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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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74.シロクマの経緯

 ウールがふーふー、と紅茶を必死に冷ましながら飲んでいる。その様子をノルンは静かに横で見守っていた。


「ごめんね。少し熱かったかな」


 アオイが優しく問いかければウールは小さく首を振っていた。


「そっか、よかった。…それで、君の名前はなんていうの?」


 優しくほほ笑みかけるアオイにウールは戸惑った瞳を見せながらも、一度ノルンを見て、瞳を合わせたあと、もう一度アオイを見てその小さな口をやっと開いたのだった。


「…あの、僕、ポーラっていいます」


 切り株にカップを乗せて、礼儀正しくちょこんと立ち上がったポーラは不安げにまろ眉を少し下げていう。


「ポーラ、そっか。いい名前だね」


 ポーラはアオイの言葉に下げていた視線をアオイに向けた。そして、アオイの雰囲気に安心したのか少し表情を緩めた。


「だな。それで、ポーラはどうしてこんなとこで倒れてたんだ?」


 アオイに続いてアトラスが話しかけるとポーラはあからさまに全身を縮こまらせる。


「あ…えと、…あの。ぼく、その…」

「………悪ぃ。ポーラ俺なんかしたか?」


 怯えて俯くその様子にアトラスは困ったように、申し訳なさそうに聞く。

 するとポーラはハッとして慌てたようにアトラスを見つめると勢いよく左右に首を振った。


「あの、その…すみません。ぼく、…その…」


 上手く言葉の出ないポーラの丸い瞳がうるみだす。


「…ポーラ様。大丈夫です。アルはとても優しいのですよ」


 するとポーラの隣でノルンがポーラを落ち着かせるように宥める。その言葉にポーラは少し息をついた。

 そして、落ち着いたあとで、もう一度口を開いた。


「あの、僕は…コラル島で暮らしてたんです」

「コラル島…」

「俺たちウール族が暮らす南の島だ」


 ポーラの話にアトラスがアオイの言葉に補足する。

 ポーラもアトラスの言葉に小さく頷く。

 身体の前で組まれた小さな手は不安を紛らわすようにぎゅ、と握られている。


「でも…ある日、いつもみたいに島の子達から逃げていたら、ちょうど隠れられる木箱を見つけて…」

「逃げていた?」


 アトラスが首を傾げるとポーラは悲しそうに眉を下げて頷いた。


「…僕は…昔からなぜか兄弟の中でずっと小さくて…それで…島のみんなもなかよくしてくれなくて…」

「…そっか。すまねぇ。嫌なこと思い出させた」

「…………」


 ポーラの悲しげな声にアトラスが謝罪するも、ポーラは俯いたまま首を振った。

 その様子にアオイが話を引き継ぐように優しくポーラを見つめ聞く。


「…それで、ポーラは木箱に入ってどうしたの?」


 そこでアオイの言葉にノルンは先程の光景を思い出した。

 木箱の中に入っていたポーラ。

 辺りに散乱した木箱。

 破壊された荷車。


「…もしかして、商人の荷物に紛れ込んでしまったのですか?」

「え…!」


 ノルンがポーラを見て問うとポーラはぅぅぅ、と小さく声を漏らしてこくん、と頷いた。


「なるほどなぁ。間違えて商人の木箱に入っちまって、そのまま海を渡ってここまで運ばれてきちまったって訳か」


 ノルンは何も言わず、ぽろぽろと不安げに涙をこぼすポーラを見つめていた。


「…そっか。それにしても、途中で気づかなかったの?」


 アオイが問うと、ポーラはたどたどしく話してくれた。どうやら船の中で気づいたものの、すぐに酔ったのか気持ちが悪くなってしまい、目を回しているうちにどこかに運ばれていて、気づけば毎日どこかに運ばれていたそう。そして、突如とてつもない衝撃に襲われ、また気を失ってしまったということだった。


「…そっか。それは大変だったね」

「………」


 ポーラはアオイの言葉に頷く。

 ノルンは変わらずポーラの横で、ポーラにハンカチを差し出していた。


「にしても、ここまで運ばれてくるとはなぁ」


 アトラスが驚き、呆れ混じりに笑いながらいう。

 道中異変を察したポーラはなんとか逃げ出そうと試みたものの、ポーラの力では木箱はうんともすんとも言わなかったという。


 そして、魔物に襲われた衝撃で木箱が壊れたことでやっとノルンに見つけ出してもらえたという訳だ。


「ここからコラル島まで早くても1ヶ月半はかかる。お前、よく生き延びたなぁ」


 今度は感心したようにアトラスが顔をゆるめて言えば、ポーラは木箱の中に入っていてココナッツやフルーツ、その他の食品を食べてなんとかなっていたと言った。


「…とても、大変でしたね」


 ノルンがポーラを気遣えばポーラはこくん、と頭を縦に振った。


「にしても、これからどうするんだ?」


 アトラスが俯くポーラに言う。


「間違えてこんなとこまで来ちまったんならコラル島に帰りたい…よな?」


 アトラスは先程のポーラの日々の生活を聞いたためか、ポーラの様子を伺うように首を傾げながら聞けば、ポーラはアトラスの瞳を見つめながら、きゅ、と小さく俯いて迷っているようだった。

 けれど、少しの間を開けて小さく頷いた。


「…でも…僕、帰り方も…わからなくて…」


 ずび、と鼻水を啜るポーラ。


「ん〜、ここからならこのまま南東に進んで小さな村を3つ4つ渡ればコラル島と唯一繋がっている港街に着くはずだぜ」

「それは…本当ですか」

「あぁ。もちろん俺もコラル島出身だからな」


 アトラスの言葉にポーラの小さなフードを被った丸い耳がぴくりと動く。

 そして、初めてその瞳はまっすぐアトラスを捉えた。

 それにアトラスはいつも通りニカっと眩しく笑いかけるのだった。


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