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norn.  作者: 羽衣あかり
“旅立ち”編
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55.一年ぶりの再開

 ノルンとブランが穏やかな時を過ごしていた時、突如そこに転がるようにやってきたのが、ノルンにアオイと呼ばれた青年だった。


 アオイは老木に頭をぶつけしばらく目を回していたが、ノルンの声に答えるようにして目を開いた。


 そこで、アオイ自身もノルンを認識し、想定だにしていない状況に目を瞬いた。


「…えっ…?…ええっ!?ノ…ノルンちゃん…っ…!?」

「はい。お久しぶりです」


 慌てふためくアオイは以前、ノルンがフローリアの遣いで訪れた村で出会った青年だった。

 出会ったのは一年ほど前だが、この一年の間にアオイは大分身長が伸びたらしく、身体つきも細身ではあるものの、以前より少し逞しくなっていた。

 また童顔の顔立ちも以前よりも大人びて青年らしい顔つきになっている。


 そんなアオイは自分の前に膝をつき、自身を見つめるノルンに状況を掴めていないようだった。


「ど…どうして、ノルンちゃんが此処に…」


 驚いたようにそう口にしたアオイに首を傾げたのはノルンの方だった。どちらかと言えばそれはノルンの台詞ではあるが、ノルンは丁寧にアオイの質問に答えた。


「ここは、フォーリオの近くですので、少し足りなくなった薬草を採取しに来たのです」

「!…そっか。そうだよね」

「はい。それよりも、どうしてアオイさんが此処に?」


 今度はノルンが同じ質問を投げ返せば、アオイはえっと、と少し言葉をにごらせたあとで、どこか観念したようにノルンを見つめた。


「実は、あれから僕、ギルドによく行っていて」

「はい」

「それで、今回フォーリオの近くで依頼があったから、もしかしたらフォーリオにくればノルンちゃんに会えるかもって思って来てみたんだ」


(…私に、会いに…?)


 少し頬を薄く赤らめて、アオイは眉を八の字に下げ、着恥ずかしそうにノルンから視線を逸らした。

 ノルンは自分の名前が出てきたことに少し動揺して一人静かに瞳を揺らす。しかし、すぐにいつもの真顔に戻ると何ともないようにアオイに返事をする。


「…そうでしたか。ありがとうございます。アオイさん。お久しぶりです」

「うん。久しぶり。…情けない再開になっちゃったけど」


 苦笑しながらアオイはそう言うとゆっくりと立ち上がった。


「木に打ち付けたところは大丈夫ですか?」

「うん。もう大丈夫。ごめんね、ほんと。情けないところを…」


 落ち込んだように顔を暗くするアオイにノルンは首を左右に降った。


「いえ。大事に至らず良かったです」


 ノルンがそう言えば、アオイは顔を上げて、ノルンを見た。

 アオイが久しく再開したノルンは何も変わっていなかった。否、変わっていないというのは中身のことであって容姿ではないのだが。

 相変わらず表情は変わらないのだが、彼女が放つ言葉には確かな優しさがある。今もまたアオイの身を案じるその言葉に胸が暖かくなった。

 ちなみに容姿はというと更に磨きがかかって、以前より少し大人びており、久しぶりの再会に思わずそんなノルンを直視できず、アオイはさりげなく視線を下に逸らしていた。


 するとそんな2人の元に、よく見知った声が森から聞こえてきた。


「おーい!ノルン!無事かー!?」


 突如木々の間から軽やかに何かが飛び出してくる。

 それは先程ノルンと別れたアトラスであった。

 手には二丁拳銃を構えている。


「アル。はい。問題ありません」


 アトラスの言葉にノルンは声色を変えることなく静かに頷く。

 アトラスはノルンの隣に着地するとふぅ、と息をついた。


「いやぁ。急に戦闘音が聞こえ始めてビビったぜ。一体どうしたんだろうなぁ。……って、ん?」


 帽子の下からノルンを見上げて話し始めたアトラスだったが、そこでノルンの隣に立つ青年に目をやって、やっとその存在に気がついたようだった。


「あれ、お前は確か…アオイ、だったか?」

「あはは。うん。久しぶりだね。アトラス」


 驚くアトラスに居心地が悪そうに、少しどういう反応をしたらいいか分からないというようにアオイは軽く笑いながらそう言った。

 その後、不思議そうに首を傾げるアトラスにもアオイはノルンにした様に軽くここに居る理由を説明するのだった。


「へぇ〜。そうかぁ、なるほどなぁ。それにしてもお前一年ででかくなったなぁ」

「え、そうかな。そうだったら嬉しいんだけど」


 一年ぶりの再会を果たし、仲睦まじく話し始めたアトラスとアオイを横目にノルンも纏う雰囲気は柔らかい。


「アオイさん。せっかくですので、私の家でゆっくりして行かれませんか?」

「えっ、それはすごく嬉しいけど…いいの?」

「だな!せっかく久しぶりに会えたんだもんな!」

「はい。もちろんです」


 せっかくわざわざこの地までやって来てくれたというのだ。家であればお茶くらいは出せるだろうし、何よりここまで旅をしてきたアオイも少しは休めるだろうか。そう考えてノルンは提案をしたのだった。


 ノルンの提案にアオイは少し目を見張り、それから遠慮がちに、どこか申し訳なさそうに聞いた。それにノルンとアトラスは顔を見合せて頷いた。


(…本当に、私にわざわざ会いに…、)


 フォーリオのノルンの家に向かう最中、前を歩くアトラスとアオイの談笑を見ながら、ノルンはどう表現して良いのか分からない感情に戸惑っていた。嬉しさ、だろうか。感激だろうか。分からない。

 けれど、それは確かにノルンにとって大切な感情だったことは間違いないだろう。

 爽やかな新緑の森の中、一人静かに少女が俯いて、切なく微笑んでいたことは誰も知る由もない。


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