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norn.  作者: 羽衣あかり
“旅立ち”編
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63.交錯する思い

 覚悟を決めたように薄く微笑むノルン。

 フローリアもまたそんなノルンを見つめ、そっと小さく微笑んだ。


「そんな…師匠せんせい。余りに無茶です。ノルンはまだ…」


 アランがフローリアに何とか考えを改めてもらおうと切なげに眉をひそめ訴える。

 フローリアは静かにアランを、そして瞳を揺らすレオを見つめた。


「…ノルンが行ってしまうことは、私もすごく寂しいわ。けれど、ノルンが決めたことなのだから。それに、ノルンにはやりたい事があるのでしょう」


 ちらりとフローリアの視線が再びノルンに向けられる。ノルンはその視線に頷いた。


「はい。父を___探しに行きます」


 その言葉にフローリアはゆっくり頷いた。


「…しかしっ…、…旅をするともなれば、道中凶暴な魔物も多発する。それに、ノルンが誰かに襲われでもしたらっ…」

「アラン…」


 アランは到底納得できないというように、フローリアとノルンに訴えかける。

 フローリアは宥めるように名を呼ぶが、アランの瞳は不安げに揺れている。


「その事については心配要らねぇぜ」


 しかしそんな空気の中、口角を上げて不敵に笑ったのはアトラスだった。

 皆がアトラスに注目する。


「元々ノルンが大陸を旅するって時には俺は一緒に行くつもりで此処に来たんだからな」

「アル」


 かつての仲間であったアトラスがアランに向けて笑みを浮かべる。その姿は副隊長をしていただけあってさすがに堂々としていて頼もしい。

 またそこで思わぬ人物がノルンを援護するように声を上げた。


「あの、ノルンちゃん。僕も一緒に行ってもいいかな?」

「…え…?」


 遠慮がちに声を上げたのはアオイだった。

 それにはノルンだけでなく、フローリア達も驚いたように目を丸くした。


「僕なんて全然力になれないかもしれないけれど、ノルンちゃん達と旅が出来る機会なんて、きっともう訪れないと思うから。ノルンちゃんがいいなら一緒に行きたいんだ。だめ、かな?」


 アオイは柔らかく微笑んで言う。

 その笑顔はこれからの旅路に何の不安も、迷いも抱いてはおらず、ただただノルンやアトラス、ブランと共に旅をしたい、というそれだけの純粋な心優しい笑顔で。

 ノルンは思わず、言葉につまる。


「お!アオイ、お前見る目あるなぁ。な、ノルン!勿論いいだろ?アオイは強いしな!」


 元気よく笑うアトラスとは対照的にノルンは決断に困っているようだった。どのような旅路になるかも分からないのに、今この瞬間だけで、アオイの同行を決めて良いものだろうか、と。

 するとそんなノルンの背を押すように今まで黙って成り行きを見ていたソフィアが口を開いた。


「いいのではないか?ノルン。もし旅路に危険が及ぶようならその時、また考えればいい。まぁ、それでノルンを置いていく選択をした場合は容赦はしないが」

「えっ」

「おいおい、ソフィア。アオイを虐めるなよなぁ」


 ソフィアがノルンの肩に手を置いて優しげな瞳で言う。

 最後は挑発的にそう言いのけてアオイを見つめ不敵に口角を上げる。

 アオイは思わずイーグル隊長の脅しに軽く顔をひきつらせ、アトラスは呆れたように見ていた。

 その様子を目を瞬かせるようにして眺めていたノルンは、ふっと気を抜いたように表情を和らげた。


「…分かりました。それでは、アオイさん。ぜひよろしくお願い致します」


 ノルンが軽く頭を下げる。

 ノルンの言葉にアオイは嬉しそうにぱぁっと顔を明るくした。


「うん…!こちらこそだよ。ノルンちゃん」

「ふふ。私からもお願いしますね。アオイさん」


 アオイが返事をすると同時にフローリアからも微笑まれ丁寧に頭を下げられる。それにはアオイは思わず恐縮したように「えっ…、あ、い…いえ…こちらこそ…!」と、辿々しく答えていた。


「良かったな!ノルン。楽しくなりそうだ」


 突如決めた選択にも関わらず、アトラスは普段通りに笑う。その表情はいつも通り、心からとても楽しそう で。そんなアトラスにノルンもつられるように表情を柔らげた。


「それで、いつにするんだ?」


 ソフィアに問いかけられ、ノルンは少し考え込むように顎に手を当てると、決心したようにソフィアを見つめた。


「…この後、支度をしたらすぐに出発しようと思います」

「なっ…!!」

「ふむ、そうか」


 ノルンの言葉にソフィアは頷くが、まだ納得していないアランとレオは衝撃を受けたような顔つきになる。


「ま…待ってくれ、ノルン。本当に行くつもりなのか…?」

「………」


 悲しげに顔を曇らせ、焦りをうかべる兄二人を見て、ノルンは何かを言おうとして静かに口をとざす。

 二人が心から自分を心配してくれていることをノルンもよく理解していた。

 幼い頃、フローリアに連れてこられた自分を受け入れ、愛情を注いでくれたノルンにとってもかけがえのない人達。

 そんな二人が悲しげにしている事はノルンにとっても辛いことであった。

 ノルンはそっと口を開く。


「…恐らく、この事は街の人も気づいていると思います。そして理由を説明すれば、街の方々にいらない気苦労を背負わせてしまうことになります。ですから、その前に此処を静かに発ちたいのです」


 ノルンの声色は普段と何ら変わりない。

 あくまでも淡々とした口調で述べる。

 しかしその言葉の意図に気づいたアラン、レオは眉を寄せた。

 今回の一件は魔法使いであるノルン個人を狙ったものだった。

 つまりノルンがフォーリオに居続ければ再びフォーリオの街が襲われる可能性がある。事情を聞いた街の人はそう考えるだろう、というのがノルンの主張だった。


「街の人たちがノルンを責めると思うのか…?そんなことは無い。皆ノルンのことを大切に思っている」

「…兄さんの言う通りだ。それに、さっきの事はノルンに非は少しもないだろ」


 ノルンの主張を聞いても、二人が譲ってくれる気配は無い。絞り出すような二人の声に、ノルンもさすがに戸惑いの表情を浮かべる。しかしノルンの中にもまたどうしても譲れない思いがあった。

 それは以前ソフィアに話したことでもあった。

 ソフィアに言われた通り、ノルン自身ももうアランやレオが本当に心から自分を大切に思ってくれていることは理解していた。

 そしてノルンもそれを受け入れていた。

 けれども、だからこそ。

 父母と別れ、一人になってからというもの、自分に初めてできた大切な人たちだからこそ、ノルンにも譲れない思いがあった。

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