76.初めての世界
ポーラが少しの間ノルンたちの旅仲間として加わることになってはや数日。
ポーラはノルンたちと少しずつその距離を縮めていっていた。
敬語で怖々とノルン達と接していたポーラは3日を過ぎた頃には敬語を外し、天真爛漫な様子で打ち解けていた。
ノルンからも様付けは取れて、ポーラと呼ぶようになっていた。
アトラスに関しても、ポーラはやはり同じウール族ということで初めは日々虐められていた日々を思い出し、アトラスに萎縮してしまっていたようだが、今では兄貴分で嫌味のない性格のアトラスにとてもよく懐いていた。
「アトラス、僕も頑張れば戦えるようになるのかなぁ」
「ん〜?そうだなぁ。ポーラは戦えるようになりたいのか?」
「…うん。だってそしたら僕も…みんなにからかわれなくなるかもしれないでしょ?」
「…あぁ。そうだな。もし戦えるようになりたいなら俺が少しずつ教えてやる」
「わぁ、ありがとう!アトラス!」
アトラスの横を必死に早足でついて行く様子は、年上の兄に憧れる幼い子供のようで可愛らしい。
そんな素直で純粋なポーラはすぐにノルン達に懐くと同時にノルン達にとってもの癒しの存在となっていった。
そんな旅の道中だが、今まで島の外に出たことがなかったというポーラは何に対しても興味津々といった様子だった。
「わぁ。すごく綺麗なお花だぁ…!」
「これはミツツバキといいます。花の密がとても甘いんですよ」
ノルンが一つ花を摘んでここを吸うんですよ、といって花の先を示して見せればポーラはちゅー、と吸っては丸い瞳を輝かせていた。
「今日はきのこと鮭のリゾットにしてみたよ」
「うわぁ!おいしそう〜!」
また一度、アオイが余っていた材料でスイーツを作ってくれた時には瞳を輝かせこれでもかと言わんばかりに感動していた。
しかしトラブルに見舞われることもあった。
ある日、気づけば一緒に歩いていたはずのポーラがおらず、3人が首を傾げていたところポーラの泣き声が聞こえ、急いでそちらへと向かえば、魔物に襲われていたこともあった。
また毒のある花の密を吸ってしまい、ぱたんと倒れてしまった時には慌てふためいた。
ノルンの薬のおかげで半日ほどで改善したものの、ポーラは迷惑をかけてしまったと落ち込んでいた。
そんな日々もすぐに過ぎ去り、明日には早くもポーラを最初の村に送り届けることが出来そうだった。
「アトラス。あとどのくらいで村には着きそうなの?」
「そうだなぁ。ここまで来たらあと半日ってところかな」
「そっか」
その日の野宿場所でアオイは鍋をかき混ぜながら聞いた。焚き火の近くには丸太に腰掛けるアトラス。
テントの付近にはノルンとブランが寄り添って座る。
ポーラは初めブランに怯えていたが、今ではすっかり仲良くなったのかよく背中に乗せてもらっていることもしばしば見受けられるようになっていた。
今はノルンと共にブランに寄りかかってアオイの鍋を興味津々といった様子で見つめていた。
しかしその表情はアトラスとアオイの会話を聞くと、一気に落ち込んだように見えた。
「…ポーラ。どうかしましたか?」
隣にいたノルンが声をかける。
アオイとアトラスもノルンの声にポーラを見つめた。
するとポーラは手をお腹あたりで握って俯いた。
「…うん。あのね、ノルン。…村の人たちは僕にやさしくしてくれるかな…?」
その言葉にノルンは隣で小さく息を呑んだ。
「僕にやさしくしてくれたのは…ノルンたちが初めてだったから。…あ、でもね、長老様だけはやさしくしてくれたんだ」
「長老様…?」
アオイが鍋をかき混ぜながら聞けばポーラは長老とやらを思い出したのか不安げな顔から一転、表情を明るくさせた。
「うん!長老様のところに行くと長老様は僕をいつも隠してくれて、そのあとでたくさん楽しい外のおはなしを聞かせてくれるんだ」
「へぇ。そっか」
アオイがポーラの話に優しく微笑む。
「あぁ。ホーラスの爺さんだな」
どうやら同じ地で生まれたアトラスも知っているようでポーラの話に頷いていた。
「そうなのですか。優しい方なのですね」
「うん…!」
「村の人たちもきっと大丈夫です」
「うん、ポーラみたいな子がいたら、きっとみんなにすごく可愛がって貰えると思うよ」
「…へへ。…そうかな」
ノルンの言葉に、アオイも頷いてポーラを見つめた。
ポーラは2人の言葉に、安心したようだった。
先程までの不安の色は消えて、今は照れたように笑っている。
そんなポーラをみてアオイはくすっと笑うと、さぁできた、と言って鹿肉と野菜の煮込み料理をお皿にすくい手渡したのだった。




