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norn.  作者: 羽衣あかり
“幼なじみと少女”
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51.魔物討伐

 母から逃げるように家を出てきたレンは晴れない心持ちでフォーリオの街を目的なく歩いていた。

 レンの家はこの街のシンボルとも言える湖のすぐ近くだった。冬は辺り一面氷ってしまう湖も、今は太陽の光を反射して輝きを放っている。

 エメラルドグリーンに輝く湖の中では優雅に小魚が泳いでいる。


(…どうしたもんかな)


 湖のほとりを歩き続けながら考える。

 今家に戻れば、母はまた口煩くレンに家の手伝いをさせようとするだろう。

 しかし今はそんな気分では無い。

 それにギルドに行くと言って出てきてしまった手前、暫くは戻りづらい。


「…はぁ」


 思わず本日何度目かのため息がこぼれる。


(…仕方ねぇ。ギルドへ行って小遣いでも稼ぎに行くか)


 手にしていた剣を腰元にさしてギルド目掛けて歩く。フォーリオの街にもギルドはある。

 大抵はこの街の人々の手伝いや、困り事を解決するものだが、中には討伐部門といって近隣の集落、村、街の人々から寄せられた魔物討伐願いも含まれる。


 討伐以来は採集などに比べて危険度があがるが、その分報酬はいい。小遣い稼ぎ目的であれば、年頃の青年ともなれば討伐部門を受けることが多かった。


 ギルドに来てみれば、この街のギルドの管理者である中年の男がレンに気づいて手を挙げた。


「お、レン。久しぶりだな。また討伐依頼(クエスト)か?」

「おう。なんかいいやつ入ってるか?」


 男は無精髭の生えた口元に手をやり、手元のバインダーの資料をぱらぱらとめくる。

 そこで一枚の紙を見て手を止めた。


「そうだなぁ〜、お。そういえば、これがあったな」

「これ?」

「おう!ほらよ」


 男に手渡された一枚の紙を受け取る。

 そこには“討伐依頼 西の森のルーキット10体退治”と書かれていた。


「ルーキット?」

「あぁ。ここら辺じゃあんまり見ねぇのにな。最近はなんでかはわからねえが魔物が増えててな」

「ふーん…。まぁいいか。これで頼む」

「あいよ。ほらこれがバングルだ」

「おう」


 ルーキットというのは小型の魔物に分類されるが、集団で生活をしており、襲撃をする際も集団で行われる。西の森は街道にも繋がっているため行商人が荷物を荒らされ、その際に怪我をおう事例が増えているらしい。


(ルーキットか。あんまりやる気は出ねぇが、まぁ仕方ねぇか)


 個々の戦闘力はほぼ無力といってよい。低ランクの魔物である。

 まぁ報酬はそこそこ貰えそうなので少し西の森まで離れてはいるものの、任務を達成すべくレンは西の森に向けて歩き出したのだった。


 一時間弱歩いて西の森にたどり着いた。

 そこで、レンは難なくルーキットを10体討伐しおえることができた。


「…張合いのない依頼(クエスト)だな」


 カチン、と剣を鞘に収める。

 さて、帰るか。

 そう思い、フォーリオに戻ろうと足を引き返した時だった。


 グオオオオオオオオオオォォォ…!!


「…っ!?」


 雄叫びのようなとてつもない咆哮が近くで響いた。

 思わず驚いて振り返る。

 咆哮により、森が振動して足場が揺れた気がした。


「一体何事だ…っ…?」


 恐怖心を感じながらも、つい好奇心で思わず声の聞こえた方へと走る。

 そこは森の少し奥に入った場所だった。

 そこで見たものにレンはまを疑った。


(…っ…!?…なんで、こんなところに、ラーガスが、)


 いるんだ。

 けたたましい咆哮は地鳴りのように鳴り響き、森は揺れる。鋭い牙に、鋭い瞳孔、立派な鬣を持つその獣はラーガスと言った。

 それはそれは凶暴で、並の冒険者では逃げる暇すら与えられない。後ろに後退り、走り気づいた時には身体を噛みちぎられているという。


 思わず腰が抜けそうになる。

 しかし、頭では警告をつげる信号がガンガンと鳴り響いていた。

 ここにいたらまずい。

 ___目が合った瞬間、死ぬ。


 レンの瞳に恐怖と動揺が浮かぶ。

 引け腰で、足をそうっと後ろに動かした時だった。

 パキッ。


「…っ…!!」


 足元で、枝が折れる音が鳴る。


(…………まずい、)


 そう思って、ラーガスに目を向けた瞬間だった。

 ラーガスの耳がピクリと動いたかと思うと、一瞬でレンの方を振り向き、瞳孔が開いた鋭いその目にレンが捉えられたのだった。


 レンの視線がラーガスと交わる。


(…っ…、まずい)


 もう、そう思った時には手遅れだった。

 ラーガスは地面を蹴ってレン目掛けて大きな口を広げて鋭い牙をむき出しにレンに飛びかかっていたのだった。


 ___死ぬ、


 ラーガスがこちらへ飛びかかってくるのさえもスローモーションに感じる。死の間際、走馬灯が走る時と言うのはこの様な状態なのだろうか。

 思わず、反射的に強く目を閉じる。


 しかし次の瞬間訪れたのは、身体を噛み引き裂かれた痛みではなく、剣が肉を引き裂いた音だったのだった。


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