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norn.  作者: 羽衣あかり
“幼なじみと少女”
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50.幼なじみ

 ある麗らかな春の日のこと。

 フォーリオと呼ばれる美しい山間部に位置した街で一人の青年がどこか不機嫌そうに顔を歪めてベッドに横たわっていた。


 彼の名はレン。

 フォーリオで生まれ育った齢15の少年だ。

 細めの体つきではあるものの、バランスよく鍛えられた身体に、まだ成長途中である身長。

 海のような髪色は涼やかで目を引く。

 そんな少年だが、彼は虫の居所が良くないのか眉を顰め軽く舌打ちをこぼした。


 レンは数ヶ月前のある日のことを思い出していた。

 それは去年の冬の日のことだった。


 この街の守り神と謳われていた国家騎士団隊長であるアランが、ある日魔物討伐の際に負傷した。

 その代わりに、騎士団はアランの怪我が完治するまでの間の代替隊長としてある一人の女騎士をフォーリオへ派遣した。

 それはソフィア・エヴァンズと呼ばれる冷酷な女騎士だった。


 そんな女騎士の非道なる噂を耳にしたのはたまたま街で見回りをしていた騎士の話を盗み聞きした事からだった。


 ___そういえば、今度隊長の代わりに来る騎士はあのソフィア様らしいぜ?

 ___ソフィア様…?…ソフィア様って…まさか!

 ___そうだ。自分の父親を見殺しにしたっていう冷酷無慈悲な女騎士だ。

 ___“鉄の女”で知られる騎士様か。…俺たち、無事で居られんのか…?


 そんな話が耳に入ってきて、知らない人物であるにもかかわらずソフィアに対する印象は最悪だった。

 その数日後、実際に新しい隊長がやってきたとの噂が一気に街に広まった。

 ある日、レン自身も街であまり見かけない女騎士を目にした。一目でそれが代替隊長のソフィアであると分かった。一瞬の隙もない。彼女の周りには常に緊張感と張り詰めた空気が漂っていた。

 “鉄の女”という異名さえも、しっくりときてしまったほどに。


 しかしそのまた数日後、街でとんでもない噂を耳にしてしまった。

 なんと、あの冷酷無慈悲な女騎士はノルンの家に泊まっているのだという。


(…一体あいつは何を考えてるんだ)


 状況が全く掴めないものの、気づけば足は街から少し離れたノルンの家へと向かっていた。

 とにかく早くあの女騎士をノルンの家から追い出さなければ、そんな焦燥感が胸を埋めつくしていた。


(…もし、あいつに何かあったら)


 焦りばかりが膨らんで、とにかく雪の森の中を必死に走った。

 そして久しぶりに訪れたノルンの家の戸を叩いた。

 出てきたノルンはレンを見ると驚いたように少し目を見開いた。

 とりあえず見る限りノルンにどこもおかしな所は無く少し心の中で安堵した。

 ノルンの後ろからはいつしかノルンの家に住み着くようになった狼が、警戒するようにレンを射止めている。


(…久しぶりに、見たな)


 驚くノルンを見て、思わずそんなことを思う。

 長く伸びた緩やかなホワイトブロンドに、雪のようにまっ白い肌。相変わらずその大きな瞳は宝石のように輝いている。


「…レン、お久しぶりです。何か私に御用でしょうか」


 すぐに平静を取り戻したノルンが淡々と述べる。

 そんな所も相変わらず、何も変わっていない。

 ノルンの瞳を真っ直ぐ見つめるとレンも淡々と要件を述べた。


「あぁ。ノルン、お前、ソフィアとかいう女騎士を泊めてるそうだな。もしその話が本当なら今すぐそいつをここから追い出せ」


 語尾を強めて、睨みつけるようにそう言い放ったレンにノルンは少しピクリと眉を顰めた。


 しかし結局、レンが何を言おうと、何度強く言ってもノルンが頷くことはなかった。

 終いには一歩も譲らないノルンに先に折れたのレンの方だった。

 そしてそんな女騎士が今では街の住人に慕われているようだった。全てが気に食わなかった。


 思わず無意識にもう一度舌打ちを鳴らす。


「レン〜!少し買い物に行ってきて頂戴〜。いるんでしょ〜?」


 すると階下からそんな声が聞こえてきた。

 母の声である。

 どうせまた夕飯の買い物を押し付けようというのだろう。

 心底面倒くさそうにレンは大きなため息を漏らし、身体を起こした。


「レン〜?」


 再度聞こえてくる声にレンはイラついたように顔を歪める。

 そして荒々しい手つきで部屋の入口に置かれていた剣を手にすると大きな音を鳴らして階段を降りた。


「あ、んもう!いるんじゃない!」


 階段下で母が顔をしかめる。


「…うるせぇな。今からギルドに行くから無理だ」

「うるさいですって!?こら!ちょっと待ちなさい!レン!!」


 母親の方をチラリと見向きもせず、レンは歩みを止めることなく家を出ていった。後ろから呼び止める母の声など聞こえてもいないように。


「はぁ…」


 ため息をついて頭にがしがしと手をやる。

 どうやら今日はついていないらしい。

 そんなレンの心情とは裏腹に頭上では太陽が燦々と眩しく輝いていた。



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