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norn.  作者: 羽衣あかり
“旅の始まり”
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73.パニックパニック

 ノルンたちに怯えたように、木の影に隠れてしまった小さなウールはその小さな手を木の幹に添えて、ふるふると震えていた。


 話しかけた瞬間に逃げられてしまったアトラスはぽかんとしている。

 その様子にノルンとアオイは顔を見合せた。

 目覚めた途端に知らない人物に囲まれ、驚いたのだろうか。しかし、あの震えようを見るにそれだけでは無いのかもしれない。


 とりあえず、あまり距離を詰めるのは良くなさそうだ。

 ノルンたちはその場から一歩も動かず、座ったまま、木の奥に身体を隠すウールに話しかけた。


「あ〜…驚かせて悪かった。改めて俺はアトラス。お前と同じウール族だ。よろしくな!」


 アトラスが木の奥に向かって声を投げかければ、ウールがぴくっと反応したように見えた。

 そして、そろっと顔を出して恐る恐るアトラスを見ている。アトラスの笑顔は万人共通で緊張を解いてしまうような眩しい笑顔だが、幼いウールは何故かアトラスを見た瞬間あう、と小さく漏らしてまた顔を隠してしまった。


「ダメか〜」


 アトラスが苦笑すると次は、というようにアオイが声をかけることにした。


「…驚かせてごめんね。僕はアオイ。…それで、君のことを助けてくれたのはこっちのノルンちゃんだよ。ノルンちゃんに聞いたら君は森の中で倒れていたらしいんだけど、何があったのか教えてくれないかな?」


 アオイの言葉を聞いて、助けてくれたという言葉にウールは反応した。そして、また恐る恐る顔を出して、アオイを見たあと、アオイの視線をおってノルンを見た。

 ノルンは真っ直ぐウールを見つめていた。

 その瞳と目が合ってまたウールはぴっ、とないてしり込みそうになる。

 しかしウールに投げかけられたのは淡々としていながらもどこか思いやりの籠った言葉だった。


「…一応勝手ながら怪我がないか確認させて頂いたところ、怪我は見られませんでしたが、どこか痛むところなどはありませんか」


 ノルンの言葉にウールの震えが止まる。

 そして、少しした後、木の後ろから顔だけを出すと、ウールは眉毛を下げて、真ん丸な瞳に涙を貯めて、こくこくと頷いた。


「…そうですか。良かったです」


 それを見て微かにノルンの雰囲気が和らぐ。

 ウールがノルンを善人か悪人か判断するように見つめ

 ていた時だった。


「…あ」


 ノルンが小さく声を漏らす。

 その途端ウールの身体がふわりと持ち上がる。


「あ…ぅ…っ…わぁぁぁぁーっ…!!」


 突然浮遊した身体にウールは悲鳴を漏らす。

 そして、ウールが顔を横に向けた途端、鋭い瞳孔に射抜かれる。


「あぅっ…!…ぅぅぅぅぅ…!!」

「…ブラン」


 それはブランだった。

 足音を消して近づいたブランがウールの首根っこを甘噛みして持ち上げていた。

 手も足も出ないウールは慌てて手足を動かすもビクともしない。

 そして、ブランを見た瞬間、この世の終わりとでも言うように切ない声を出して、大きな瞳からぽろぽろと涙を流すのだった。


「…ぅぅぅ〜」


 そしてそのまま涙を垂れ流すウールをブランは咥えたままノルンのもとに降ろすのだった。


「…ブラン。…驚かせてしまってすみません。…あの、私たちは貴方に危害を加えないとお約束します。貴方を傷つけるようなことはしません」


 ノルンは少し咎めるようにブランの名を呼んだあと、ウールに瞳を向けた。

 ウールはもう逃げる気力もないのか、驚き腰が抜けたのか、うう〜と泣いている。

 しかし、ノルンの言葉に鼻を啜りながら瞳をあけた。


 その様子にアオイとアトラスもため息をついてほほ笑みを浮かべる。


「うん。僕たちも約束する」

「おう。だから安心していいぜ」


 柔らかい笑みを浮かべたアオイを見て、ウールはアトラスを見る。そして、何故かアトラスを見てまた小さく肩をはねさせるのだった。


「うーん。せっかくだし、暖かいお茶でもいれるね」

「ありがとうございます。アオイさん」


 そんなウールを見て、アオイが落ち着かせようと気を回してくれたのかお茶の提案をする。

 確かに少し暖かい飲み物でも飲んで気を落ち着かせた方がいいのかもしれない。

 ノルンがウールに視線を向ければ、ウールはまだびくびくとしながらも、よたよたと立ち上がると、そっとノルンの背後に回ってお茶をいれるアオイと、アトラス、ブランを伺うように見た。


「もうノルンは懐かれたみてぇだな」

「うん、ほんとだ」


 ノルンの背後から恐る恐る様子を伺うシロクマは可愛らしい。

 ノルンはただじっとその様子を見ていた。

 そして数分後アオイから暖かい紅茶のカップが渡される。


「はい。ノルンちゃん」

「ありがとうございます」

「はい。アトラスも。アトラスのは少し低めにしてあるよ」

「おう!ありがとな!」

「それに、はい。君もどうぞ」


 アオイから渡される少し小さめのカップにウールはどうしていいか分からず戸惑っているようだった。


「毒なんか入ってるねぇから安心しろ」

「はい。アオイさんのいれる紅茶はとても美味しいですよ」


 ウールは美味しそうに紅茶を飲むアトラスを見て、そして伺うようにノルンを見たあと決心したように小さな手でそっとカップを受け取った。

 アオイは優しく微笑むとそっと距離をとる。


 美味しそうに紅茶を飲むノルンたちを見てウールもそっと紅茶に口をつけた。

 するとその瞬間ほっと息をついたようだ。

 その様子にノルン達は顔を見合せる。

 どうやらやっと話を聞くことができそうだ。

 柔らかな木々の葉のこすれる音と、川のせせらぎを聴きながらアオイは口を開いたのだった。





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