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norn.  作者: 羽衣あかり
“シロクマと少女”
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72.出会い

 その後しばらく採集をしていたノルンだが、ふとその途中でブランがノルンの傍から離れて少し先の茂みに向かっていく。

 不思議に思ったノルンがブランの名を呼びながらブランについていくと、ブランが向かった茂みの影に木箱のようなものが見えた。首を傾げながらノルンもブランの後に続く。


 茂みの先には車輪が外れ、ゆがんだ荷馬車、そしていくつかの粉砕した木箱が散乱していた。

 ノルンはその光景を見て思わず足を止める。

 ここで何かあったということは間違いない。

 恐らくは商売に向かう途中で、魔物に襲われたのだろう。木箱や馬車にはあちこちに鋭い爪の後が残されている。

 しかし血痕などがないところを見るとどうやらこの馬車に乗っていた人物は上手く逃げ出したのだろうか。


 ノルンがしゃがんで壊れた荷馬車の傷跡に手を置いて考えていた時だった。

 がた、がた、と音がして後ろを振り返る。

 そこにはブランがひとつの木箱の中に顔を突っ込んで、頭を動かしているようだった。


「ブラン?」


 何かあるのだろうか。

 そう思ってノルンがブランに近づく。

 そしてブランが木箱から顔を出したあと、ノルンはそっとその木箱を覗き込んだ。

 そこで思わずノルンは小さく目を見開く。


「…!?」


 木箱の中には小さな子供がうつ伏せに倒れ込んでいたのだった。

 ノルンは目を見開くと、驚きながらすぐにその子を助け出すために木箱に入り抱き上げて外に出た。


「…大丈夫ですか、」


 そして陽の光の元、そう口に出して改めてノルンは自分の腕に抱かれたものの姿を見て目を見開いた。

 全身をパーカーで覆ってフードを被った人間で言う2歳ほどの子どもの大きさ。

 しかし顔部分だけ丸く露になっているそこにあるのは人間の子どもの柔らかな頬ではなく、ふわふわとした産まれたての動物に生えるような柔らかな白い綿毛であった。

 ノルンは驚いたまましばらく放心する。


(…しろ、くま…)


 ノルンの腕に抱かれた小さなウールはフードを被っており、頭には丸い小さな耳が2つ。そのパーカーは全身真っ白でその姿はまるでシロクマの子どもだ。フードのおでこの辺りにだけ縦に灰色の三本線が入っている。

 思わずその姿に驚きながらも、ぐったりとしているシロクマの子どもにノルンはハッとする。


「…大丈夫ですか?」


 ノルンが抱えながら、声をかけるもウールはうぅん、と小さく眉を寄せて唸るだけで気を失っているようだった。


 とにもかくもとりあえず、アトラスとアオイに知らせなければ。ノルンはブランと顔を見合わせると、優しくブランの頭を撫でて立ち上がった。

 腕には可愛らしいウールを抱いて。


「お〜!ノルン、なんかとれたか〜?」


 ノルンが川辺に行けば既にアトラスとアオイの傍には3匹ほどのお腹がふっくりと膨れた魚が釣り上げられていた。


「あ。ノルンちゃん。おかえり。何か森で採集できたかな?…ってあれ?ノルンちゃん、何か持ってる?」


 アトラスとアオイの近くまで行けばアオイがノルンが何か腕に抱えているのを気づいたようだった。

 首を傾げるアオイにアトラスも首を傾げる。


 そして近づいてきたノルンの腕の中の存在に気づいた2人はたちまち目を丸くした。


「え、ええっ…こ…子ども…?」

「…なんでこの数分で子どもを連れてくるんだよぉ」


 驚く2人は説明を求めるようにノルンを見つめる。

 するとノルンはその端正な顔立ちを崩すことなくさらりといった。


「いえ。シロクマです」

「…え?」

「…は?」

「…この子はシロクマです」


 的外れのノルンの返答に2人はぽかんと口を開ける。そこでアトラスに「待て待て。一から説明してくれ」と言われ、ノルンが先程の見たものを伝えればやっとアオイとアトラスは納得したようだった。


「なるほどなぁ。荷馬車の荷物の中に何故かこいつが混じってたと」

「なんでまたそんな所に…。それにしても起きないね」

「あぁ。随分魘されてるようだけどな」


 とりあえず置いていく訳にも行かないので、ノルンはシロクマのウールを自身の脱いだマントの上に寝かせ、ウールの子どもが目を覚ますのを待つことにした。

 その間ウールの子どもは眉を寄せてう〜ん、とかなり魘されているようだった。


「特に怪我はないみたいです」

「そっか。よかった」

「はい」


 一応申し訳ないが、可愛らしいシロクマのパーカーを脱がせて確認したところ傷は見られなかった。

 ちなみにそのシロクマの子どもはやはり服を脱いでもシロクマだった。

 そしてその30分後。

 シロクマの子どもは3人の話し声に反応したのか、耳をピクリと動かすと、ぱちりとまん丸な瞳をあけたのだった。


「んぅ…?」


 突如瞳に差し込んだ眩しい光にもう一度シロクマの子どもは目を反射的にぎゅっと閉じる。

 可愛らしい声にノルン達もシロクマの子どもが目覚めたことに気づいたようだった。

 顔をシロクマのウールに向ける。


「お!起きたか?」

「あ、ほんとだ。よかった」

「…痛いところはありませんか?」


 しかし突如目を開けた瞬間、見知らぬ人間に囲まれ見つめられていたのが怖かったのか、その瞬間シロクマの子どもはあわわわわ、と口を震えさせたあと「あぅ…!」と不思議な声を上げ真ん丸な瞳に涙を浮かべて、同時にカタカタと震えた。


 そして「よく寝てたなー。俺はアトラス!よろしくな!」とアトラスがそう言った瞬間ぴっと鳴いて立ち上がるとものすごい慌てようと、かなりの速さで木の影まで走りより隠れてしまったのだった。


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