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norn.  作者: 羽衣あかり
“幼なじみと少女”
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52.狂気の恩人

 顔に魔物の影がさし、思わずレンは咄嗟に強く目を瞑った。しかし次の瞬間、覚悟していたような痛みはなく、その代わり目の前で何かが崩れ去るような音がしたのだった。


「…っ……、…え…?」


 ゆっくり怖々と目を開ける。

 すると目の前には頭部を一刀両断されたラーガスが倒れていたのだった。

 鋭い瞳孔はそのままで、思わず怯んでしまうが、その瞳からは光が消えている。


「…っ、はぁっ…!」


 思わず腰が抜けてその場に尻もちを着く。

 本当に死を覚悟した。

 動悸は未だ激しく音を立てている。

 それにしても、何だ。何が起こった?

 一瞬の出来事で頭の処理が追いつかない。

 そんな中でふと当たりを見渡せば、前方の少し離れた場所に人の影が見えた。

 じっと目を凝らせば、そこには大きく鋭利な斧を持った人物がいた。

 そしてその人物は斧を引きずったままレンの方にゆっくりと歩いてきた。


(…っ、なんだ、あの人…。あの人がラーガスを倒したのか…?あの、一瞬で…)


 その人物は気づけば倒れるラーガスの前まで来ていた。太陽を背にしており、その人物が仮面か何かを顔に着けているので、その表情は伺えなかったが、とにもかくも助けてもらったことに変わりは無い。

 少し威圧感を感じ、冷や汗を垂らしながらもレンは口を開いた。


「…あの、ありがとう、ございました」

「…………………あ"?」


 低く圧のある声が仮面の下から響く。

 そこでやっと仮面越しにではあるが、その人物の顔がレンに向けられた。

 どうやら相手はレンに気づいていなかったようだ。


「………誰だてめぇ」


 その声に思わず気圧されてしまいそうになりながらもレンはごくりと生唾を飲み込んで声を出した。


「…俺はレン。ラーガスに殺されそうになっていたところをあんたに助けられたんだ。改めてありがとう、助かった」


 強ばった声でそう言うと仮面の声からして恐らく男だろう。その人物は興味無さそうにふーん、と零した。


「…元々こいつを狙ってたのは俺だ。むしろお前は巻き込まれたんだ。悪かったな。さ、どっかいった」


 男はそう言うとしっしっ、と虫でも追い払うかのように手をレンに向けた。

 つまり、男が狩りをしていたのか討伐目当てだったか分からないがレンはそれに巻き込まれたのだという。


(…何だと?何故こんな凶暴な魔物を…)


 何故男がラーガスを狙っていたのかは定かではないが、巻き込まれたにしろ命を助けて貰ったのだ。このまま帰るのは気が引ける。

 何とか抜けた腰に力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。


「…いや。どちらにしろ命を助けてもらったんだ。何か礼がしたい。何か俺に出来ることはあるか?」

「あ"ぁ!?面倒くせぇな」


 しかしレンがそう言っても相手は唸るようにそう言うだけだった。仮面の奥で鋭い目つきに睨まれた気がした。

 その瞳に一瞬後ずさる。


(…っ、なんだコイツ。)


 何か触れてはならない物のような気がして、男の覇気に少し怯む。

 助けてもらった礼はしたいが、相手が望まぬのなら無理強いするものでも無いのかもしれない。

 それに何やら目の前の人物とは深く関わってはならない気がする。


「…分かった。とにかく助けれてくれたこと感謝する。それじゃあな」


 それだけ言うとレンは軽く手を挙げて、踵を返した。

 男はレンの方に見向きもせず、ひたすら魔物の身体を斧で裂いては、何かを探していた。

 その光景にも軽く吐き気を覚え、レンは顔を歪めて後ずさる。

 しかしレンが背を向けて歩き出した頃、後ろから急に呼び止められた。


「いや、待て」

「…?」


 その声に振り向けば、返り血を浴びた男が立ち上がり、レンを見ていた。

 その姿はひどく不気味でぞくりと背筋が凍る。


「…礼がしたいと言ったか。なぁお前、知り合いに魔法使いはいるか?」


 そして先程とは違いどこか面白そうな声でそう言った。


「魔法使い…?…まぁ」


 何故そんなことを聞くのかは分からないが、咄嗟に魔法使いと聞いて脳裏に浮かんだのは同い年の美しい少女の事だった。


 レンがそう言うと、男はゆっくり歩み寄ってきた。

 先程自身が倒したラーガスを踏みつけて。

 グチャ、という音が響いてその嫌な響きに顔を歪める。しかし男は血が着くのもお構い無しと言うように、ラーガスの上を歩いてレンの前へとやって来た。


(…っ…)


 目の前に男がやって来て、その異様な気配に思わず半歩後ずさる。


「そうかそうかぁ。なぁ、礼がしたいって言ってたよなぁ?」

「…あぁ」

「くくッ。そうかぁ。なぁ、その魔法使いのこと、もっと詳しく教えてくれよ」


 男は狂気じみた笑いをあげる。

 仮面の下で、ギラりと目が光った。

 何かおぞましい気配を感じたが、自分が言った言葉の手前、引き下がることも出来ない。

 何処か不安もあったものの、まぁ教えるくらいならば、とその後レンは静かに幼なじみの魔法使いの少女について教えるためにそっと口を開くのだった__。



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