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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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75.目的地の変更

 アトラスの言葉にポーラは初めてその瞳に少しの希望を見出したように輝かせた。


「まず1つ目の村はこの森の道沿いを歩いていけばすぐに着く。そしたらそこで次の村への道を聞くといい」


 アトラスの言葉にポーラは必死に頷いている。

 そして、アトラスの話を聞き終えると、まだ少し怯えた様子ではあるものの、礼儀正しくぺこりと頭をアトラスの方に向かって倒した。


「あの、ありがとうございます。僕…、がんばります」

「おう!」

「アオイさん…それに、ノルンさんもたすけてくれて、ありがとうございました」


 ポーラはアオイとノルンにも同様にそれぞれ頭を下げる。


「いえいえ。無事に帰れるといいね」

「ポーラ様。お気をつけて」


 アオイは笑顔で別れの言葉を交わし、ノルンはそれだけを言うと、表情を和らげた。


 ポーラは3人と別れることに不安そうにしながらも、もう一度頭を下げるとてちてちとゆっくり歩き出したのだった。


「あー…ポーラ。こっちだな」


 しかしその歩みはすぐに苦笑したアトラスによって止められるのだった。

 その様子をみてノルンはアオイと顔を見合わせる。

 ポーラは丸い瞳を少し瞬いたあとはっとしてノルンたちの元に駆け寄ってくるのだった。


「あぅ…す…すみません」


 耳を少し折り曲げて顔を俯かせるポーラ。

 手はお腹の前でいじいじと不安を隠すようにいじられている。

 ノルンはそんなポーラの様子を無言で見ていた。

 そしてアトラスとアオイに視線を向け、少し口を開いたものの、言葉が出ることはなく、閉じられた。


「ん?」

「…ノルンちゃん…?」


 視線を外し少し目を伏せたノルンに不思議に思ったアトラスとアオイが声をかける。

 しかしノルンは2人ともう一度視線を合わせても、何かを迷っているようで、言葉は出ない。


「………」


 するとそんなノルンを見たアトラスとアオイは顔を見合わせると、肩を竦め、優しい顔つきでノルンに向き直った。


「ノルンちゃん、言いたいことがあったら遠慮せずに言ってくれていいんだよ」

「おう。俺たちはノルンの旅に着いてきてるんだ。ノルンの好きにしていいんだぜ?」


 その言葉を聞いてノルンははっとして2人を向き直る。


(…わたしのすきに、)


 ノルンはアトラスの言葉を心の中で繰り返した。

 今まで、いつだってノルンは自分の意思で何かを率先してやりたいと発言することはなかった。


 それは育ての親であるフローリアにさえそうであった。

 賢い子どもであったノルンは助けて貰ったという恩と街の人達の自分への態度から過剰に自分から何かを欲することや、発言することに過剰に遠慮がちになっていた。自分の意見をもたない子どもだった。

 だからこそ、初めて魔法に興味を持ち、フローリアに教えて欲しいと志願した時はフローリアは驚き、目の縁に涙を浮かべたほどだった。


 そして、今、ノルンは揺れる瞳で目の前で優しく微笑むアオイと、いつも通り太陽のように笑うアトラスを見る。胸の前で握っていた手に少しの力を込める。

 そしてポーラに聞こえない声で小さく2人に囁くのだった。


「…………_____」


 それを聞くとアトラス、アオイは驚いたような顔をした。

 ノルンの言葉を聞き終え、2人は顔を見合せたあと同時にふっ、と優しく笑うのだった。


「…いいのか?ベルンとは真逆だ」

「…はい。承知しています」


 アトラスの言葉にノルンは少し気まずそうに、けれどしっかりと頷いた。

 するとアトラスはその言葉を聞いて、やれやれといったように、けれど楽しそうに笑うのだった。


「ふはっ。そうか。…なら、俺はノルンに従うぜ」

「うん。僕も。僕はノルンちゃんについて行くよ」


 アオイはいつものように優しくノルンを肯定する。

 そんな2人の言葉にノルンは小さく目を開き、その後感謝の言葉を口にした。


「…ありがとうございます。アル。アオイさん」


 2人は笑顔でノルンの言葉に応えた。

 ノルンは、ポーラに向き直る。

 未だポーラは恥ずかしいのか、情けないやらで眉毛を下げて俯いている。

 ノルンはふとそんなポーラの前にしゃがみこんだ。

 目の前に座ったノルンにポーラも思わず顔を上げて、少し下にあるノルンの瞳と視線を合わせる。


 ノルンが小さく形の整った口を開く。

 そこから発せられた言葉はポーラにとっては思いがけないものだった。


「ポーラ様。よければ、最初の村までご一緒してもよろしいですか」

「…ぇ…?」


 可愛らしいポーラの戸惑った声が小さく漏れる。

 ノルンが先程アトラスとアオイに伝えた言葉は一つ目の村までポーラを送っていきたい、というものだった。


「私もその村の近くでとれる薬草を採取しにいく予定でしたので」


 ノルンがそう言えば、途端にポーラの瞳に膜がはる。

 そして不安げにノルンを見つめた。


「いいの…?」


 恐る恐ると聞くポーラにノルンは空気をやわらげた。


「はい。もちろんです」


 ノルンがそう言えば、何かを堪えるようにポーラは小さな口を結ぶと、後ろを向いてごしごしと小さな腕で目元を擦るのだった。


「うう…ありがとう、ございます。よろしくお願いします」

「…こちらこそ。よろしくお願いいたします」


 最初の村といっても今現在ノルン達がいる場所からはそこそこ距離が空いていて、アトラスによれば歩いて1週間はかかるという。

 こうして少しの間ノルンたちには可愛らしい旅仲間が増えることになったのだった。





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