
しかしブランはノルンの言葉を理解したように目を細めると、その身体は淡い青の光に包まれ、瞬く間にブランの身体はどんどん小さくなっていって、光がやんだ頃には子犬ほどの大きさのブランがいたのだった。
「えええええ……!!」
アオイが目を丸くしている横でしゃがんだノルンはブランを抱き上げると、ブランは慣れたようにノルンのフードに入っていってしまった。
「え…ええ…ノルンちゃん。今のって…」
戸惑うアオイに気づいたノルンがアオイの方を向く。
「ブランのことですか?外の村や街に入る際には、ブランには申し訳ないですが、いつも小さくなってもらっているんです。村の人たちを驚かせては申し訳ないので」
「そりゃ驚くだろうなぁ」
たしかにその通りだとは思う。
しかし、アオイが聞きたかったのはどうやら別のことだったようだ。
「…あ、そっか。そうだよね。…でも、どうやってブランは小さくなったの?今ノルンちゃんが魔法をかけたの?」
アオイはノルンの肩口からちょこんと顔をのぞかせる ブランを見て不思議そうに聞く。
すると、ノルンはアオイの質問の意図を理解したようにブランを見て、その小さくなった頭を撫でたあと口を開いた。
「…ブランは元々魔物に分類されます。名称でいえばウルガルフですが、もちろん魔力をもっています」
「そっか。でもそれじゃあウルガルフって大きさを変えられるの?」
ノルンはアオイの言葉には緩く首を振った。
そして、今度はノルンも不思議そうに顎に手を当てて口を開いた。
「…いいえ。それは聞いたことがありません。…しかし、ブランを見つけた時には既にブランは自分の身体を自由に調節することが出来るようになっていました」
これは憶測なのですが、とノルンは続ける。
「ブランの額には紋様のような青い印が刻まれていますよね」
「うん、すごく綺麗な色だよね」
ノルンはアオイの言葉に頷く。
「この紋様は他のウルガルフには見られません。私も不思議に思って師匠に聞いてみたことがありました」
それはアトラスと別れたすぐあとの事だった。
アトラスにも同じ事を聞かれ、同様に不思議に思っていたノルンも診察のついでにフローリアに聞いてみたことがあったのだった。
その時のフローリアの見解は次のようなものだった。
「師匠によれば、ブランの紋様は魔力が刻まれたことで間違いないとのことでした。そして、それは…私の魔力と同様のオーラを持っていることから私がブランに与えたのだろうと…師匠は仰っていました」
「へぇ。それは俺も初めて聞くな。つまり、ノルンがブランにノルンの魔力を与えたことでこの紋様が刻まれたってことか?」
ノルンの話に興味深そうにアトラスも話に入ってくる。ノルンは恐らく、と頷いた。
「だが、俺とノルンがブランを見つけた時にはもうその印は入ってたよな?」
「はい。ですので、私も記憶にはないのですが…ブランと出会って間もなくしてきっと私がブランに魔力を与えたのだろうというのが師匠のお話でした」
「なるほどなぁ」
アトラスが納得したように頷く。
「つまりノルンちゃんの魔力がブランにもあるからブランは自分で大きさを変えられるってこと?」
「はい。私も実際のところ、よくは分からないのですが、師匠によればそういうことなのだそうです」
「そっかぁ、すごいなぁ」
感心したようにブランを見るアオイにノルンも頷いた。実際ノルンはブランに魔力を与えた記憶など一切ないが、幼き頃からブランの額には美しい紋様は存在していたように思う。
村の手前の森で話してしまっていたため、急に難しい話になってついてこれなかったポーラはノルンたちの足元でノルンたちの顔を行ったりきたりと見渡して、気づけば目を回してしまっていたようだった。
ううう、と目を回すポーラに慌ててアオイとノルンは謝罪をして、もう鼻の先にある村へ向かって歩き出した。
村にたどり着けば、ポーラは緊張した様子でノルンの足元にはりつき、ノルンのマントに隠れるようにして村の様子を伺っていた。
その瞳は緊張と不安が見て取れるが、それでもポーラは始めてみる人間の村に興味を隠せない様子だった。
その様子にノルンは小さく微笑みながら、今日の宿屋を探しに村を歩くのだった。




